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第十九話「名付けの日」




奇妙な集団との出会い

奇妙な体験だらけ

俺の両目に宿ったモノも

それに起因するものなのかもしれない




「さて、そろそろ他のメンバーも来る頃だと思うが……」


ちらり、とイシカが緑茶を啜りながら

壁に掛けてある時計を眺めた。

時刻は午前10時を回ったところだ。


ユカリは幸せそうにおはぎを頬張っている。

昨日も食べてなかったか。


イシカの言葉を反芻しながらぼんやりと

『保健室』の扉を見つめていると、

二つの足音が近づき、扉がガラリと勢いよく開かれた。


「ちわーっす」

「こん」

「おー来たか。噂をすれば何とやらだな」


片手を上げて

イシカが入ってきたカズとリーフに会釈する。


「おば!」

「おば!あれ?ウソカジさんだ!」


カズは俺の方を見ると嬉しそうに声をかけてきた。

ユカリの挨拶に普通に返してるところを見ると、

やっぱりこれはここの公用語であるらしい。


「こんにちはー。俺のことはうそかじでいいよ」

「じゃあ俺のことはカズって呼んで!」

「俺もリーフでいい」


俺が呼び捨てでいいと言うと、

カズとリーフも呼び捨てで呼ぶよう頼んできた。

ここの人達は呼び捨てがデフォルトみたいだし、

あんまり気にしない。


「あ、そうだ聞いてくれカズ、リーフさん。

かじやんも今日から正式に仲間になるから」

「正式に仲間……?ってことは、

ウソカジも俺達みたいな能力を持ってたってこと?」


イシカがそう伝えると、リーフが意外そうな顔をして言った。


「持ってた、っていうか発現したのは昨日の夜だけどな」

「そうなんだ!じゃあ名前は?決まってるの?」


カズがはしゃいだように言った。

名前?名前って何?


「それはまだだな」

「じゃあ決めよう!」


俺の知らないところで

どんどん話が進行しているような気がしたけど、

この人達にはきっと何を言っても無駄だろうというのが

昨日今日で学んだことだった。


「あ、かじやん、知らない?私達の能力には皆名前があるんだよ」


ユカリがにこやかに俺に言う。

何それ初耳。

というか自分で決めるんだね名前。


「俺が、『目を移す』。カズが、『目を喰らう』。

ユカリが、『目を背ける』。ムクが、『目を癒す』。

イシカが、『目を起こす』」


リーフが淡々と全員の能力の名前を挙げていく。

どうやら、皆、目に関連する言葉のようだ。

それに補足するように、イシカが説明を続けた。


「一口に能力って言うと誰のかわかりにくいしな。

それに……」


ちっちっち、と指を左右に振りながら、

イシカはためて、次の言葉を言う。


「カッコイイからな」


あ、この人、絶対こっちが本音だ。

いい年して中二病の人だ。


「さあさあ名前をつけたまえ!自分のその能力に!」


びしぃ!と効果音が付きそうなくらい

勢いよくイシカが人差し指を突き出す。

そして楽しそうにカズが「つけたまへー」と復唱した。

きっと今の俺はめんどくさそうな顔をしているだろう。


でも、皆の興味津々な視線に晒された俺は

(約一名は何かを期待する眼差しだ……

こういうのが好きなんだな)、

やはり何か考えなければならないだろうと逡巡し、

やがて、口を開いて言った。


「じゃあ、この能力は――」


ピリリリリ!


俺が言おうとした刹那、

色気の無い着信音が保健室中に響き渡った。


「あー……俺だ」


ばつの悪そうな顔をして

イシカが申し訳なさそうに頭を掻く。


「悪ぃ、ちょっと見るわ。……メールみたいだな」


片手で紺色の二つ折りの携帯電話を開くと、

イシカは画面を注視し、驚愕に満ちた目つきになり、

最後に渋い顔をして携帯を閉じた。


「どうしたの?」


そう俺が聞くと、

イシカは無言で携帯を再び開き、

俺達に画面を見せてきた。


そこには――


20XX/12/27 10:21

From:むく

Subject:無題

―――――――――――――――――――


おはよーございまっす。

そっち行く途中でバスジャックに

遭っちゃいましたー。

ギリギリ携帯取り上げられてないけど

そろそろやばいっぽいんで連絡しました。

今は町外れの廃工場に

向かってるっぽいでーす。

救出求む!


P.S.

一応警察にも連絡しといて下さい(*´ω`*)


    ――――END――――


呑気極まりない、救出要請エスオーエスがあった。




文面と状況の温度差に

俺達は呆気に取られた

暫くして働かない脳で

警察に電話したのは言うまでもない




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