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第二十三話「泰然自若の日」




焦る時こそ落ち着けなんて

言葉だけでは簡単だって

焦るためにも余裕がいるなんて

一見の矛盾も真実だったりする




警察に連絡したら、

既にバス会社から通報があったらしく、

俺達はすぐにやることが無くなった。


むくに連絡することも提案したが、

「いや、下手に連絡をすると

万が一見つかった時にむくの立場が危うい」

とイシカに言われ、返す言葉も無かった。


それからイシカは、『ちょっと出てくるわ』と言って

何処かへと出かけてしまった。


周りの皆も、思い思いにおやつを食べたり、

テレビを見始めたり、お茶を淹れ始めたりして……

どうも緊張感が無い。


「仲間」とは名ばかりで、実は繋がりが希薄な、

薄情な人たちじゃないのか――

滲んだインクのように、

俺の思考はどんどん黒く染まっていく。


「どしたの?かじやん」


はいお茶、と言って、

ユカリが湯気の立つ温かいお茶を差し出してきた。

それにどぎまぎしつつ、俺はぽつりと苛立ちを口に出す。


「仲間って言っても口だけなのかな……」

「え?」


その言葉に、ユカリは戸惑ったような声を出し、

カズとリーフの肩がぴくりと動いたが、そんなの構わない。


少しの沈黙の間、テレビは

『……研究所で世紀の大発明。年明け頃に正式発表予定!』

なんて言葉を吐き出している。


俺は気まずくなって、言いたいことを全部ぶちまけた。


「だってむくが捕まったっていうのに、

お茶飲んだり、お菓子食べたり、……むくが心配じゃないの?」

「それは――」


ユカリが何か言おうとした時、

それを遮るようにリーフが口の端を上げて

ニヤッと皮肉そうに笑った。


「昔の俺と同じこと言ってるな」

「あーそうかもね」


カズが目線を上に向けて何かを思い出すように言う。


「どういうこと?」


俺が訝しんで目を向けると、

リーフはまたニヒルな笑みを浮かべた。


「もうすぐわかる」


そう言うと、手元のお茶を一気に飲み干した。




あれから俺達は保健室を出て、

今は、学校の校門にいる。


「ふーっ……寒い寒い」

「今年ももう終わりだしねー」


手に息を吹きかけ暖めようと頑張るカズに、

ユカリがにこやかに話しかける。


和やかに喋る二人からは、

やはり、緊張感は微塵も感じられない。


「『焦ったって疲れるだけだぞ』」

「!」


心の内を見透かされたようなセリフにぎくりとした。


「俺が昔言われた言葉。

『焦ったって体力も精神も消耗するだけだから、

なるたけ平静を保つよう努力した方がいい』って。

まぁ、頭でわかっててもやるのは難しいが」


じゃり、と音を立ててリーフがグラウンドを蹴った。

ふわり、と白が舞う。


「初めて赤目の奴らに襲われた時だ。

殺される寸前までいって助けられた。

あの時は怯えきって錯乱してて、

イシカやユカリが平然としてるのが

おかしいって喚いてたんだ」


俺と同じ……いや、俺より酷いかも。


「そしたら苦笑しながらさっきの言われた……

あ、あと『俺達だって怖いし焦ってんだぞ?』

とも言われたな」


鼻を赤らめ、白い息を吐いてリーフが続ける。


「ウソカジが焦るのも、苛立つのもわかる。

昔の俺と同じだから。ただ――」


一旦言葉を切って、リーフは俺を睨みつけた。


「俺達は口だけの仲間じゃない。

今だってむくが心配だし、助けに行きたい」


自己紹介の時のような

敵意剥き出しの視線で射抜かれ、俺はたじろいだ。


「ご、ごめん」

「……気持ちは分からないでもない」


そう言うと、リーフはフイ、と

背中を向けてユカリとカズの方へと歩んで行った。




本当に焦った時は

いつもの何倍も頭が冴えるって

そう教えてくれたのは

皮肉にも非常事態そのものだった




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