第十六話「決着の日」
決着は 存外あっけなくて
長く永く続くと思われた試合も
いつかはきっと笛が鳴り響く様に
終わりは必ずやってくるものなんだ
「退いてくれる?貴方に用はないんだ」
「ところがどっこいそういうわけにもいかなくてね」
冷たい視線で睨む咲野に、飄々とした口調で返すセンコウ。
「この、時間のない時に…」
咲野の表情はどんどん険しくなる一方だ。
「うにー…大丈夫かなー」
「アイツが大丈夫って言ったから大丈夫だろ、
信じて待ってようぜ」
そう言いながら、オレはさっきセンコウに説明した
”気になる点”を思い出していた。
「わかった、君を倒してから後ろで
様子を窺っている二人のところへ行くよっ!」
――『二つ、気になったことがある』
叫んだ咲野が昇降口のガラスを見つめると、
再び新たなヒビが入った。
割れるまでには、至っていない。
――『一つは、クロトの力を使っているにしては
明らかに威力が低いこと』
もしもオリジナルの能力の保有者であるクロトが、
ガラスに対して壊れるよう念じたのならば、
ガラスはヒビどころか粉々になっていることだろう。
もしかすると咲野のコピー能力は、
オリジナルの力には劣るのかもしれない。
――『そして二つ目は――』
次に咲野がセンコウの頭上の外れかかった蛍光灯を見つめる。
あれくらいならば、
劣化した能力でも落として攻撃することは可能だろう。
「ちょっと痛いかもしれないけどしょうがないよね!」
咲野もそれを狙っていたのか、勝ち誇ったように叫ぶ。
真下にいたセンコウはその場から動けない。
否、動かない。
「う……そ……!?」
咲野が驚愕した顔でセンコウを見つめる。
「ざーんねん」
両手を緩く上げて、
センコウは「やれやれ」のポーズをとった。
さっき聞いたセンコウの能力、『目を返す』。
力のベクトルを跳ね返す能力。
物理法則に従って落ちてきた蛍光灯は、
物理法則に逆らって天井に叩きつけられる。
当然、割れた破片がセンコウに降り注ぐ――と思いきや、
破片はセンコウを避けて落ちていく。
こいつといいクロトといい、派手な能力だなとこっそり思う。
呆然とした咲野の瞳のピンク色の輝きが力を失ったように消えた。
それに気づいた榎木の声(思念)が、オレ達の頭に響いてくる。
『……タイムアップだね、くれあ』
「え……?あ……!」
それを聞いておろおろとした様子で
咲野が自らの瞳に手をやる。
――『咲野が必要以上に時間を気にして焦っているってことだ』
そう、オレが感じたもう一つの気になったこと。
確証はなかったけど、今ので断言できる。
ここに至るまで、『早く、終わらせよう』
『君の相手をしているヒマはないんだけどなあ?』など、
時間の経過ごとに咲野は苛立ちを大きくしていた。
きっと咲野の能力は時間制限付きなのだろう。
だから、邪魔が入る度に
行動が荒々しくなっていったのだと推察できる。
「降参します。私達の負けです……」
絞り出すような声で咲野が言う。
もう抵抗の意志はないといった風だ。
「どうしてこんなことをしたのか説明してくれる?」
座り込む咲野に手を差し伸べながら、
クロトは純粋に質問した。
さっき散々な目に遭ったって言うのに、
コイツも大概お人よしだ。
「……けて」
「え?」
小さな声で咲野が何かを言った。
オレと同じで聞こえなかったのであろうクロトは、
疑問符をつけて聞き返す。
「助けて……!」
顔を上げた咲野の瞳からは
一筋の涙が零れていた。
笑顔を捨て涙を流す少女
俯いたまま黙した少女
余りにも重い「助けて」の言葉に
オレ達はただ動揺するしかなかった




