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第二十七話「赤丸チェックの日」




何でも知っているような顔をして

実は何にも知らなくて

何も知らないようなふりをして

実は全てを知っている




エンジン音のみが響く車内。

エアコンによって温度は一定に保たれ、

外の寒さとは無縁な環境だ。


そして、他人の家に入った時のような、

嗅ぎ慣れない臭いとでも言おうか、

どことなく緊張させるような空気が漂っている。


そんな無言の空間に、

後部座席に座る少女の声が響いた。

俺は、助手席から顔を伸ばして後ろを見る。


俯きながら、

両手を膝の上において、彼女は語る。


「いきなりで、全然、

信じてもらえないとは思うんですけど……」


そのままの勢いで

俺達に同行することになった女の子――

ミラが語った内容は、

俺達を驚かせるには十分すぎるものだった。


彼女の話した内容は、大体こんな感じだった。


ミラも俺達のような

「目の能力」を持っていること。

それでバスの中で出会った

むくの危険を察知したこと。


加えて、俺達と共に行動する未来を視たこと。


全て話し終えた彼女が

一つ息を吸うと、再び、車内に無言が落ちる。


「やっぱり、信じてもらえませんよね……」


苦笑して頬を掻く手を――

ミラの隣に座っていたリーフがとった。


「え、リーフ、さん?」

「……」


無言。だが瞳は雄弁に語る。

リーフは、その双眸を

きらきらさせながら、ミラを見ている。


「あのー……?」

「ミラも、俺達と同じなんだな!?」


両手でミラの手を包み込み、

熱っぽく語るリーフ。

おい、俺の時と大分反応違わないかお前。


「イシカ、おいイシカ!!」

「聞こえてます落ち着け」


ハンドルから離した右手を

ひらひらさせながら運転手は言った。

表情は苦笑。そりゃそうだ。


「あの、同じって?」

「ん、あぁ、

俺達もみょーな能力持ってんだわ。

君と同じような」

「そうだぞ!名前も付けてるんだ!

俺が、『目を移す』で、

イシカが、『目を起こす』、で、うそかじが……」


と、そこでリーフの言葉が止まる。

俺は背中に嫌な汗が流れるのを感じた。


「そういやぁ、結局、

かじやんの能力の名前俺達聞けてねえよな」


イシカが、横顔でもわかるくらい

綺麗に口元を釣り上げる。

くそ、余計な事をこの人は!


「うそかじさんも名前つけてるんですね!

なんていうんですか?」


いっそ清々しいともいえる

無邪気な質問に、俺は白旗を上げた。

たっぷりの沈黙の後、


「……『目を瞑る』」


デス、とどこか投げやりに俺は言う。

すごく、ものすごく、気恥ずかしい。

いい年して中二病感が半端ない。

平たく言えばイタい。


「いいなぁ……」


どこかうっとりとした様子でミラが呟く。

待って。君もそっち系の人なの。


そんな横でリーフが

「ミラも名前つけてみたらどうだ?」なんて

平然と提案している。


待って。

恥ずかしいって思ってるの俺だけなの?

それはそれで逆に嫌なんだけど!


「うーん、そうですね。コレに名前を付けるとしたら……」


言葉をいったん切った後、

彼女は少し、さびしそうに微笑んだ。


「……『目が視える』、でしょうか」




それから暫く他愛ない話をしつつ、

俺達は依然廃工場へと向かっている。

彼是一時間くらいは

車を走らせているが、まだ着かないようだ。


イシカが車を取りに

一度帰宅した理由がわかった気がした。


「んー……」

「どうしたの?」


突然信号待ちで

考え込むように唸る本人に、俺は声をかける。


彼女の運転は、

校門に来た時の荒々しさが

嘘のように丁寧だった。


……それでも法定速度は

守っていないようだったが。


「ん?いやぁ……」


ちらり、と速度メーターのあたりに目をやる。

正確には、その左下。


「ガソリンがな、多分もたない、と思って……」

「え」

「あそこ結構遠いしな」


訳知り顔でリーフが

ひょこりと後部座席から顔を出して言った。


「ガソリンスタンドに行った方が

良いんじゃないでしょうか。

その、行きがギリギリなら

帰るのはもっと難しいでしょうし……」


控えめにミラが意見すると、

イシカは頭をがりがりと掻く。


「そう、だな。時間かかっちまうけど、

車動かなきゃ意味ねえし行っとくか」


そう呟き、イシカはウィンカーを右に出した。




「ちょっと待っててなー」という

言葉と共に車のキーが俺に投げられた。


バタンとドアが閉められ、

悠々とイシカががちゃがちゃと

何かをしているのがちらりと見えた。


俺はとりあえず預かったキーで

ドアロックをかけておいた。

特に意味は無い。


ミラとリーフは

後部座席でうつらうつらしている。

結構長く走っていたから、

流石に少し疲れたのだろう。

俺も少し眠い。


眠気を覚まそうと伸びをしたら、

膝がダッシュボードにがつんとあたり、

中身が飛び出してきてしまった。


うわ、めんどくさ、

と俺はのろのろとした動作で

落ちてきたものを拾い上げる。


「ん……?」


ダッシュボードに入っていたのは、

一部の新聞だった。

何度も読み返されたのか、

それは黄ばみ、皺が寄っている。


かさ、と何気なく新聞を開くと、

小さな記事――それこそ他の記事に

気を取られて見逃してしまいそうなほど小さい――

に荒々しい筆跡で赤く丸がつけられていた。


俺の目は誘われるようにその記事に吸い寄せられる。

そこには、


「うそかじ、うそかじ」


とんとん、と肩を叩く手に引き戻された。


「っ、何?」


振り向くと、さっきまで

舟をこいでいたはずのリーフが

眠そうな顔でこちらを見ていた。


「……イシカが戻ってきている。鍵を開けてやれ」


リーフに言われ、窓の外を見やると、

言われた通りイシカがこちらに歩いてきていた。

俺は慌ててダッシュボードに

元通り新聞を仕舞い、キーを解除する。


「悪いな、待たせて」


戻ってきた彼女は

俺の手からキーを受け取り、

それをハンドルの横に挿した。

低いエンジン音が車内を支配する。


「よし、行くぞ」


真っ直ぐと前を見据え、イシカは言った。




ねぇ、あんたはあの時何を考えてたの

こうなるのも全部分かってたのか

そうだとしたら

俺はあんたをとても許せそうにない




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