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第十八話「光の差した日」




私達は 思い知った

孤独って こんなものなんだ

もしも本当に一人だったならば

どうなっていただろうか




『私が説明します。くれあ、泣き止んで』


泣きじゃくるくれあに私は軽く肩を叩きながら言った。

それを受けた彼女は泣き止むことはなかったけど、

無言で頷いた。


うん、と私は一つ頷いてから、

さあ、ここが正念場、と三人に向き合った。


『最近起こっている神隠し事件を知っていますか?

……ああ、知らなくても大丈夫です』


困惑したような表情の三人を見て、一旦言葉を切る。


「身の回りの人が少しずつ、少しずつ消えているの」


ぐす、ぐす、としゃくりながら、

くれあがたどたどしく説明する。

涙を袖で拭いて、くれあは言葉を続けた。


「初めにいなくなったのは、クラスの子だった。

あんまり喋ったこともなかったけど、

ある日突然、いなくなってて」


そう、初めの異変はそれだった。


「でも、皆その子のこと知らないっていうの!

初めからいなかったみたいに!」


興奮したように叫んで、

また、くれあは俯いて顔を覆って泣き出した。


くれあが泣いてくれてよかった。

もしもそうでなかったら、

私まで平静を保てなかっただろうから。


一日学校に来ないだけだったら、何も思わなかった。

だけど、それだけでなく、

その子の席、その子の名簿、

その子がいた痕跡が全部消えていた時は、背中に寒気が走った。


なんでこんなに完璧に、

忘れられたことにも気づかれないほど完全に、

存在自体が抹消されているのかと。


どういうことだ、と言いたげな三人の顔を見て、

私が続きを話す。


『そのことに気付いているのは私とくれあだけでした。

そこで、私達はある仮説を立てたんです』


仮説、と言っても、もしかして、

という程度の曖昧なものではあるけれど。


『"この瞳を持っている人は

いなくなった人のことを忘れない"んじゃないかって』


きらり、と赤い目で三人を見つめながら私は言う。


「それで、同じような瞳を持っている人を探してて、

クロトさんを偶然見つけて……」

「ちょっと待て。

なんでそれがクロトを襲うことに繋がるんだ?」


ずい、と右手をパーの形に突き出して、

くれあを倒した男子生徒が話を遮る。

さっきまでの飄々とした表情とは打って変わって、

困惑の色を浮かべている。


「だ、だって、いきなりこんな話しても

信じてもらえないと思ったしっ、

それだったら一度勝負して勝ってから話そうかと……」


おろおろとしながらくれあが弁明をする。

無理矢理な方法だとは思ったけど、

私達はそうでもしないと

話が聞いてもらえると思ってなかったから――


「お前はアホか!?」

「痛っ!?」


ヤマトさんがくれあの頭に

容赦なく右手でチョップを下ろす。

その光景に全員唖然とした。

憤慨したように腕を組みながら、

ヤマトさんは強い口調で言う。


「あのな、こいつは襲ったお前に

手を差し伸べるお人好しなんだぞ!?

そんな話、聞かないわけないだろ!」

「あの、ヤマト、それ、

貶してんのか褒めてんのかわかんないんだけど?」


クロトさんがジト目でヤマトさんを見る。

私はぽかんとしながらその光景を見ていた。

もう一人の中等部の男子生徒さんは

くつくつと笑い始めている。


「ヤマトがぶったぁ~……」


くれあが叩かれたところを押さえながら涙目で呻いた。


「あーあ。ヤマトが泣かせたー」

「なんでオレが悪者みたいになってんの!?」


クロトさんがヤマトさんを指さしながら非難すると、

ヤマトさんは焦ったように叫んだ。


……この人達なら、信用できるかもしれない。


ふ、と少し緊張を解くと、

静観していた男子生徒さんが私の方に近づいて来て、

そっと言った。


「色々厳しい目に遭ってきて

疑心暗鬼になってたかもしんないけど、

世の中冷たいだけでもないんだぜ?」


そう言って、彼はわいわいと騒いでいる三人を見た。

私も一緒にそれを見て、笑う。


『はい』




「……」


和気藹々とした五名。

その様子を、屋上にいる人物が、静かに見つめていた。




私達は 思い知った

孤独ってこんなものなんだと

そしてその中でも希望という光は

存在しているんだと




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