召喚
使用お題ひとつ
フード付きのローブを身にまとった人物が手を差し伸べてくる。
狼の刻印が刻まれた宝珠が腰の飾り帯にぶら下がっていた。
それが私にある一番古い記憶。
その前の事は記憶に残っていない。
「飯を作れ」
外れたフードからこぼれる灰色の髪。髪に紛れるようなふわりとした三角が返事を待つように揺らいでる。
彼女に『召喚』された私は彼女の期待に応える。
はじめは苦労した厨房作業も随分と慣れた。私の世界は彼女だけ。
「オレは、腹が減ってるんだ」
笑いを堪えて厨房に向かおうとすれば抵抗があった。
ローブの端から伸びた手がそばにいろとばかりに服裾をつかんでいる。ときおり彼女が見せる不思議行動。
私は彼女に召喚された生き物で、自分がなにかわからない。
彼女にとって私は異形だろうに気にとめない彼女。
異なるモノは嫌だよねと問えば、彼女は大きな琥珀の目でぎょろりと私を確認した。
「同じ魂を持つ命だろう?」
わからない私に彼女は難しい表情。
「同じに生きてるだろう?」
だって、私は異端が廃されるものと知っている。
記憶はない。
彼女と出会ってから私ははじまった。
彼女と出会ってそこから私の一がはじまったのならどれほど良かっただろう。
私の知識は、彼女と異なる。私の世界は彼女と異なるという事実がもたらす切なさ。
ぎゅうっと彼女の手のぬくもり。
「オレはおまえが好きだ。オレはおまえから過去を奪った。オレがおまえを異端なるモノにした。それでも、オレは、おまえを還す方法を使えん」
彼女が気に病んでいるふうがあるのは知っていた。
「オレはおまえが必要だ」
顔が赤くなるような告白。
本気にしちゃいけない。
「おなか、すいたんだよね?」
「飯を作れ」
顔がほころぶ。
「仰せのままに主人様」
「一巡り前におまえを喚んだんだ」
彼女がモゴモゴと告げる。
窯の外側に貼り付けて焼いたパンを齧りながら聞く。
「オレはおまえを伴侶だと思ってる。だから、セトナと呼べと告げた。だから、だから、おまえは異端ではない。オレのセトナだ」
『オレのセトナ! オレはおまえのセトナだからセトナと呼べ!』
差し伸べられた手が強引に私の手を取った。
使い魔と主人の関係だと思っていた。
何もできない使い魔を呼び出してしまってさぞかし不満だろうと。
常に『セトナだからな』と彼女はその負担を背負った。
私はそれを使い魔の不始末は主人の責任だからだと考えていた。
その世界が崩れていく。
「オレはおまえを還せる。オレはおまえのセトナか?」
狡いだろう。
彼女は狡猾な狼。
「あなたは私のセトナですよ」
それ以外は考えられない。
ふわふわと髪が盛り上がってる。
パンを頬張る頬が赤く染まっていた。
「あなたは私でいいのですか?」
意味をもっと早く知りたかったとも思う。
「オレはおまえでなければ嫌だ。おまえには還るかオレかしか選ばせん」
私はきっと真っ赤だろう。
奪われたのは過去だけじゃない。
きっと未来もなんだろう。
「名前を呼ばせてくれますか?」
どうか、名前を呼んで好きだと告げさせてください。
狼、ローブ、握手が入ったハッピーエンドのお話を書いて下さい。
#三題でハピエン
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