ハッピーエンドに限らない②
使用お題ひとつ
『イッセイ君が好きです!』
『えっと、君、だぁれ?』
そんな会話が聞こえて俺は慌てて身を隠す。
階段を駆け上って去っていくのは中高生であろう少女。微妙に見覚えがあるが、地元だしな。
「感じわるーい」
からかうように上がってきた少年に声をかけてみる。
「だって、知らないですから。たぶんクラスの女子な気はするんですけど」
そう言って自分は悪くないと肩をすくめて見せる。
知る限り、イッセイは男友達とはしゃいでるのが楽しい年頃らしく、どれだけモテても興味なさげだった。
「イッセイ、店長が親の許可出たらクリスマスライブ聴きにきていいって!」
後ろから駆けてきたシンリがご機嫌でイッセイに飛びつく。
俺に気がついてパッと破顔。眩しい笑顔だ。
「いーでしょう」
「受験大丈夫か? ちゅーぼー」
親友同士な二人は口を揃えて「息抜き!」と笑う。
「どうしたらいいんでしょう。彼女の問題だとは思ってるんです」
それは数日後の同じ階段で、イッセイは困っているようだった。
話を聞けば、先日の少女が隙を見てはアタックをかけてくるようになったらしい。「知らないなら知って」と。
行動的だな女の子。
「嫌いなら断ればいい」
「そんなことを決められるほど、彼女を知りませんし、受験前ですから……」
と言葉を濁す。
これ以上傷つけたくないというところか。
「シンはほっとけばいいって言うんですけどね」
時間を取られて友人として苛立っているんだろう。
友人の弟であるシンリはどちらかというと我儘な少年だから。
「イッセイはできれば、傷つけたくないんだよな?」
イッセイはこくんと無言で頷く。
受験に友人と好いてきてくれる子の間の板挟みか。大変だなと思う。
「それに好きとか、恋人とかってよくわからないし」
「それなら新曲ライブとかの方が」
「絶対、イイよ!」
パッとテンションが上がる。
最初はシンリの趣味に幼馴染みの義務的に付き合っているのかと眺めていたけど、本人も間違いなく好きなようだった。
「だから、時間とられんの困る」
そっともれた言葉は子供っぽい拗ねが多分に含まれている。
「じゃあ、そう伝えてみろよ」
提案した俺にちらっと上目遣い。
「だって、マユさんってタマキさんの姪っ子ですよね。イイんですか?」
そんなセリフを聞いたのは二年前だったか。
え、俺の言葉?
もちろん、「人の姪泣かす気か、イイ度胸だ」だけどな。
そーか。あれ、マユだったか。どっかで見たようなとは思ったんだ。
姪にもちゃんと受験終わってからにしろと伝えた。
「タマちゃん、今度のライブ衣装似合う?」
ブイっと階段から見上げてくるのは姪っ子のマユ。友達のカレンちゃんが一歩後ろで笑ってる。
「なぁ、高校では家庭科部じゃなかったか?」
軽音部じゃなくて。
「家庭科部だよ〜。だから、衣装も手作りさっ!」
ミニスカートひらひら。
自分の手作りでもないだろうに得意げな様子に微笑ましく思う。
「マユ、カレン、そのカッコで外気あるとこ出たらダメだって風邪ひくぞ!」
少年の乱暴な声で注意が飛ぶ。
「マコ、うるさ〜い。ねー、カレン」
「ちょっと寒いし、戻ろうよ。マユちゃん」
マユと比べれば一枚上に羽織ってる少女がマコと呼ばれた少年の後押しをする。同意を求めたのに拒否されたことには少し膨れたけど、それほど反発を覚えてもいないらしいマユは笑っている。
「しかたないかぁ。リハ頑張るぞー」
はにかむように笑って「終わったらイッセイくんをクリスマスデートに誘うんだぁ」と笑う姪っ子。現在の立ち位置はお友達だ。
ライブのリハの様子を覗けば、歌の伸びや振りについて言い合ってるイッセイとシンリ。
それぞれのこだわりをぶつけ合う。
学校では家庭科部所属のおとなし系男子と定評らしい。嘘つきどもめ。
隅を見れば、マコトが小さく手を動かしていた。
「出来た! イッセイ、袖通してみて!」
衣装に手を入れてたらしい。
動きに問題がなさそうなのを確認してとても満足そうだ。
普通頑張るならここじゃないのかマユ?
女子力負けてるぞ?
「さすがイッセイくん、カッコイイ! 大好き!」
そして、マユの「大好き」はいつものこととばかりに流されている。ダメじゃんマユ。
「あのね、タマちゃん、マユは小学校の時からイッセイくんが好きなの」
大好きがスルーされてるとマユをからかうとマユは真剣な表情でそう言った。
「見てるだけじゃ気がついてもらえないの」
だから好きだとアピールをはじめたのだとマユは言う。
イッセイが好む音楽は中学校最後の冬に俺が教えた。
それまで知りもしなかったらしい。
「マユがイッセイくんを好きなのみんな知ってるから、イッセイくんに近づく女の子も少ないんだよ」
いじらしい頑張りに涙が出そうだ。
「自分の好きなものをないがしろにしてるんじゃなきゃイイけどな」
俺の心配にマユが笑う。
「そんなことしてないよ! マユはイッセイくんといてイッセイくんが好きなものに触れてマユもそれ好きだって思えるのが嬉しいんだよ。一番好きなのイッセイくんだしね」
笑うその表情は眩しいくらいまっすぐだ。
「マユさん、送るよ」
「うん。イッセイくん、今行く! じゃあね、タマちゃん」
「おー、またな」
「カレン、送ってやる」
そんな無愛想な声が聞こえた。
「一人で帰れる」
それを容赦なく切り捨てるカレンちゃん。
「もう暗いだろ」
「そんな距離ないし」
マコトもカレンちゃんも譲らない。
「ミズシナさん、途中まで送るよ。遠回りしたい気分だし。マコにーさんもそれでいいだろ?」
見かねたシンリが断りにくいことを言って笑う。
あそこはあそこで三人で帰るらしい。
フッと着信を見れば目につく未開封メール。
開ければきっと過去が開く。
俺はそれを見ることができるんだろうか?
「イッセイはマユのことどう思ってるんだろうなぁ」
「一線を守ってくれてるんならいいと思うよ?」
そう言うのはタカノブ。兄がそういうならしかたないかなとも思う。
「クリスマスどうすんの?」
夕飯の準備もあるし尋ねておく。
「……先輩と宿直」
「じゃあ朝食用に二人前あっさり系を準備しといてやるよ」
「ありがとう。タマちゃん」
自室に戻って受信メールに向き合う。
開いたメールに視線と思考を落とし込む。
懐かしい懐かしい彼女の香りを感じるようだった。
謝罪と安堵と怒りの混じったカオスなメール。
俺は「彼女らしさ」に笑う。
まるで、距離などなかったかのようなメール。
結婚の約束を反故にして他の男に嫁いだ謝罪。
万が一にも攫いに来なかったことに対する安堵と怒り。
ひどく君は身勝手だ。
俺はいったいどう返事をすればいいんだ?
とにあさんは、同級生の男性とがんばる女子のカップルで、階段のシーンを入れたハピエン小説を書いて下さい。
#ハピエン書いて
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