第二十一話「後悔をやめた日」
日常に溶け込んで生きるのは
そんなに苦じゃないんです
出る杭は打たれるし目立てば動きづらくなる
そのことを痛いほど知っているから
小さい頃から見えちゃいけないものが見えていた。
って言っても、ユーレイとか、そういう感じのものじゃなくて。
私に見えるのは、人の心とか、未来とか。
最初にそれに気づいたときは、王様気分だった。
私にわからないことなんてない、
知らないことなんてない、って思っていた。
でも、周りはそんな私を気味悪がった。
いつしか、
私はそのことを隠して過ごすようになっていた。
ぼんやりと、窓の外の流れる風景を目で追う。
いつもと変わらない、平凡な街の風景だ。
(暇だなぁ……)
バスの中には、うたた寝する人、
携帯を弄る人、本を読む人。
それぞれが思い思いの方法で
目的地へ至るまでの時間を潰している。
私は、一番後ろの座席の隅っこで、
そんな人達をなんとなく観察している。
年末に差し掛かって、世間は大忙し。
そんな中で、
このバスに乗客は数えるくらいしかいなかった。
ゆったりとした奇妙な時間が流れていて、心地良い。
不意に、停車を告げる声と、
プシューという独特の音が響き、扉が開く。
冷気とともに、
どたどたと少なくない人数のお客さんが乗ってきた。
さっきまでの空気が壊されてしまったけど、
お客さんに罪は無い。
「隣、いいですか?」
ぼーっとしていた私に、
おずおずといった感じで話しかけてきたのは、
ゆるやかな天然パーマの女の子。
一目見て思った。
(天使……!!)
目をキラキラさせる私に、
彼女はえーと……?という感じで視線を向けてきた。
「あぁ、えぇと、席ですね!どうぞ!!」
しゅば!という効果音が出そうなほど
私は勢いよく手で隣の席を指し示した。
「ありがとうございまっす!
あ、いや、そんなに勢い良く詰めんでも……」
女の子はびっくりしたような顔をしながらのんびりと言った。
そして、私の席の隣に腰を下ろすと、
ふぅ、と一息ついて、私の方を向いて話しかけてきた。
「いやぁ助かりました。こんなに混むとは思わなかったから」
「いえいえ、たまたまここ空いてただけですし!」
えへへ、と私が笑うと、彼女もぬふふ、と笑う(ぬふふ?)。
なんだかいい人そうだ、と
私が思うのにそう時間はかからなかった。
それから彼女とぽつぽつと他愛ない話をしていたら、
私が降りる予定のバス停への
到着を予告するアナウンスが鳴り響く。
「あ、私、次降ります」
「あ、んじゃついた時わしどきますねー」
女の子は了解しました、という体で返してきてくれた。
そして、私が窓のところにあるボタンを押すと、
ぽーんという音が響き、
「次、とまります」という無機質な声が聞こえた。
「席ありがとーございました!
わし運動不足だからたちっぱだときつくって!」
「私も、色々お喋りできて楽しかったです!」
「わしも楽しかったっす!あ、もう着くっぽいですよ」
彼女にそう言われ、私は席から立ち上がる。
最後に軽くお互いに会釈して、私達は別れた。
バスを降りて、一人になると、
不意に寂しいような気持ちになった。
いい子だったなぁ。
きっと、普通に暮らしてきて、
普通の友達に囲まれて過ごしているんだろうな。
私とは違って……。
そんなことを考えながら、ぼんやりとバスの方を見ると、
気を抜いていたせいか、
『見えてはいけないはずのもの』が見えてしまった。
「え……?」
次の停車駅で、乗ってくる黒ずくめの集団。
廃工場で縛られるバスの乗客。
そこには、さっきの女の子の姿も。
「嘘……嘘だよね?」
でも、本当は知っている。
私のこの『目』は、決して外れないということを、
嫌というほど思い知らされている。
「あ……今度は何だろう」
廃工場に忍び込む、少年少女の姿が見える。
皆、目が赤くて――あれは、私?
はっと我に返って、私は辺りを見回す。
行かなくちゃ。
衝動的にそう思った。
何処に行けばいいのかはわからない。
でも、私が動かないと、
この未来は、きっと実現できないだろうから。
いつも何処かから声が聞こえるんです
ねぇ、それでいいの?って
動けば救えた未来もあったかもしれない
だからもう私は後悔しないように動こうと思います




