表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自縄遊戯  作者: とにあ
163/419

死に急ぐ君

使用お題ひとつ

 つれてこられた王都の夜は明るかった。

「ビオセ!」

「はい!」

 僕は呼ばれたらすぐに駆けつけなくてはいけない。

 僕の住まいは王宮そばの兵士の詰め所。

 僕の仕事は雑用と訓練。

 何人もの孤児がここで厳しい生活を強いられていた。

 それでも、ここには雨露をしのぐ屋根も、日に二度の食事もあった。

 走ることも雑用も武器の取り扱いだって、慣れていくものだった。

 ここでの生活を嫌がっている者も多いが、来れてよかったと喜んでる者も多い。

 魔族との戦争でたくさんの街が、人が失われたのだと教育役の兵長が語る。

 もし、魔族と、他国と争いが起きる時は僕らがこの命をもって国民を守るのだ。と、力強く兵長は語る。

 その時に目を泳がせようモノなら教育的指導だ。

 重いものを背負って走る。

 いざという時、人を連れて走れるように。

 鎧を身に付けていても機敏に動けるように。

 ここでの生活は戦いから生き延びた生活すらまだ苦しい人々から集めた税金なのだ。

 僕が今、ご飯を食べられるのも、屋根がある所で眠れるのも国がまだ存在するからだ。

 両親は、エディンの家族は苦労して税を納めていた。

 自分たちの食事を抜いても、僕やエディンを優先してくれた。

 そうやって支払われてきた税金が今、僕の食事になっている。

 エディンはおなかをすかせていないだろうか?

 僕より年下のエディンはきっとこんな生活には堪えられないだろう。

 でも、ここにいれば、エディンを守る力を手に入れられるかもしれない。

 だから僕は懸命に生きる。

「文字が読めたな?」

「はい」

 兵長の言葉に僕は答える。

 貧しく幼い子供に文字の読み書きを施す余力はここ数十年でなくなっていて、文字を読める人間は大人の中にも少ない現状だ。

 早くに亡くなった父は学者で、幾冊も写本を所持していた。

 非力だった父は故郷の村で文字や計算を子供たちに教える仕事をしていた。

 だから、簡単な文字の読み書きは早くから教え込まれていた。

「自分の名前と簡単な読み書きです」

 答えると兵長は満足そうに頷く。

「もっと、読み書きを使えるようになる気はあるか?」

 僕はもっと、父のように読みたかったし知りたかった。

「はい!」

 僕はこの返事の後、第二王子の護衛兼学友に選ばれたのだ。

 こぎれいな服。基本的な食事マナー。自分から言葉を発してはいけないというルール。

 僕以外の候補者も混ぜた数人で十日間の特訓を受けた。

 幸い、僕は合格者の枠に入れた。

 第二王子に気にいられたのだ。

「むやみに出されたお菓子を食べてはいけませんよ。食べてはいけないものが入ってることもありますからね」

「はい」

 第二王子はにこにこと無邪気な笑顔で小鳥に菓子屑を与える。

「はい。大丈夫ですよ。間違えないように覚えてくださいね」

「はい」

 王子はにこやかに賢くふるまう。

「王位を継ぐのは兄ですからね。私は国を守る力を、兄を守る力を身に着けるのです。ビオセ、どうか、私の剣になってくださいね」

 高い身分に生まれながら死に急ぐ君を、命を軽く受け止めている君を僕は守らずにはいられないのだと思う。

 秘密の話はいつだって夜が明ける前。

 目覚める時間に朝日を迎えながら王子は語るのだ。

「ビオセ、ダメですか?」

「いいえ、僕の命ならご自由にお使いください」

「ビオセ、自分の命を軽々しく投げ出しちゃいけないよ」

 笑う王子に僕はどこかほっと安堵を覚えていた。

お題は〔死に急ぐ君〕です。

〔地の文のみ禁止〕かつ〔キーワード「朝日」必須〕で書いてみましょう。

https://shindanmaker.com/467090

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ