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第二十二話「欠けた日常の日」




神隠し事件

失踪事件

どう呼称しても

アイツがいなくなったことに変わりはなくて




やることの無くなったオレ達は、

教室を後にしてからお互いの荷物を持って学校を出た。

日が長くなったせいか、まだまだ太陽は高い位置にある。


「……」

「……」


オレもクロトも、

何を言っていいのかわからず、無言だ。


昨日、オレ達は、三人で登校して、

喋って、昼に弁当を食って。

意味も無く、そんなことを思い出す。


ネギトロが失踪した。

噂をすれば何とやらはよく聞く言葉だが、

こう現実に降りかかると笑えない。


「とりあえず、くれあちゃんと

ぐるとんに知らせないと……センコウにも」

「そう……だな」


クロトが呆然としつつ

次にやるべきだろうことを機械的に口にする。

オレは首肯する以外にやることがなかった。


考えてみれば確かに、

『目の能力を持つ者はいなくなった人のことを忘れない』

とは言っていたが、

『目の能力を持つ者はいなくならない』とは

言っていなかったから、

このようなことが起こる可能性は皆無ではなかったのだ。


「わかんないことが多すぎるよ……」


目に見えて肩を落としながらクロトが泣きそうに言う。

普段気丈なこいつがこのような態度を取るのは珍しい。

相当参っているのだろう。


(オレもあんまり人のこと言えないか……)


小さくはない衝撃で、

オレ達の精神状態は芳しくないものとなっている。

端から見れば身内に不幸でもあったのではないかと思うだろう。

あながち間違っていないのがまた救えない。


信号待ちをしながら、

信号の向こう側にいる人々をぼんやりと見やる。


年も外見も性別もバラバラだが、

こいつらが皆ネギのことを知らない、

もしくは忘れているのだと思うと、

なんとも言い難い気持ちになる。


その中で、オレは不意に、

異質な雰囲気を放つ存在を見た。

髪はショートカットで、

ヘッドフォンをつけている。


見たところ、オレより少し年下の少女だ。

クロトと同じくらいの歳だろうか?


(……?)


近づけばキノコが生えそうなほど

じめじめした空気を放っているオレ達を、

周りの人間は明らかに避けながら通り過ぎて行くのに、

その少女は避けることもせず

ただ悠然とオレ達の脇をすり抜けて行った。

異質だったのはそれもだけど、それ以上に。


(見たこと……あるような?)


奇妙な既視感があった。


「あれ?今の人……」

「知り合い?」


不思議そうに声を上げるクロトに、

オレはすかさず声をかける。

クロトの知り合いなら、

オレが見たことあるのも不思議じゃない。


「えっと……そういうわけじゃないんだけど」


だけど、予想に反してクロトも知らない人物だったらしい。

ただ、こめかみに指を当てながら、クロトはこう続けた。


「なんとなく、凄く懐かしくなった気がして……」


望郷の念を語るように言うクロト。

オレと同じことを思っていたとは。


「オレも、なんかさっきの子、見たことある気が」

「んー?んー……誰なんだろ?」


なんとなく見たことがあるような気はするのに、

誰かはわからない。

魚の小骨が引っ掛かったような、

すっきりしないような感じだ。


うーん?と悩んでいると、

不意に、クロトの鞄から振動音が響いた。


「誰だろ?」


と言いながら、クロトが鞄からスマホを取り出す。


「あっ、くれあちゃんからメールだ」


慣れた手つきで操作しながらクロトが言う。

それを聞いてオレはツッコんだ。


「……お前らいつの間にメアド交換したの?」

「え?あの後喋ってた時に。その場のノリで」


けろりと言うクロトに呆れを通り越して

尊敬の意を込めて拍手を贈りたくなった。


事情があったとはいえ、

自分を襲った相手となんでそんなに無防備に

メアド交換なんかできるんだお前は!


そんなオレの心情など露知らず、

クロトはメールの内容らしきものを読み上げる。


「えーと、『大事な話があるから明日の放課後に

ヤマトとセンコウも一緒に連れて屋上に来て!』だって」

「ほう」

「んーでもヤマトはともかく

センコウはどうやって知らせればいいんだろ」


オレはその言葉に構わず、無言でスマホを操作し、

短くメッセージを書いて送信した。


「連絡しといた」

「ふぇ!?いつの間にメアド交換したの!?」

「あの後喋ってた時に」


なんだか聞き覚えのある会話だった。

立場は逆だが。


「じゃ、また明日」

「あ、うん」


そう言って別れ、

オレとクロトはお互いの家へと向かう。

オレ達の幼馴染が欠けても、構わず日常は回るようで。

そう思うと、たまらないものがこみ上げてきて、

元から良くはない目つきが更に悪くなるような心持だった。


信号の向こう側。

不意に足を止め、ちいさく振り向く。


「くろちゃ……ヤマト……」


ヘッドフォンを首にかけた少女は、静かに呟いた。




後でオレ達は理解する

記憶は消え去るわけじゃない

思い出せない記憶があるだけ

でもそれに気付くのは記憶がある時だけだ




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