第八話「日常が壊れた日」
僕が 思っている以上に
身の回りでは 色々なことが起こっていたらしい
ただここまで イレギュラーなことが起こるなんて
前代未聞じゃないだろうか?
「来てくれてありがとう」
放課後、呼び出された通り屋上に行くと、
咲野さんと榎木さんが既に待っていた。
屋上からはオレンジ色に染まり始める街並みが一望できる。
探せば僕の家も見つけることが出来るだろう。
「えとですね、やっぱり僕達……そういう話は……」
頬を掻きながら僕は言う。
なんせ女の子から告白なんかされたことないから
どうすればいいのかわからない。
「そうだね。いきなりすぎたかな」
「いやいやいきなりも何もそんな……心の準備が」
冷静な口調の咲野さん。
いきなりというかあの、なんで僕なんですか。
性別がまずあの、おかしいと思う。
いや、世の中には同性でも好きになる人がいるから
否定するわけではないけれども。
「……でもね、時間がないんだ――早く、終わらせよう」
そういうや否や、咲野さんの瞳が妖しくピンク色に輝く。
ここでようやく、僕は自分の勘違いに気づいた。
「えの、手は出さないでね」
『わかったよ、くれあ』
「!?」
咲野さんが後ろに控える榎木さんに話しかけると、
僕の頭の中に響くような声が聞こえた。
声?いや、……思念?
『ああ、驚いた?』
榎木さんは喋ってはいない。
ただ、瞳だけが不気味に赤く光っていた。
そう、まるで、僕が能力を使った時と同じように――
『私は『目をくわせる』って能力を持ってるんだ。
テレパシー…とはちょっと違うけど』
さらりと榎木さんが自分の力についての説明をする。
能力って。
まるで、そんな、僕と同じ『普通じゃない』みたいじゃないか。
『喋らなくていいし重宝してるんだ』
「たまには喋りなさいよね」
『フヒィ!』
「やっぱ喋んな」
『ひどい!』
咲野さんにズバッと言われ、がっくりとうなだれる榎木さん。
この二人もしかしていつもこんな感じなんだろうか……。
「さて、始めましょうか?」
さっきまでのふざけた態度とは一転、
獲物を狙うような鋭い目つきに変わった咲野さんがこちらに向き直る。
反射的に僕が身構えると、
僕の後方にあった屋上のドアがめきょりとへこんだ。
「!?」
誰かがいた様子もない。
彼女達が何かした様子もない。
ただ咲野さんの瞳がドアを「見つめていた」だけだ。
「ふふ、驚いた?」
不気味に綺麗に笑いながら咲野さんは言う。
「きっと、こう思ってるんじゃない?
『なんで僕みたいな能力を……!?』って」
「!」
心を見透かしたようなセリフに対し、
僕の背中には嫌な汗が流れる。
そう。
見つめただけで対象を壊すことのできる僕の能力。
たった今、起こったことは、
僕がひたすらに隠してきた能力と酷似していた。
「ああ、隠さなくても大丈夫だよ」
彼女は、そんな僕に絶望にも似た言葉を叩きつける。
「私達は、貴女が『普通じゃない』ってことを知っているから」
いつから。
いつから露見していたのだろうか。
ただ『普通でいたい』と思っていたのに。
ただ、何事もなく過ごしたいと思っていたのに。
「反撃しないと……死んじゃうかもよ?」
咲野さんが次の攻撃を準備している。
ショックを受けた僕は、動けずにいた。
『普通になりたかった』僕は、自分の能力で殺される。
何て滑稽な事だろう――
ガン!ガン!バキャッ!
耳障りな金属音が突然聞こえてきた。
見ると、へこんで立てつけの悪くなった屋上のドアが完璧に破壊され、
無残に吹っ飛んでいた。
「クロト!後ろだ!!」
「っ!?」
直後、聞き慣れた声が空間を裂く様に響いた。
僕は反射的に前に飛び退く。
すると、コンマ数秒遅れて僕の立っていた床が抉られた。
それよりも、今の声の主は。
「ヤマト!?」
見慣れた目つきの悪い顔がそこにあった。
息せき切って走ってきたのだろう、肩で息をして若干苦しそうだ。
「次は右!」
「わっ!?」
それを聞いて僕は反対側に飛び退く。
またしても床が破壊されていた。
『……驚いた』
榎木さんがまた能力を使って語りかけてきた。
「驚いた」という言葉通り、本人の赤く光る目も少し丸く開かれている。
「なにがだよ」
ちっ、と苛立ったように舌打ちをするヤマト。
『私の能力って、「能力を持ってる人」じゃないと通じないんだ』
え?と思い僕はヤマトの方を向く。
さっき榎木さんが言ったことを反芻するのなら、
咲野さんにも、僕にも、
榎木さんの声が聞こえるのはお互いに能力を持っているから。
ならば。
『君も、「普通」じゃないんだね』
いつも不機嫌そうに日常を睨む彼の瞳は赤く光っていて――
ぶっ飛んだ告白かと思ったら
初対面なのにいきなり殺されかけたりして
友達のよくわからない一面も発現したりして
僕の思ってた日常ってなんだったんだろ?