侵略は唐突に
使用お題ひとつ
はじめての襲撃を受けた時、私は学校にいた。
襲いくる化け物たち。
みんな我先にと逃げ惑っていた。
ライオンに似た化け物がその前肢を振るえば、いとも容易くガラス戸が砕けた。
みんな、どこに避難すべきかすらわからなかった。
私は一人はずれて駆けていた。
早く帰ってあの子を逃してあげないといけないから。
幼い頃に拾ったトカゲさんはずっと金魚鉢の中。自由にしても生き延びれないかも知れないけど、生き延びれる可能性は高くなるハズだから。
何かに弾かれて繁みに投げ込まれた。
なにが起こったのかわからない。
瞬いた視界に黒い巨大なトカゲが立って、いた。
悲鳴も出なかった。
濁った眼差しが私に注がれている。
逃げられない。
逃してあげられない。
目を閉じた私に痛みは降ってこなかった。
『ほずみ!』
久しぶりに呼ばれた私の名前。家でも学校でも呼ばれなくなって久しくて。
誰が呼んだのかと目を開けた。
赤いトカゲが黒いトカゲを押し留めていた。
しなる尾は風を切って黒いトカゲを払い、ゴツゴツした頭部にきらめく青い目は隻眼。
尾の傷、隻眼、青い目ゴツゴツした頭部。
「……トカゲさん?」
頷きを見た気がして視界が滲む。
私は安堵で気を失った。
トカゲさんの名前はグットー。
グットーさん。
グットーさんは私を自宅に連れ帰ってくれた。
慣れた様子でテレビをつけてニュースがちゃんと流れたことに驚いた。
化け物、グットーさんの世界人さん達はこっちの世界でさほど長時間は暴れられないらしい。
慣れれば問題なくなるから、これからそれぞれ潜伏してこの地を餌場にする気だろうとグットーさんは推測を述べる。
人がたてられる防衛策に不安が過る。
武装は優れていても使う時間が必要なはずだから。
ニュースが死者重軽傷者行方不明者の人数を淡々と告げる。
頭部を喰われて身元確認に時間がという言葉を聞いて意識が遠のきかける。
襲われて窓から落下したり、人を庇って階段を落ち、犠牲になった人々も少なくないと憤りを滲ませるキャスターにフッと冷静さが戻った。
我先にと人を押し退け、突き飛ばし生き延びた人はきっと沈黙を守り尊い犠牲と言われるんだと思う。
私も見捨てて逃げた人間だ。
なにも言えない。
『ほずみ。どうしたんだ?』
にゅっと目の前に爬虫類の、トカゲの顔。小さくないことに改めて驚く。
『心配はないだろう?』
なにをもって安心してるのか、グットーさんが頭を撫でてくれる。
『この世界には魔法使いも、防衛組織も、魔法少女もいるんだからな!』
グットーさんの言葉に疑問符が飛ぶ。
そんなの創作世界じゃあるまいし、存在しない。
え?
グットーさん混同してる?
この情報はちゃんと伝えるべき情報だ。
グットーさんの誤解を解く事も、世界が餌場へと利用されようとしている事も。
でも、どこに伝えればいいんだろう?
それにグットーさんが酷い目に遭う可能性は低くない気がする。それは嫌だ。
『それにほずみはオレが守る』
グッとこみ上げる。
嬉しい。そして情けない。
そんな真摯な心を向けてもらえるほど、私はいい子じゃない。
それが悔しい。
私になにができるだろう?
トカゲの人外で、青い目と身体の欠損が特徴的。好戦的で人間に歩み寄りたい。独りぼっちの幼女に拾われます。
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