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1章の2

 咲浜医療センター。同名の咲浜アイランドという人工島に建つ、高度医療施設を備えた病院である。

 建つ、と言うよりもむしろ、病院全体が一つの島になっていると言う方が、この島の様子を正確に示している。

 小さな町ほどの規模を有する人工島。そのほぼ全てを、咲浜医療センターの敷地が占めている。

 単に巨大な病院が一つ、どかんと建っているわけではない。

 初診の患者を診る第一病棟、入院施設が主の第二病棟、検査施設の揃う第三病棟と、三つの病棟が隣接した格好になっている。晴道が入院しているのは第三病棟だ。

 三つの病棟の他に、付属の研究施設や救急外来、特殊な処置のための施設もあるが、いかんせん医学に疎い晴道は覚えきれていない。

 この他にも、入院患者の見舞いに来た家族向けの、ちょっとした店などもあるらしい。まさに病院のための島だ。

 と、咲浜アイランドの概要を知る晴道ではあるが、外出を禁じられていたせいで実際に歩き回った事は無い。救急車で運び込まれた時は意識を失っていたし、第一病棟から今の第三病棟へ移る時は地下通路を通った。だから島の全容は未だ把握できていなかった。

 おかげで、医師の誘った中庭とやらを見てみるのも、なかなか楽しみだった。

 病棟自体はさほど複雑な構造でないものの、設備の関係からか所々いびつな造りの部分もある。そのせいで、平行に並ぶ三つの病棟の間にはぽつぽつと間隙ができていた。

 晴道が案内されたのは、第二病棟と第三病棟のすき間にできた、坪庭のような空間だった。

「へぇ……こんな所もあったんだ」

 晴道は感心しながら中庭を見回した。

 坪庭と形容しても、決して狭い空間ではない。周囲を壁に囲まれつつ、ぽっかりと空いた空間には、ちゃんと庭と言えるくらいの陽が差している。床はウッドデッキになっていて、隅には樹が植えてある。花壇に植えられた緑は何だろうか。

「ここは、普通の病院とは違った視点でデザインされた施設だからね。人工島全体を病院にしてしまおう、という大胆な発想も、先端技術を駆使するためには随分と役に立ったよ」

「人工島だと都合がいいものなのか?」

 振り返りながら問う晴道。

 医師は看護師と連れ立って歩み来ていた。

 彼は頷くと、

「一般世間からの干渉を最小限に防げるという点が一番大きいな。何せここ咲浜アイランドは、この咲浜医療センターのための島だからね。病院に用が無い人間は来ないし、そもそも入れなくなっている」

 つらつらと答えた。

 晴道は奇妙な感じを覚えた。

 世間からの干渉を防げる? この病院はそんなに閉鎖的な施設なのか?

「この島に来た時の事は覚えていないだろう。交通事故の怪我で昏睡状態だったからね」

 当惑しつつも頷く晴道。

 医師は満足そうに笑んだ。

「つまりキミは、島への交通がどうなっているかも知らないわけだ。ここは変わっていてね。救急外来がある以上、救急車は通すんだけれど、普通の病院でまかなえそうな患者は本島との連絡道路の時点でお断りしているんだよ。だから交通量はごく少量だし、連絡橋も一本しかない」

 つまり、ここは患者を選んでいるということだ。

 しかも彼の言い草から、救急車を入れる事も歓迎していないようだ。

 ――追い返されなかった俺は何をクリアしていたんだ?

 晴道は医師を見つめ返した。

「じゃあ、ここで診てる患者はどんな条件をクリアした奴なんだ? 普通の病気や怪我じゃないんだろ?」

 医師は後ろに手を組み、一歩こちらへと踏み出した。

「価値ある人間――と言えるかな」

 聡明そうな瞳が晴道をはっきりと捉える。

「価値?」

 思ってもみなかった答えに、晴道は動揺を隠しきれなかった。医師が近づいた一歩分、足を退いて問い返す。

「価値って……どういう意味だよ。研究対象ってことか?」

「惜しいな。しかし鋭いね。なかなかいい点を突いている。少なからず自覚があったということだろうか。それとも……検査があからさますぎたか?」

 更に不可解な事を言う医師。独り言となって消え入ったセリフが、ますます晴道の疑問を煽り立てた。

 価値ある人間だけを診る病院?

 この医師は、どういう目的で俺を診ていたんだ?

「なぁ、あんた――」

 普通の医者なんだよな、と晴道は今更ながら確認しようとした。

 しかし医師は、軽く片手を上げて制した。

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