恋愛未満
使用お題ひとつ
雨はしずしずと降り続く。
窓のむこうは水滴にけぶって明瞭ではない世界。
寒さのせいか出た熱はじわりじわりと引かずままならなくももどかしい。
「トウセイさん、お水飲めますか?」
母の声に体を起こそうと腕をつけば、横になっていてと促される。
「ごめんなさい」
困ったように母は微笑みを浮かべる。
「トウセイさんは私の体質を引き継いでしまったのね」
撫でられて甘やかされて申し訳ない気分でいっぱいになる。
両親は姉にも僕にも好きなように生きなさいと言ってくれる。
遠い親族の持ってくる縁談を全て断りながら。
「それで、トウセイは気がひけるって言うのね」
幼馴染みのリンちゃんはサクリと言葉を投げる。
「うん。なにもできないから」
さらりと流れる髪は薄い茶色。長めのまつげの奥の瞳は僅かに緑の差し込む黒。
くるりとティースプーンを回してつまらなさそうに肘をつく。
「大丈夫よ。夢を実現させる努力をしてるでしょ」
「うん。したいことをさせてもらってる。みんなが凄いから黒字経営なんだよ」
それがとても嬉しい。
みんな凄いって思える。
「変わらないね」
「え?」
いきなりのリンちゃんの言葉になにを失敗したのかわからない。
「機会を作ったのはトウセイよ。みんなの中に自分も入れなさいよね」
え?
「でも、ちゃんと手伝えてないんだよ。ムサシさんやみんながね」
「……トウセイが、はじめなければ、この成功は、ない。の。わかる?」
区切って区切って言われる。
きっと僕が望まなくてもはじめなくても、みんなならきっと他に成功していたはずなんだと思うんだ。
みんなは凄いんだもの。
「あのね、トウセイ」
「うん」
「きっかけってすごく大事。実力を示してから成功を続けて実績を積み上げることは凄いわ」
リンちゃんの言葉に頷く。
「だからこそ、最初のきっかけかすごく大事なの。最初の実績がなければ成功を予測しようにも賭け成分が高くなっちゃう」
きっとそれはそう。
「だから、できるってみんなを信じたトウセイも凄いし、この黒字っていう成功はみんなを選んだトウセイの成功でもあるの。他人事にしないで、自分の成果として喜びなさいよ」
「いいのかな?」
だってなにもできてないのに。
初期費用は親が準備してくれたし本当になにもできてないのに。
「いいのよ。トウセイが給料を払う手筈を整えてなければ、タマキさんなんかは自立できずに叔父様夫妻の元でニートだったんじゃないかしら?」
軽やかに笑われてホッとする。
「ハリーだって入籍したり面倒を終わらせたら、バイトしてもらってもいいって話てるんでしょ?」
先回りして予想を立ててしゃべるリンちゃんに僕は頷く。
「うん。すごいね。どうしてわかるの?」
惚れ惚れする。
「……トウセイなら、そうしそうって思うからよ」
「手配は多分ムサシさんに頼むんだと思う」
「得意な人が得意なことをするのよ。トウセイの得意は人を選んで仕事を用意することかしら?」
「ウェイトレスとか補助要員はいた方がいいかなって思ってたから。タイミングが良かったんだよ」
屋上温室の手入れも手伝ってもらえて調理も出来て、書類整理もしてもらえる。万能アシスタントだと思うんだよね。これでムサシさんの負担が減ればいいかなっとも思う。
ふわりとリンちゃんが微笑んでいてどきりとする。
「みんなに追いつけないならせめて隣にいたいんだ。届かなくてもいいから、隣で見ていたいんだ」
ちょっとワガママかもだよね。
「大丈夫よ。トウセイはちゃんとみんなと同じ場所にいるわ」
それで、いいのかな?
本当にそうかな?
「あ。もうこんな時間。帰るわね」
「あ。うん」
「あのね、トウセイ」
帰り準備を終え椅子から離れたリンちゃんがこっちを見ていた。
「トウセイの自信のなさは卑屈にも見えるわ。もう少し自信を持ってよ。大丈夫だから。じゃあ、またね」
自信を持つってどういうことだろう。
だってなにもできないのに。
「もうこんな時間」「変らないね」「せめて隣にいたい」という3つの台詞を盛り込んで、友情のお話を創りましょう。
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