第十五話「目の話の日」
非現実的に赤く光る目
そんな人を今日何人も見た
関係ないと思っていた僕も
その赤く光る目の一員になっていて
「俺の喋り方は気にするな!
性格だ!もっと他に聞くべきことがあるだろ!?」
だーもう!といった感じで左手をぶんぶんと顔の前で振るイシカ。
聞くべきこと……そうだった。
「……『目の能力』って何?」
最初に聞くべき事はやはりこれだろう。
イシカは「待ってました」とばかりに説明を始めた。
「昼間にいくつか見たと思うが、俺達の持っている不思議な力のことだ」
君はムクの能力を見たんだっけか?と聞くイシカに、僕はコクリと頷いた。
ムクだけじゃなく、カズのも、そして恐らくユカリの能力も。
「今ここで実演したいけど俺の能力地味だからなー。
君には朝使ったんだが、まさかあんなことになるとは」
「もしかして、一瞬目が赤く光ってたのは見間違えじゃない?」
今日の朝、僕がぶつかったのは
思い出してみれば確かに目の前にいるこの人だった。
あの時、僕にはこの人の目が一瞬赤く光ったように見えた。
そして、カズも、ユカリも、ムクも、
目が赤く光ったことを僕は確認している。
「そうだな。俺たちに共通しているのは
『能力を使った時に目が赤く光ること』だ」
そう言ったイシカの瞳は今は赤く光っていない。
「俺の能力は『目を起こす』。
自分の幸運を他の誰かに分け与えることが出来る能力だ」
ああ、だからあの時……
(「君にいいことがありますように」)
ただの変な人ってわけじゃなくて、
確証を持ってそう言ったのか。
漸く合点がいった。
「あげた分俺には不運なことが起こるんだけどな。
今日のすっ転びっぷりは人生で一、二にランクインするぜ……」
僕は『保健室』に来室した時のイシカの姿を思い出す。
「あ、僕……今日占い最下位だったよ」
「マジか!?だからか……」
泥やら埃まみれだったのはそういう経緯があったらしい。
「ま、幸か不幸かそれで君は生きられたのかもしれないな。
襲われたって聞いたぞ」
「あの人たちはいったい何……?」
「残念ながら俺達にもよくわかっていない」
彼女は両手を上げて「お手上げ」のポーズをとる。
「分かっているのは、
『俺達みたいな能力者を襲うということ』と
『彼らも能力者らしい』ということだ」
僕は、昼間の鮮烈な記憶を呼び起こした。
だらりと垂らされた手、虚ろな足取り、
握られた無機質な凶器。
そして、異様に光る赤い瞳。
「そういえば、目が赤かった」
「ユカリの能力が有効だったしな。
なんらかの能力者だとは考えていいだろう」
「ユカリの能力って?」
それを受けてイシカはふっ、と口元を緩めた。
「それは明日本人から聞くといい。
他の人の能力も聞けるだろう」
なるほど、彼女達も人づてに教えられるより
自分で説明した方がいいのかもしれない。
「それよりも……そうだな、君の能力を特定しないとな」
顎に手を当てて数秒うーんと唸ったイシカは、
「やっぱこの方法しかないよな」と
ぶつぶつ呟いて一人で納得したように頷き立ち上がった。
「よし、俺に使ってみてくれ」
「え?使うってどうやって」
「うーん、気合だ!うん!」
そんなアバウトな。気合?気合ってなんだよ。
根性論?もっと分かりやすく説明してよ……。
追加で与えられたヒントも
「とりあえず傾向からして目を合わせれば
上手くいく気がする!多分!」
というアバウト極まりない情報。
もうどうにでもなれ……。
僕はわからないままに自分の瞳に意識を集中させた。
「おっ、目が赤く……な……」
イシカの顔がぱっと輝いたと思うと、
彼女はそのまま無抵抗に畳に崩れ落ちた。
「!?」
僕はびっくりして慌てて介抱しようとする。
すると。
「……すー」
聞こえてきたのは健やかな寝息。
「イシカ?イシカー!?起きてよ!?」
アンタ隣の部屋で寝るんだろ!?
「すやー……」
ゆすっても叩いても全く瞳を開く気配のないイシカに
僕はただ慌てるだけだった。
今日は本当に散々だった
でもようやく終わりらしい
ただこの状況をどうにかしないと
僕の今日は終われない




