最悪の雨
使用お題ひとつ
白や灰色の石の間から押し上げるように伸びる命が高みから落ちてくる水滴に項垂れ、道を行く旅人の足に絡みついていきます。
古い、雑草に負けて風化しそうな道を脇に枝を伸ばす大樹の陰に休むことを選ぶこともなく、旅人はときおり足を滑らせながらも進みます。
ただ、ひたすらに足を止めないその姿はまるで自らに苦行をしいているようにも見える姿です。
水滴は旅人のフードを音をたてて打ち、足元へと伝い落ちていっては石畳に広がる水滴に弾けていきます。
その音で旅人の切れぎみの呼吸はどこにも届きません。
旅人の疲労は動く足が重そうになっていくことにあらわれていても、歩みを止めないのです。その姿は自らを罰するかのようです。
その旅人の足が止まったのは森がひらけた瞬間です。
高みより降りそそぐ水滴を受け止める水の受け皿は濁った色です。
風に巻き上げられつつも落ちる水滴の音にも負けないほどに響く水の音がその他の音が存在することを許しません。
旅人は力尽きたように両の手をぬかるむ大地に落とします。
高みより落ちる水滴。荒れ狂う水面。
旅人は水底に沈んだ故郷の残骸を目にします。
誰も旅人の声を知りません。
誰もその思いを知りません。
旅人はそこに在った故郷にかえりつくのです。
お題は〔最悪の雨〕です。
〔一人称視点禁止〕かつ〔「歩く」描写必須〕で書いてみましょう。
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