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第4話

なんか支離滅裂になっています。最初からでしたが…。

これを教訓に、精進していきたいと思います。

「ときにユーキ殿。ユーキ殿は呪いというものを知っておりますか?」


祭りへ向かう途中、ヴァルゴがこんなことを聞いてきた。

呪い?

人にかけたりするやつのことか?いや、違うな。

これは、この世界の専門用語の方だろう。


「申し訳ありません。私は存じ上げておりません。何分至らぬ身です故、差支えがなければご教授いただけないでしょうか?」


城の書庫で見た本の中に、それらしい言葉は幾つか見つけられた。

だが、詳しい説明などは載っていなかったので、言葉しかわからない。


聞く限りでは、あまりいい意味ではないような気がする。それはそうか。誰が聞いたっていい雰囲気の語句ではない。


「左様ですか。あ、いえいえ。別に知らないからどうこうというわけではなくてでして。

この呪いというのは、人にかけたりかけられたりするものではなくてですね。その人が生まれつき持っている、人に劣る才能のことです。

ですが、誰もが持っているわけではなく、限られた極小数の人間しかもっていない才能なのです」


人に劣る才能?

…どうやら、いろいろと厄介そうな才能だ。

それに、人間しかもっていないということはどういうことだろう。エルフとか、ほかの種族には、そういった類のものは存在しないのだろうか。


「そうなのですか。貴重なご助言、痛み入ります。ところでその才能、人間にしかないものなのですか?」

「ええ、そうなのです。他人にも危害を及ぼすようなものではないのです。ですが、やはり人より劣るということとこの名前のせいで、この世界ではあまりいい印象をもたれてはおりません。

それで、こういったものを持つ人間のことを呪いつきと呼び、人々は忌み嫌います」


へえ。呪いつきね。

こんな才能があるなんて知らなかった。というより、これを才能というのはおかしくないか?

これはもう既に欠点の領域だ。


でも、ヴァルゴは何故今こんな話をしたのだろう?もしかして、俺がその呪いつきとか?

まっさかぁ。そんなのあったら勇者の威厳台無しじゃん。俺、一応勇者だよ?


「呪いつきですか。そのようにして蔑まれている方々もいらっしゃるのですね。心が痛むばかりです。

しかしヴァルゴ様。何故今そのような話を?まさか私も、その呪いつきというわけですか?」

「…ええ、じつはそうなのです。

お伝えしようか迷ったのですが、やはりお伝えした方がよいと思いまして…」


え?マジ?


「………。ほんとですか?」

「はい。やはり驚かれますよね。

初めてお会いしたあの時、貴方様にかけた探査の魔法で分かったのです。長い間黙っていて申し訳ありませんでした。ですが、この世界に来ていきなりだと与えてしまうショックがあまりに大きいと思いまして…」


えええぇぇぇぇぇ…。

俺呪いつきなの?呪いつきって何?


いきなりすぎて全然話が呑み込めていない。

そもそも、呪いにはどんなデメリットがあるのだろう。軽い欠点ならいくらか心のショックは軽いのだが。


まあ、なってしまったものは仕方がない。どうせ、この国のやつらの頼みをきいたら元の世界に帰れるのだから、気楽にいこう。


「いや、なってしまったものは仕方ありません。それにこれは先天性のようなものなのでしょう?

どうかお顔をお上げください。あまりお気になさらないずとも結構です。私はあまり気にしておりませんので」

「左様ですか。どうも恐れ入ります。

あまり驚かれないのですね。私、少し安心しております」

「いや、驚いてはおりますがどうやら私は楽観的な性格のようでして…。あまり深くは考えないようにしております」

「そうですか。でもそちらの方がもしかしたら良いのかもしれませんね。

あまりくよくよしましても、今後に響くでしょうしね」

「ええ、私もそう思います。

ところで、ヴァルゴ殿。この、呪いには一体どのような効果があるのですか?」

「そうですね…。じつは私はのろいの効果を調べる方法を知らないのです…」

「そうですか。何とかしてわからないものでしょうか?」

「ならばユーキ殿。貴方様の身に何か不都合がおこったことはありませんか?」

「不都合?」

「そうです。例えば盾がものすごく重く感じるとか、魔法を行使すると暴発するとか。

多分それが呪いに該当すると思います」


不都合?

そんなものは感じたことがない。でも、呪いなんだから何かあるはずなんだよな…。


「申し訳ありません。何も思い当たらないです」

「左様ですか…。でもまあ、あまりお気になさらずとも結構ですよ。

別に無理して見つけるほどのものでもありませんし、不都合がないのでしたらそれにこしたことはありません」


それもそうか。

気づかないくらいの悪影響なら別にいいもんな。知りたいなら、後で調べればいいし。




「そうですね。影響がないなら別に深く考える必要もないですし、気にしないことにします。

でも、勇者が呪いつきだ、なんて少々おかしいですね。人にばらすのも恥ずかしいって感じがしないですか?」

「………」

「…?ヴァルゴ様?」

「…え?どうしましたか?」

「いやだな、ヴァルゴ様。勇者が呪いつきだなんて恥ずかしいですねって言ったんですよ?」

「あ、ああそうですね。でも恥ずかしがることなんてないですよ。ユーキ殿。…ええ、本当に…」



な、なんだろう。

今、ヴァルゴの目が一瞬殺気を放った気がする…。


「どうかなさいましたか、ユーキ殿?」

「い、いや。別に…」







その後、ヴァルゴとは他愛もない話をして祭りを見てまわった。


人々は熱狂し、商人たちも声を張り上げ人を呼び寄せていた。

篝火は、煌々とと夜の空を染め上げ、笛や太鼓の音は地平の彼方まで響いていた。


祭りは非常に盛り上がっていた。見ていた俺のテンションもあがる。

中でも、綺麗な踊り子たちのダンスが印象的だった。

靡く髪、誘う足、揺れるお尻、弾む胸…。もう最高だね。



俺は一人楽しんでいたのだが、先ほどからヴァルゴの様子がおかしい。

欲しいと言っていた商品を買うそぶりも見せないし、しきりにあちこちをせわしなく見回している。時折魔法で誰かと会話をしているし…。




あの殺気の件から、俺はなんとなくヴァルゴのことを怪しむようになっていた。


(あいつ、何か隠してないか?)


その考えが俺の心を支配していた。


「どうかなさいましたか、ユーキ殿?」

「い、いえ。少々考え事を…」

「左様ですか。なにやら難しい顔をされていらっしゃったので、つい…。知らぬこととはいえ、失礼いたしました」

「い、いえいえ。どうかお気になさらずとも…」

「でしたら、お詫びのしるしに私についてきていただけませんか?いやなに、この後花火が打ちあがるのですが、その秘密の特等席へご案内したいのです」


何だ?何を考えているんだ?

分からない。だが、絶対に怪しい。


今思えば、この世界にきて一番薄気味悪いのはこいつだ。いつも笑みを絶やさず、非常に社交的で、誰に対しても腰を低くして対応する。それでいて自分の心のうちをさらけだすようなことは絶対にしない。

ニコニコしていながらも時折見せるその眼光は、まるで獲物を狩る鷹の如く鋭かった。

こいつは危ないと、初めて俺の中でヴァルゴへの危機感が生まれた。


「ユーキ殿?」


しかし、もしこれがおれの勘違いだったら?

ただ単純に、彼が俺への厚意を表しているのだとしたら?

疑えば疑うほど泥沼にはまっていく。考えれば考えるほど足が埋まっていく。


「いかがでしょうか、ユーキ殿?」


…いや、考えるのはよそう。

この世界で、唯一俺とまともに話してくれた奴なのだ。一度は人を信じてみるのもいいかもしれない。


「…分かりました。では、お言葉に甘えさせていきましょう。案内、よろしくお願いします」

「おお!ありがとうございます。それでは早速移動しましょうか」


嬉々として俺を案内するヴァルゴ。だがしかし、俺の心は晴れなかった。

彼のことを信用すべきだったのかと、後悔の念が生まれる。今のヴァルゴは、罠にかかった獲物を見て大喜びする蜘蛛のようにみえてならない。


今からでも遅くはない。断ろうか…。

いや、今断ってしまえば、逆にヴァルゴに怪しまれる。やめておこうか。

もう、こうなってしまったら仕方ない。ついて行こう。







町からはずれ、少し離れた川のほとりに来た。この川はなかなか大きく、流れが急なようだ。

どちらかといえば、川というよりも運河と呼んだ方がいいようなくらいでかい。

この川に架かっている橋も石造りでとても大きいものだ。何年にもわたってこの対岸をむすんできたのだろう。この国の歴史が垣間見えるようだ。


今、俺とヴァルゴはその橋の上にいて、打ち上がる花火を見ている。

ここへ来るまで、ヴァルゴは怪しい動きは何もしなかった。やはり、俺の勘違いだったのだろうか。


「いかがです、ユーキ殿。ここは昼間は通行する人々で大変混雑するのですが、祭りが始まるとこのように静まり返るのです。邪魔な明かりもありませんし、花火を見るのに絶好の場所だとは思いませんか?」

「ええ、私もそのように思います。目立ちやすいところほど気づかないことが多いですね」


花火が上がる。

ヒュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…、ドンッッッ!!!


「そういえばヴァルゴ様。この国の、私への頼みとは一体何なのでしょうか?」

「…さあ、それは私にも分かりかねます。すべては王様の一存でして…」

「そうなのですか。ですが、この世界に来てかれこれ一年になります。私は元の世界に帰れるのでしょうか?」

「…大丈夫です…。…貴方様ならきっとお戻りになられることが出来るでしょう…」

「そうですか。ヴァルゴ様にそういっていただけると安心です」


再び花火があがる。

ヒュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…、ドンッッッ!!!


「ユーキ様、御恥ずかしながら私、少々用をたしてきます」

「あ、そうですか。わかりました」


小便か。

ヴァルゴがいなくなったので、花火の音が大きく聞こえる。



ヴァルゴは、俺が思っていたような悪い奴ではなかった。俺の思い過ごしだったようだ。


俺は今、武器の類は身に着けていない。服装も、元の世界の服ではなくこちらの世界の服を着ている。これといった特徴もない、ただの軽装だ。

二人っきりでこんな状態の俺にもかまわず、怪しげな動きは何もしなかった。



俺のことを気遣い、最初に話しかけてくれたのはヴァルゴだった。

俺は花火が好きだ。そのことを言っていないのに、こんなにも花火が綺麗に見える場所に案内してくれた。

俺に元の世界に帰れるといってくれた。俺の話しを聞いてくれた。俺の目を見てくれた。


そして、俺が何よりもほしかった、人としての存在を与えてくれた。


あいつなら信用してもいいんじゃないか?

この世界に来てもっとも安らいだ気がする。

あの殺気や怪しい行動はなんかの間違いだったのだろう。そう信じることにした。信じてみることにした。


心が軽くなった気がする。信頼できる相手がいるというのは、こんなにも心が休まるのだろうか。

思えば俺は、いつも切羽詰まってばかりだった。


花火があがった。

ああ、花火ってこんなにもきれいだったんだな。


また花火があがった。

自然と笑顔になってゆく。

ヒュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ…、ドンッッッ!!!


グサッッッ!!

「グフッッッ!!??」


なんだこれは?

腰の辺りに強烈な痛みを感じる。まるで刃物かなんかに刺されたような…。


刺された?

俺は刺されたのか?誰に?


グサッッッ!グサグサッッッ!!!

また刺された。今度は背中、下腹部。


突然のことに、未だ対応できていない。

俺はどうやら刃物で刺されているらしい。周りを見渡してもだれもいない。


「だ、誰だ!」


返事はない。そのかわり、誰もいないはずの俺の背後から何者かがタックルをしてきた。

予想外の衝撃に橋のふちにつかまる。しかしそれで終わりではなかった。

今度もまた、誰もいないはずの背後から何者かが押してきた。

俺はたまらず、橋から落ちる。

何とかふちに掴まろうとするのだが、さらに追い討ちをかけるように、「ウォーターボール」をくらう。


「ぐあッッ!!」



川に落ちていく。

そのとき、俺の脳裏に冷ややかな笑みを浮かべたヴァルゴの姿がうかんだ。

やはり、あいつを信用すべきではなかったのだ。



お前の仕業なのか?


「ええそうです。私がやったのです、貴方を。いやあ、簡単に私の誘いに乗ってくださったので手間が省けました。貴方ごときのために、衛兵をつかうわけにはいきませんからね」


なぜ?なぜ俺を?


「決まっています。邪魔だからですよ。呪いつきでとりたてて才能もない。一年経っても衛兵の一人も倒せない。あなたなら、こんな勇者どう思いますか?」


そんなことのために?


「そんなこと?

笑わせないでください。私たちにだって夢があるのです。その夢をかなえるために、莫大な時間と金をかけて勇者を呼び寄せた。

ですが、それで召喚されたのが貴方のような出来損ない…。あなたならどうお思いになります?そんなものを、なぜ国で養っていかなくてはならないのです?」


俺の人生をめちゃくちゃにしやがって。


「貴方の人生?そんなもの、私たちの知ったことではありません。貴方の人生など、どうでもよいのです。どうせ貴方が元の世界に帰れることはないのですから」


それはどういう意味だ?


「貴方が今ここで死ぬからですよ。もっとも、生き残ったとしても今のこの世界の魔法では、貴方を元の世界へ戻す魔法など存在しないのです。

貴方はそれでも少なからず希望を持って生きてきましたよね?その希望を壊すことが出来るのを今か今かと待ち望んでいたのです。

ああ、やっと壊すことが出来た…。貴方のその目、その顔、その表情…。もう堪りません」


どうやって俺を?


「透明化の魔法ですよ。そんなことも知らないのですか?まあ、所詮はその程度ということですね。

貴方は仰っていましたよね?分かりやすいところほど盲点になると。

だから、私自身に魔法をかけ正面から貴方に近づいていったのです。滑稽でしたよ、貴方の顔は…。

まさか私が目の前にいるなどとは夢にも思わず、非常に楽しそうに花火を見ておられました。

その顔に満足したところで、貴方の背後からナイフで一突き。そんな軽装をしておられるのです。非力な私にも簡単に刺すことが出来ました」


なんでだ?俺はお前を信用していたのに。


「信用?勝手になさっていてください。別に私には関係ないことです。

…ですが、貴方にとってはそうでもない事でしょう。如何ですか?信用していた人に殺されるというのは。これほど愉快で馬鹿げた笑い話はないでしょうね。それが今の貴方です。

そうですね。では死に行く貴方にひとつ忠告して差し上げましょう。

この世界では、騙されるほうが悪いのです。何よりも、今の貴方に申し上げましても大した意味はございませんが」


俺は一体…。


「死にますね。確実に。

毒で殺してもよかったんですが、貴方が毒を摂取するかどうかは分からなかったので。

それに、貴方の体は川に流されますので死体の処分も楽ですからね。

…おっと、どうやらお別れのようです。それでは御機嫌よう、勇者サマ」


待てヴァルゴ…


バッシャアアァァァァン!!


水しぶきを上げ、俺の体は川の水に呑み込まれていく。

もがけばもがくほど水に手足をとられ思うように動くことが出来なくなる。

手放してしまいそうな意識の中、最後の力を振り絞って俺は浮かび上がろうともがき続ける。


ああ…。出血が多すぎる。頭がぼうっとする。

傷を…、止血をしなければ…。

水の中で?どうやって?あ、そうか。魔法か…

…いやしかし、回復魔法は俺には効かなかった。もしかして、これが呪い?

これは不便だ…。怪我をしたら、ファンタジーみたくパパって治すことが出来ないんだから…。


水の流れが急すぎる。不快な痛みが俺の全身を襲う。

もう、意識を保つのもやっとだった。


俺は死ぬのか。こんなところで。誰にも知られないまま、必要とされないまま…。

なさけないなぁ。

結局、もとの世界に帰ることも出来ずに、親や友人の知らないところで彼らよりも早く死ぬのだから。


だが、俺のことを手にかけたヴァルゴへの憎しみなどは、不思議とおこってこなかった。

この孤独から開放してくれたからだろうか。

感謝の念こそおきないものの、怒りの感情などはまったく感じない。




もうどうでもいいや。

でも、できることなら、ファンタジーの世界をもうちょっと楽しみたかったなぁ。

綺麗な女の子にも会っていないし、まだ、シャルナリアの外の世界も見てないじゃんか…。




死ぬというのに、不思議と恐怖はなかった。

ただちょっと、馬鹿らしい願いが湧いただけ。元の世界へ帰ることよりも、こっちの世界にあこがれていた自分がいたことに、少し困惑している自分がいる。

もし俺がこの世界で面白おかしく暮らしているところを想像してみた。


なんだ、こっちの世界も面白いじゃん…。




幸せな想像の中、この世界に人生を壊され、裏切られた少年は、それでもこの世界に憧れを抱き、自らが生まれた世界よりもこちらの世界のことを思いながら、自らの意識を手放した…

川の流れは無情にも少年の体をさらっていく…


後に残るは、月夜に照らし出された水面。夜空を彩る花火の音、色。



そして、消えることのない魔術師の笑みだけだった。

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