階段告白
使用お題ひとつ
マユさんに『好き』と告げられたのは中学三年生の冬。出入りしてたライブカフェへの階段で。
学年も同じで小中と同じクラスだったこともあったけれど、接点は少なかった。
ずっと好きだったと言われてもよくわからない。
女子にしてはすらりと高めの伸長。いつだって背筋を伸ばしてのびやかに、ちょっと大雑把な動きで。クセのない黒髪がその動きに合わせて踊る。
どちらかというと華やかな女の子。
親友は「めんどくないなら付き合えば?」とヒトゴト他人事。
「練習時間減るよ」と伝えれば、「じゃあダメ」ってあっさり拒否。
僕もシンリも外面は穏やかに人当たり良くを目指してる。
その方が摩擦が少なくて楽だと知ってるから。
だからかな。
マユさんみたいに真っ向から好きって言われると動揺した。
「イッセイはあーゆー元気っ子がタイプなんだ〜」
それを繰り返すうちにある日ニヤニヤ笑ってシンリがからかってきた。
ムッと睨んでもシンリは気にせずカタログ誌をめくる。シンリにとって興味の優先度が低いのがわかる。
「シンリさんはタイプじゃないんですか?」
「ボクは母さんみたいに可愛くて強い人がタイプなんだよ〜。マユはちょっと違う感じ」
マザコン宣言しながら心配しないでとばかりに笑う。意味がわからない。
「あ、マコもマユはタイプじゃないから変な気は回さないよーにね」
なぜ、その発言チョイスですか。
マコト、シンリ、僕で物心つく前からの幼なじみ。いつも三人か、二人かで遊んでいた。
シンリは歌が上手な母親が大好きで、その歌好きも女性のタイプも母親に起因してると自覚しているらしい。
末っ子で甘え上手で、双子の兄であるマコトのことだってあっさり手玉にとってしまう。「マコはボクのお願いきくの好きだから問題ないの」なんて普通に言い放つ。マコトは少し困った感じにそれでも笑って肯定する。
「マユとデートなんだ。ふーん。オンナのコはお揃いとか、記念とか好きだと思うよ?」
「記念……」
「あ、気にならないくらいにささやかだとなお良しだと思うな。豪華過ぎたり大きすぎたりすれば気がひけるだろうし。イッセイは優しいから普段通りでいいし」
ローラーブレードを磨きながらマコトの助言。
何故だかイラッとする。
しばらくして気がつく。
マユさんは僕やシンリのコトは『くん』と呼び、マコトのコトは『マコ』と愛称呼び。
僕に対する接し方よりずっと近しそうで、答えない僕より『マコが好き』なんじゃないかと邪推していたみたいだった。
つまり、嫉妬。
僕はいつからだかマユさんのコトを好きになっていたらしい。
「マユってトノのイモートだよねぇ」
姉が干し芋かじりながら写真データを盗み見してくる。
「タカノブさんですか?」
「うん。トノ」
姉はタカノブさんと同じ歳。
そして姉は我が道をいくタイプ。類友というか、周りにはこう自分の道を突っ走る人間が多い。両親もそうなのでそんなものだと思っている。
「トノがこないだデレデレしてたよね」
「知りません」
「あー、いなかったか。知っとこう」
そんな無茶を言いながら僕が扱ってるタブレットを横からペタペタ触ってくる姉。
横というか、上というか、体重が頭と背中にかけられて重い。
いい歳してやめろと言いたい。
「そう、このオンナ!」
止まった画像はタマキさんの先輩女性。タマキさんをサプライズに連れ出ししたいと頼まれた。マユさんはサプライズキューピッドだとはしゃいでる。階段でぴょんぴょん跳ねてとても可愛かった。マコトもシンリもカレンさんもいない二人っきりですしね。
マコトが「あぶねぇだろ」と僕に抱きつく寸前のマユさんを叱った。今度があったら先に注意しようと思う。他の人にそんな可愛いとこ見せちゃいけませんよね。
「それはタマキさんのお友達」
確かにタカノブさんに好意的だし、タカノブさんも好意的だ。
もしかしてもあるのかもしれない。ただ、年齢の問題があるけど。後継者問題を思えば、若い方が好まれるだろうから。
「ばっかねー。マユちゃんとあんたが付き合うんなら将来身内かもしれないじゃない。できれば弱味は握っときたいわよね」
やめて、姉。
姉の中でタカノブさんとタマキさんのお友達はすでにカップル認識らしかった。『焦れ焦れ萌え。ヘタレだもんね』って、それがタカノブさんの評価ですか、姉。
中学三年で告白されて、それからこっちずっと『好き』と伝えてくる少女を意識しないではいられない。
「うっとおしいんじゃね?」
そんなことを言ったのはシンリ。
マユさんは部活にもついてきて、気がつけばバンド活動にも混じってた。
八つ当たりで「ホモ」呼ばわりは参ったけど、それ以外には常に好意の眼差しが注がれる。
それはじわじわずるずると侵食されるのはこわくもあるけれど心地よくて。
つい、マコトの言うマユさんの好感度行動をとってしまったりする。
それは嬉しい半面、腹立たしい。
マユさんの笑顔や嬉しそうな顔は嬉しい。
それが自分一人で引き出せなかったことが悔しい。
そう感じてる自分に気がつけば、歯止めがなくなる。
焦れる暗い焔が心の底で揺らめくのを感じる。
その想いに明確に応えることなく、希望をつながせて、他を見たりできないように。
マコトやシンリにすら笑顔を振りまく姿をいやだと思ってることなんか気がつかせないように。
タカノブさんやタマキさん、そこに向ける甘えた表情にすらイラつくことに気がつかせないように。
階段で手をひいて速度は大丈夫かと思って振り返ればマユさんが泣いていて。
誰にも見せないように閉じ込めたくて仕方なかった。
だから「泣かないで」それしか僕には言えない。
『僕と二人っきりは嫌ですか』なんて聞くわけにはいかない。どう答えられてもきっと歯止めがきかなくなる。
きれいな涙で笑うマユさんから目を離せなくて見つめてられなくて。
できるだけマユさんから視線を外して意識をそらす。
握った手のひらが痛い。
「イッセイくんが大好き」
涙に濡れた笑顔は誰よりも綺麗で可愛い。
寸止めで答えは止められて。ほっとする僕がいる。
キーホルダーをおそろい普段使い。
それは君は僕のものというマーキング。
僕は知っている。
まだ、早い。
同級生の男性とがんばる女子のカップルで、階段のシーンを入れたハピエン小説を書いて下さい。
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マユたんゴーゴーの裏で




