静止監獄
使用お題ひとつ
すぅっとひんやりした空気が朝の住宅街を通り過ぎていく。
風が落ちた赤い葉を舞い上げていく。
そんな風景の中、靴が壁を踏みつけていた。
「結果は変わらんよ」
白いシャツに鼠色のコートを着込んだ老女が笑う。
「うるせぇ」
荒い声を上げるのは二十歳にもなっていないであろう男。
ガツガツと音を立てて壁を蹴りつける。
「今、手を出しても少し時間がのびるだけだ」
諦めろと促す老女に男は唇を噛みしめて壁を蹴る。
「兄様。いいのです」
足元からしのびあがってくる力ない声。アスファルトに横たわる少女が男に手を伸ばす。
「理不尽だ」
壁を蹴るのを止めた男は少女のもとに膝をつく。
「理不尽です。でも、兄様がここに居て下さるのです」
少女が力なく、それでも鮮やかに微笑む。
男はただ、唇を噛む。
「ひとりではないのです。ああ。ひとりでいかないでいいのです」
すがるように告げられる言葉に男は視線を閉ざす。
少女はその様にイヤイヤと首をゆるく振る。それだけで少女は強くむせこんだ。
「ダメだ。死ぬな」
男の懇願に少女は微笑む。
「いつか、いつか、助けてくださいね」
「いつか? なにを言ってるんだ?」
「兄様。兄様。私をみつけて」
「結果は変わらんよ」
老女の言葉に男は壁を蹴りつける。
「うるせぇ。今と過去は変えられなくてもなぁ!」
勢いをつけて壁を蹴る。
「未来はまだ決まっちゃいねえんだよ!」
繰り返し繰り返し。
ひらりと赤く色づいた葉が舞い落ちる。
「少しでも可能性があるならブチ破る!」
音をたてて蹴りつける。
「だから! お前も諦めんな!」
びしりと壁にヒビが走る。
「俺と生きるんだよ!」
「結果は変わらんよ」
興奮気味の男の熱を下げるかのように老女が宣告する。
「うるせぇっ! 今度こそ、助けてみせる! 未来は俺が切り拓くんだよっ」
「未来は決まっているのだよ」
老女の言葉に男は小さく口角をあげる。
「大丈夫だ。会話進行が変わってんだ。未来はまだ決まっちゃいねえんだよ!」
老女が男の言葉に息をのんだ。
「未来は冬だ。凍える止まった世界だ」
男は壁を蹴ることをやめない。
「冬の後には春がくんだろ!」
ヒビが広がる。
季節は「紅葉の季節」。「朝」の「住宅街」で「生真面目な」登場人物が「未来から生き延びる」、「暴力」や「犯罪」の要素を含むお話。あと「老人」が話に絡んでくるかも。
https://shindanmaker.com/580775




