第九話「夢を見た日」
夢か 現か
「頬をつねればわかる」なんて
よく耳にする民間療法だけど
身体が動かない時はどうすればいいんだろう
ふわふわとした感覚。
視界が白い光で覆われている。
薄靄がかかったような感じとでもいえばいいのかな。
頭もぼーっとしていてよくわからない。
「おい、マカイ」
「どうした」
聴覚は普通に機能しているようで、僕の耳は二つの声を拾った。
マカイというのは名前だろうか。
変だけど、どこか聞き覚えのある言葉。
「大したことじゃないんだが」
「なら後にしてくれ」
会話の合間合間にカタカタとキーボードを叩くような音が聞こえる。
多分、さっき言われたマカイという人は何か作業をしているのだろう。
「目を醒ましそうだぞ」
「大したことじゃねえか!!」
さらっと言われた言葉に、ガタッと勢い良く椅子の引かれる音。
それと同時に、マカイの大きな声が響く。
カツカツと焦ったような足音が、こちらに近づいてくる。
少し遅れて、のんびりとした足音も聞こえる。
白い光で覆われた視界に、二つの影が差した。
人?のようだけど、視界のピントが合わなくて、よく見えない。
「もしもし?起きてます?意識はっきりしてます?」
「う……うう……」
声からしてさっきのマカイという人だろう。
恐らく僕への質問だろうということはわかったが、
僕は意味の無い呻き声を返すことしかできなかった。
受信できても送信ができないもどかしさ。
「ダメっぽいんじゃね?ほら目が虚ろ」
もう一つの影が口を開いた。
彼らから見る僕の姿は死んだような眼をしているのだろうか。
「エナクお前やる気あんのか」
「無い!」
マカイといるもう一人の名前はエナクというらしい。
こちらも、どこか聞き覚えのある名前だ……。
「よしそこに座れZAPしてやる」
「やめてくださいごめんなさい」
ZAPってなんだろう。
エナクがさっきのおどけた様子とは一転、
すごい勢いで謝っているところから見ると
あんまりいい意味じゃなさそうだ。
「こ……ど……こ……」
僕は、自由にならない口を必死に動かした。
どうも、ここに至るまでの記憶が曖昧すぎて。
自分の所在を確かめたい。
「その質問は何ら意味のないものだな」
「エナクお前……でもそれもそうだな。
説明しても信じられないだろう」
無情にも、僕の質問はエナクによって一刀両断された。
マカイが一瞬ツッコむが、エナクの回答に同意のような態度を示す。
説明しても信じられない場所。
どうして、僕はそんな場所にいるのだろう。
「おい、やっぱりダメっぽいぞ」
再び暗くなりそうな視界と戦う僕を見て、エナクが冷静に言う。
凄く眠い、とかじゃなくて、
抗い難い何かに瞼を押さえつけられているような感じ。
パソコンでいう、強制終了の処理をされているような。
「まあ、今まで薄目でも開くことはなかったから大躍進じゃないか」
「最終目標には程遠いけどな」
マカイとエナクが言っていることの意味が僕にはさっぱりだった。
大躍進?最終目標?
でも、そのことを考えるには僕の脳味噌のメモリはもう足りなくて。
ああ、瞼が降りる――
「いつかまた。ウソカジさん」
最後にそう、言われた気がした。
やっぱり これは夢なのか
知らないはずなのに
僕は ひどく懐かしく感じたんだ
そういえば あの人達に会った時も――