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前篇

初期のころのグリム童話並みに残酷な表現があります。

苦手な方は回れ右をお願いいたします。

☆三話ぐらいの予定(いい加減ですいませんw)

 昔々、あるところにとても小さな国がありました。

 その国の王さまとお妃さまはとても仲睦まじく、貴族からも国民からも慕われておりました。

 幸せに暮らしていた王さまとお妃さまにはひとつだけ心を曇らせることがありました。

 それは何かと申しますと、お妃さまが嫁いできて二十年になるというのにいまだに子供がいないことでした。

 仲が良すぎると子供ができないとよく言われますが、王さまとお妃さまはまさにそうでした。

 こればかりは神様の授かりもの、どんなに願ってもできないものはできないと諦めてかけていたころ、一人のひめを授かりました。

 おひめさまはお妃さまそっくりの美しい黒髪と深い湖のような瞳を持つ、大変美しい赤子でした。

 王さまとお妃さまの喜びようったらありませんでした。

 貴族も国民も誰もが喜んで、国中からお祝いの声があがりました。

 ただ、おひめさまは小さく小さく生まれたために身体が弱く、かみさまの御元に早く呼ばれるかもしれないとお医者さまは言いました。

 王さまとお妃さまは嘆き悲しみましたが、嘆いてばかりいてもひめのためになりません。

 そこで二人は考えました。

 

 どうしたら小さなひめを失わなくてすむのだろうか。


 王さまはおひめさまが気持ちよく過ごせるように心配りしました。

 お妃さまはおひめさまのために身体にいいと言われる食べ物を世界中から取り寄せました。

 家臣たちはおひめさまが危ない目に会わないように守っていました。


 繊細な陶器のように大切にされた小さな小さな赤子は、王さまとお妃さまの願いどおりすくすくと育ちました。

 城の中ではおひめさまのいうことを何でも聞いてくれる大人は沢山いました。

 庭にいる小さな小鳥を近くで見たいからつかまえてと言ったときは、近くにいた侍女や衛兵が捕まえておひめさまに差し出しましたし、紅茶の味が口に合わないと言えば侍女がすぐに新しい茶葉で淹れなおししました。パンをこぼして少し汚れたドレスは直ぐに新しいドレスに着替えることができましたし、そのドレスは小さな身体に負担にならないように特別上等な薄い布地を使われていました。

 おひめさまは何不自由なく、またみなから守られてくらしていました。

 


 あるとき、王さまとお妃さまはおひめさまに同じ年頃の友人が必要だと考えました。

 今までは小さいおひめさまが大きくるために心を砕いていたのですが、そろそろ同年代の心を許せる相手を持ってもいいかと考えたからでした。 

 そこで臣下である貴族の子供の中から自分達のおひめさまに相応しい子供を一人選び出し、おひめさまの友人としました。

 その娘はきらきらと輝く黄金の髪と秋の空を思わせるような透き通った青い瞳を持っていました。

 おひめさまは言いました。

 

 「その美しい髪と瞳が欲しい」


 王さまもお妃さまも、おひめさまの言葉を大変喜びました。

 いままでおひめさまは「欲しい」といったことがなかったのです。

 それだけで友人を持たそうと考えた甲斐があったというものでした。


 けれどもその言葉を告げられた娘は呆然としました。

 おひめさまはとても美しい黒髪と静けさをたたえた湖の深い緑の瞳を持っているのです。

 自分の髪も瞳もこの小さな国では珍しくない色でした。


 「髪も瞳も差し上げることはできませんが、私はこれからずっとひめさまのおそばにおります。それではだめでしょうか」


 娘としてはしごく当然のことをいったのですが、おひめさまは納得しませんでした。


 「いいや。そなたの髪を切ってわたくしのかつらに。瞳はちょうどふたつあるのだからひとつくらいなくても不自由ではなかろう」


 おひめさまは笑いながら言いました。

 娘は顔を真っ青にして後ずさりしましたが、おひめさまの命令で衛兵に両脇をつかまれ、泣き叫びながら隣の部屋へと連れていかれました。

 隣の部屋からは泣き叫び許しを請い、そして耳を覆いたくなるほどの叫び声があがりましたが、おひめさまは首をかしげるばかりです。


 「なぜあのものはあのように叫ぶのじゃ。黄金の髪は切ったとしてもまた生えてくるであろうし、澄んだ瞳も二つもいらぬであろう?ひとつくらいわらわがもろうてもなんの問題でもないであろうに」


 王さまもお妃さまもおひめさまの言葉にもっともだと頷きました。

 おひめさまがいうように髪はきったとしてもまた生えてきますし、瞳もひとつあれば不自由はないでしょう。

 おひめさまが欲しいというのであれば差し出すのが臣下です。

 友人にと望み、それを了承した娘なのですから、それくらいはわからなければならないのです。


 「まあほんとうに。そなたが欲しがるものを自ら差し出そうともしないで、なんて気のきかない娘だったんでしょう。年齢も近く家柄もよく、そなたの友人としてふさわしいと考えたのですが親の教育がわるかったのでしょう。不愉快な娘も教育もまともにできない親も二度とこの城に足を運ばないようにしなければなりませんね」


 お妃さまは宰相を呼ぶと、娘の親の称号はく奪をいいわたしました。

 宰相は耳を疑いました。

 そもそも娘の髪を切ってかつらに仕立てよとか、ふたつあるうちの一つの瞳を寄こせなどということを諌めもせずに、逆に喜んで差し出さなければならないなどとお妃さまがいうほうが間違っているのです。

 宰相は果敢にも王さまに申し立てました。

 

 「称号はく奪をするほどの罪はかの人にはございません」


 すると王さまは大切なおひめさまの前でお妃さまのいうとおりにできないなどとあってはならないと言い、宰相を牢屋に連れていくように衛兵に命令しました。

 衛兵たちは戸惑いましたが、王さまの命令は絶対です。もし逆らえば次は自分が牢屋にはいらなければなりません。王さまに一礼するとともに何の罪もない宰相を両脇から逃げないように挟み込み、牢屋に連れ去って行きました。

 王さまは至極満足して、おひめさまの黒く艶やかな黒髪を撫でました。

 お妃さまも至極満足して、おひめさまにやさしく微笑みかけました。

 そうしておひめさまの手には黄金に波打つ美しいかつらと綺麗なぎやまんに入れられた何も映すことのない瞳が入ったのです。

 後には豊かだった黄金の髪を根こそぎ切り落とされて片目になってしまった娘だけがとりのこされました。


 

 つぎに友人に選んだのは、髪も瞳も平凡な茶色の娘でしたが,おひめさまの友人に相応しい教養と知性を持ち合わせた素晴らしい娘でした。

 おひめさまは言いました。


 「そなたの指は素晴らしく細く長く美しい。わらわはこの指が欲しい」


 王さまもお妃さまも喜びました。

 おひめさまからまた「欲しい」という言葉を聴けたのです。

 もちろんすぐにその娘の指を全部残らず切り落とし、絹と真綿にくるんでおひめさまに差し出されました。

 隣の部屋では泣き叫ぶ娘が取り残されました。



 今度の娘は茶色の髪と新緑の瞳を持っていました。

 もちろんおひめさまの友人に相応しい容姿と謙虚さを持ち合わせていました。

 おひめさまは言いました。


 「そなた、素晴らしく小さな足をしておるな。わらわはその足がほしい」


 王さまとお妃さまはまたまた喜びました。

 そして娘は隣の部屋に連れていかれ、つんざくような悲鳴と共に小さな足を失くしました。

 おひめさまの手には金襴と真綿でくるまれた青白く小さな足がのせられました。



 まったくもって友人というのは素晴らしい。

 欲のなかったおひめさまに「欲しい」と言わすものが何かある。


 王さまは自分の考えが酷く素晴らしいものに思えてなりませんでした。

 お妃さまも王さまに微笑みながら頷きます。

 あの小さく産んでしまって大きくなれないかもしれないと言われていたひめが、自分たちのたゆまぬ努力ですくすくと平穏無事に育ち、無欲な素晴らしい娘になったのです。

 すこしくらい他の娘のよいところを欲しがったとしても誰がいけないというのでしょうか。


 

 それからというものの、お城の周りでは女の子の悲痛な叫び声が絶え間なく聞こえるようになりました。

 

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