プロローグ
突然変異。
偶発的に生じるDNA配列の変化を指す用語である。配列の欠損、重複などその変化は多種多様だ。
しかしある種の科学の場合、この用語は配列変化によって生じた〝新種の遺伝子及びそれから導かれる形質〟を指すと決められている。
この定義に則った突然変異を持つ個体は変異種と呼ばれ、彼らは遺伝子にコードされた特異な形質を発現することができる。その形質は一般科学法則を完全に無視した現象を引き起こすため〝特殊能力〟と言っても過言ではない。
そして突然変異は、その内容が有用であると認識されれば貴重な資源となりうる。
遺伝子を解析し、人工的に合成、他の個体に導入すれば、同一の形質を持った変異種を作り出すことができる。クローニング技術を駆使すれば、同一変異種の大量生産も可能である。
無論このような技術は一般社会に認知されておらず、存在が露見したとしても非人道的だと受け入れられないだろう。
むしろ一般人に対して驚異的な存在である変異種こそが、一つの〝悪〟なのである。
それでは、不要な突然変異を完全に抹消するためには、いかなる手法を取ればよいか。
答えは簡単だ。
突然変異を持つ個体を全て、殺してしまえばいい。
偶然変異種となった彼らに罪は無い?
否。
彼らの存在自体が罪なのだ。