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自縄遊戯  作者: とにあ
125/419

『プロポーズしました。断られました』②タカノブ

「ほら、着替え」

 タマちゃんに差し出された紙袋。

「悪かったな。いきなりバイトを休むわけにいかなかったし、ハリエットも時差の関係か、寝ちまったし。お前らなら大丈夫だと思ったんだ」

「えっと、タイミング悪くって」


 気がついたのは夕方だったか。

 柔らかな布団の中で寝返りをうつ。

 甘い匂いはシャンプーだろうか?

「起きたか」

「先輩……」

「まぁ、一種の事故だな。お互いに子供じゃない。気にするな」

 血の気が一気に引いた。

 なにをしてこの状況がある?

 軽食を準備しておくと言ったタマちゃんの言葉に先輩を誘って帰った。

 バスタオル姿の女性が悲鳴をあげた。

 先輩にタマちゃんのオモイビトと言われて頭が回らなかった。

「聞いているか?」

 先輩の声に先輩を見上げる。

「俺、ちゃんと対処してません」

「まぁ、いきおいだったしな。病気はないはずだ。タカノブは?」

「……ないはずです」

 気不味い。

「問題が起きたらちゃんと伝えるし、あまり重く考えるな」

 問題……。

 そう。何の対策もとっていない。

 対策をとっても確実なんてない。

「結婚しましょう」

 沈黙。

 沈黙。

 それしか選択肢はないと思う。

 沈黙。

 沈黙。

「は?」

 先輩がどこか気の抜けた音を立てた。

「これしか、ないと思うんです。安全策なんてないでしょう?」

「ふざけるな」

 先輩の眼差しがキツい。

「ふざけてません」

 そう。ふざけてはいない。

「完全な安全策はなく、予防手段も怠った。結果に対して『わかった』時では遅いと考えます。それに、それに関して負荷を負うのは、女性なんです」

 社会的な評判も信頼も、身体的な負荷もハンデも。女性には不利な世界だ。

 先輩だってそれはわかっているはずだ。

 もし、その噂がもれれば彼女の立場はマズイ。

 表面上は普通でも、人の目は変わる。

 影で囁かれる言葉など気にしなければイイと笑えても実際に気にせずにいくのは辛い。

 先輩がそんなことになるのは嫌だ。

 悲観的な考えなのかもしれない。

 だけど、楽観的でもいられない。

「一夜の出来事で私に若手の芽を摘めと?」

 苛立たしげにそんなことを言う先輩に摘んでください。望むところです。と、言ってしまいたかった。

「確かにまだまだ半人前です。下手をうてば挫折して役に立たない未来だってあるでしょうね」

 知らないことは膨大で知るべきことは山積み。潰れる気はないが、可能性はいつだって横に寄り添っている。

「イエが面倒をみてくれるさ」

「そうかもしれません」

 父の実家は手を差し出してくれるだろう。仕事が出来なくても生活に困らない環境をくれるだろう。

 でも、それを正しいと思えない。逃げ道だと感じる。

「タカノブはまず自分のことだけを考えるべきだ」

「自分が正しい、イイと思える意見ですよ?」

「……頭を冷やせ。冷静になれ。ちゃんとリスクをわきまえろ」

 玄関のチャイムと空腹の音でこの会話は中断された。





「プロポーズしました」

『へぇ。おめでとう』

「断られました」

『は?』

 タマちゃんはハリエットさんを連れて養父母でもあるおじいちゃんの弟さん夫妻の自宅に向かったし、先輩とはどう接していいかわからなくて、ミコト先輩に電話した。

 物心つく前からの幼なじみの一人はアニキ風を吹かせて思考をまとめる手伝いをしてくれる。

 なんのために今の道を選んだか。

 なぜ、ナツキ先輩が特別なのか。

 なにを伝えるべきなのか。

 ため息がこぼれる。

 どうして受け入れてくれないのかと感情的になる前に、自分のことより、俺の将来を危惧してくれていたことに感謝すべきだったのに。

 それでも、どこかで『ナツキ先輩』のことを心配したのに。と考えている自分がいる。

 俺の将来より優先してやったという考えだったつもりはない。それでも、そう、それでも、そう受け取られる行動を起こしたんだろうと思う。

「お、おかえり」

「ただいま。父さん」

 ひと月ぶりに顔を合わせた父さんは相変わらず朝出かけたのを迎える調子で迎えてくれる。

「おかえりなさい。お夕飯は?」

 飼い猫を抱き上げながら母さんが言葉をくれる。

「ミコトさんとこで食べてきた。ありがとう。でも何かつまめる?」

「ええ。わかったわ」

 階段を上って、かつては曽祖父の城だった部屋。

 譲り受けた自分の部屋で足を延ばす。

「女のひとって、難しい」

「まぁ、未知の存在だな。だからこそ魅せられる。で、どうした?」

 トンとドアにもたれた父さんが声をひそめて尋ねてくる。

「また、お客さんにコナかけてるの?」

「美人やかわいい子に当然の称賛を贈っているだけだ。気を楽にしてもらうにはいい戦法だぞ? 対人には変わらないんだから気持ち良くいてもらうことも大事だろう?」

 妻や娘には形だけとはいえ、ブーイングを食らってるのに変わらないなと思う。

「好きな女性ヒトがいるんだ」

「ほぅ、美人か?」

 いつも通りの父さんについ笑いがこぼれる。

「うん。美人。かっこいいしね。年上のヒト」

「年上か、なかなかもえるな」

「プロポーズして断られた」

「嫌われてるのか?」

 ストレートだよ。父さん。

「たぶん、まだ嫌われてはいないと思う。でも選ぶべき言葉を間違ったんだと思う」

「どうしたいんだ?」

「好きだってわかってもらいたい。一緒にいたいって」

「あまりしつこいと嫌われるぞ」

「好きだって伝えてないから」

「……難しいぞ」

「ちゃんと一度伝えたら、少し距離を持つ。そうしたい」

 ホントははなれたくない。

 きっと、独占したい。

 振り向いてほしい。

 女の子ってわからない。

 わかってほしいと言うから理解しようとすると「そうじゃない」って怒る。

 そっとしていれば、「私のことどうでもいいんだ」って結論を急ぐ。

「どうせ、理解してくれないでしょ」と諦観を感じる眼差しに傷ついても自業自得と切り捨てられる。

 守る生存本能。

 不適切と思われれば切り捨てられる。

 性差によって生じる差異。

 環境によって生じる差異。

「女の人って難しい」

「理解出来ない。一生挑戦だろ」

 父さんがそう言って笑う。

「産まれた時から知っているが、いつまでたっても理解出来ないからなぁ」

「妹達も未知の領域だよね」

「そうだな。だからかわいいんだがな」

 でれりと父さんの表情は緩んでる。

 マユがイッセイとちゃんと付き合うようになったら泣きそうだなぁと思う。





「ナツキ先輩」

 時間を必死に合わせて呼び止めた。

 迷惑そうな表情が辛い。

「ナツキ先輩が好きです。俺は、言い訳が出来たことを喜んだんです。先輩を手に入れる大義名分が出来たと。きっと、距離を近く持てば、押しつけてしまう。どうして伝わらないんだって責める眼差しを向けてしまう。先輩が悪いんじゃないのに。俺はまだ未熟すぎる。理解していても、割り切れてはいないんです」

 一気に一気に伝える。

 視線を合わせたい。

 こわくて合わせられない。

 沈黙。

 反応がない。

「好きだってだけで答えがいつだって出せる訳じゃないんだよ」

 先輩の声は静かに突き放す声。

「でもな。ありがとう。私も好きだよ。プロポーズは受けられないがな」

 続けられた言葉は少し優しい気がするがそれでも厳しくて。

「はい。それでも、好きでいていいですか?」

 今、追うべきなのか、距離をとるべきかはわからない。



後輩男子と女性魔術師のカップルで、寝室のシーンを入れたハピエン小説を書いて下さい。

#ハピエン書いて

https://shindanmaker.com/5

がんばれタカノブ

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