『プロポーズしました。断られました』①ミコト
『プロポーズしました。断られました』
「は? ん〜、ウチおいでよ。話聞くから」
「どーしたの。ミコトにーさん」
弟がクリスマスプゼントを調べながら聞いてくる。
新しいエレキギターだったか、末の弟はそういうものを好む。
父親は、買い与え過ぎもよくないと言う方針だけど、音楽好きな大伯父や金銭感覚が少しずれた親類が甘えられるままに与えてしまうことを当の本人はよく理解している。
ただ、それが学生時代までというのも理解しているらしいのが救いだろうか?
「タカノブ、来るから。俺の部屋、寄るなよ?」
「おっけ……トレバーも?」
「恋愛相談中って。あ、盗み聞きはダメだからな。やったら音楽室占拠して鍵かけるぞ」
「占拠されたら練習できねーじゃん!」
「手入れしとけよ。マコトにさせてばっかりだといざって時に時間くうぞ?」
不満そうにふてる顔を見つつクリスマスの料理の残りを皿にのせる。
クリスマスから年始にかけてはそれぞれの予定で忙しかったりすることも多いので、料理は個々に食べられるように準備されてる。
自宅掃除組は昼と夜は揃ってがルールだ。
「ちゃんと自分でも手入れしてるしー。なー」
シンリが同意を求めつつ振り返る。そこにはタカノブを連れたマコトがいた。
「ただいま。タカノブさん拾ってきたよ」
上着をお置いて戻ってきたマコトはシンリの横で説明書を開いている。その様子を見つつ、俺は紙パックコーヒーをタカノブに持たせて部屋に移動する。あれじゃ、やっぱり本気の手入れをするのはマコトだろう。
「お邪魔してます」
「大丈夫か?」
除菌シートを差し出しながら聞く。
散らばった本を寄せてタカノブは適当に座る。
「あー、整理中、掃除途中な」
部屋の散らかりっぷりを誤魔化しながらタカノブを見る。
それはどこか追い詰められて見える。
「プロポーズしたってお付き合い進んでたんだな」
トレバーのことや家族にどう報告するかで悩んでたから、周囲への情報収集がおろそかだったかぁ。タマキも教えてくれればいいのに。
「……ない……」
「タカノブ?」
「付き合いは先輩と後輩。かわいがってもらってるのは確かだけど」
はい?
しょぼんと凹んでいるタカノブを見下ろす。
「プロポーズ?」
つきあってもないのに?
「それは、まずおつきあいしてからだろう?」
さすがに飛ばし過ぎだろう。
「それは、その、えっと」
妙に気まずそうなタカノブ。
「それは、そこにもっていくよーな状況があったってことか」
茹であげたように耳の先まで赤い。
トレバーとソフトキスとハグまでしかできてない俺の前でコイツ……。
「好きだって伝えたのか?」
ピタッと動きを止めて黙り込む。オイオイ、伝えてないのかよ。
「好きじゃなきゃしない……いくら酔ってて動転してても」
「酒の勢いでプロポーズ!?」
バカじゃね!?
「ぜんぜん追いついてないんだ。目指す先に彼女はいてさ。でも、好きだって伝えてないのは失敗だよね。ついさ、知られてる気になってた。そうだよな。わからないよな」
「おう。好きだけでも真っ直ぐ伝わらねーこともあるしな」
トレバーに好きだって言っても基本は『家族としての好き』だと思われてたからな。
ただ、そこに甘えてた部分もあるけどな。関係壊したくなくて。
「好きなんだろ?」
タカノブは頷く。
「だから、追いつきたかった。もう少し近くにって」
先輩と新人じゃ差があって当たり前だろうな。
「先輩に追いつきたくてがんばんの?」
タカノブは時々悩むし迷う。
一生懸命にやってやってることに複数の目標が含まれるってある事で、そうすると一番大事なコトが紛れてしまうこともある。
俺だって迷う。
今の勤めが楽しいしやりがいがある。
でも目的は自分で水族館を。だから。
「技術は追いつきたい。その先を身につけたい。より命を助けたい」
タカノブの家は代々の医者の家系で医者になる事を父方の祖父母に望まれて育った。
タカノブの父がそのレールから外れて獣医を選んだから。
それでも直系の男子はタカノブだからとかけられる期待が重圧だったんだろう。
それでも、タカノブは医師を選んだ。
人を、命を助けたいから。そう選んだ道だ。
多分、こいつはそこから逸れてもそこから関わることを止めることができるタイプじゃないと信じてる。
「すごいから惹かれるの? 先輩だから?」
「違う。技術もその在り方も尊敬してる。そこに惹かれていないって言えばウソだけど、すごい人はさ、たくさんいる。尊敬できる人はたくさんいる。でも、先輩は、ナツキ先輩は特別なんだ」
じゃあ次は彼女に対する想いを確認。
「特別な女性? えーと、ハジメテの女性だから特別?」
「そーいうわけじゃ!」
コンッ
ノックの音。
「ミコト、開けるぞ」
え? 叔父さん!?
ぅわっ。
ドアが開く。
「ッおとーさん、トリビアをお嫁さんにください!」
はぁと呆れた音が聞こえた。
「ミコト。お前なぁそーいうことはトリビアと一緒に言えよ。それにくださいじゃないだろう」
あれ?
違ったっけ?
「二人で幸せになるから見守ってください。だろ?」
叔父さんの声は呆れてるけど優しい。
うん。
きっと、そう。
「トリビアとミコトが選んだなら反対はしない。ただ、な」
ただ?
「兄貴が伝えてない可能性があるから一応な」
父さんが?
叔父さんはチラッとタカノブを見て、まぁイイかとばかりに頷く。
「ミコトには潜在的な疾患があって、それは表面化しない。でも、遺伝するものだ」
浮かれる気分にかかるもの。
妹は、いまだに薬を手放せない。
俺は症状と対策だけ知っていてどういうものか詳しくなかった。
子供の頃、一緒に検査を受けた気がするのに。
「それに、トリビアのトラウマもかなり根深いから、しっかりふまえてないと傷つけあうことになるよ」
ただ、好きだってだけじゃダメなんだ。
でも。
「ありがとう。二人でちゃんと話すし、父さんにも確認する」
「そーしろ。邪魔したな」
叔父さんがにやりと笑う。
「ま、頑張れ若人」
「ありがとうございます」
タカノブの言葉に叔父さんが目を瞬く。
「ミコトもありがとう。いったん実家に帰って頭冷やしてみる」
「お、おう」
なんでまとまったのか、わからないが、
「まとまったなら何よりだ」
叔父さんに頭を下げてから出ていくタカノブを送り出す。
さぁ、覚悟を決めて、
「トリビア、俺には病気があるらしくて」
「知ってるけど?」
なんで!?
後輩男子と女性魔術師のカップルで、寝室のシーンを入れたハピエン小説を書いて下さい。
#ハピエン書いて
https://shindanmaker.com/5
さぁハピエン到達目指すぜ
がんばれタカノブ!




