第二十九話:間抜けな人の、光の声
第二十九話
さっさと行こうと思い、正門の外まで走ってから気付いた。
「・・・バッグ忘れた。」
悩む。取りに帰るべきかそのまま行くか。・・・悩みどころね。
この悩んでる時間のせいで遅くなってるって気付いたのは、もう少し後。
5分ほど悩んでから決めた。
元の方向に走り出す。さっさとバッグを取って、行こう!
今は授業中。そんなときにドアを開けたらどうなるか、理解できる。そんな事は関係ない!邪魔する人は・・・、どうしよ?
くだらない事を考えてその思考を振り払う。
走って走る。その事しか考えない。
ガタンっ!
「失礼します!」
「え・・・?ちょっと!さつき!」
「なにをやってるんですか!霧月さん!さっさと・・・。」
そんな話は聞かない。私はバッグをとって走り出す。
「リョウ!後よろしく!失礼しました!」
私はさっさと教室を出た。
リョウが後ろでつぶやいたのが聞こえた。
「―――ま、頑張ってきなよ。」
ただ、ひたすら走った。息が切れる。でも、そんなの気にしていられない。私の限界速度で走る。
持久走の時よりも、サッカーの試合の全力よりも、全速力で走る。
「はぁっ、はぁっ。」
完全に息が乱れた。赤信号だ。・・・邪魔だなぁ。撥ねられるのは嫌だ。だけど、急ぎたい。
微妙な葛藤に、心が支配される。
―――そんなことやってるうちに青になった。
走って、もう体力がなくなりそうなときに、駅が見えた。
最後の力で走りきる。かばんからカード入れを出し、当てる。さっさと通って、ホームへ駆け上がる。
・・・暑い。体が火照る。すぐそこに自販機がないか探すが、見つからない。
「はぁっ、はぁっ。疲れた・・・。暑い・・・。」
早く来て!早く!
待ちきれない。
その気持ちで支配されかかったとき、電車が入ってきた。乗って、席が空いているから座る。
この時間の学生服は珍しい。でも見てこられるのは嫌だ。
「はぁ〜。」
少しぼーっとしないと持たないのに。気持ちが張り詰めてしまう。
降りるべき駅がきた。止まる前に立ち上がって、ドアの前まで歩く。景色が移動する。
ドアが開いて、また走り出した。
なんで、私はこんなに空君が好きなのに、大好きなのに、あんなひどい事を言ってしまったの?
その問いに答えるものはない。
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もう、どこをどう走ったかを覚えられないほど、私は全力で走った。
足がもつれる。情けない・・・。たった少しを走るだけに、どうしてこんなに体力が減ってしまうのだろう。
もう景色は、ゆっくりとしか動かない。景色を追っていると、一つ、大きいものが見えてきた。
だいぶ、見覚えのある、大きな木造建築。
脳に酸素がいかないせいで、それが何かわからない。
動悸が治まってくると、やっと何かがわかった。
「空君の・・・家・・・。」
やっとついた・・・。
ふらふらと歩いて、インターフォンのところで立ち止まる。
チャイムを鳴らし、返事も聞かずに歩いていく。
ドアが開いた。
「こんにちわ、霧月先輩。」
そこには明らかに隠し切れない敵意と、悲しみと、悔しさが浮かんでいた。
「ええ、・・・こんにちわ。」
なぜそんな表情が浮かんでいるのだろう?
「では来て下さい。俺じゃあ、無理なんだ・・・!空を頼む。」
「え!ちょっと栄介君!?」
その言葉だけを言って、栄介君はいなくなってしまった。
「いったいなにが起こっているの・・・?」
一つだけ、ふすまが開いている部屋がある。そこへ入っていった。
「―――っ、な、なに・・・?これ・・・!」
そこには空君がいた。確かに空君だと思う。でも、その姿は、普段の彼と全然違う。
「うう・・・、うわあああぁ!!」
「空君!?」
ひときわ強くうなった後、彼は縮こまる。
「やめてよ・・・。・・か・・ん・・・。」
後のほうの言葉は聞こえなかった。
見ていられない!空君!
気がついたら、私は彼の手を握っていた。
「私はここにいるから!だから・・・。」
だからの後には、何も言葉が出ない。
それでも、少し彼はおとなしくなった。
なんで彼だけが、こんなに傷つかなくちゃいけないの?空君は・・・、
「やさしすぎるよ・・・。なんで・・・、自分が全てを背負っちゃうの・・・?」
目から、しずくが落ちた気がした。
それをぬぐわず、私は栄介君に電話をかけた。
『空君・・・、何の夢を見てるの・・・?』
『空か・・・。他人に一切口外しないって誓えるか?今から行く。』
そういって、彼との電話が切れた。
空君・・・。
栄介君がやってきた。さっさと入ってきて、私の隣に座る。
「リョウ先輩がいるから知ってると思うけど、あいつの母親が父親を殺したのは知ってるだろ?」
「ええ。」
それなら聞いた。でも、それじゃ納得できない部分が多すぎる。
リョウも、母親は死刑になっただろうと言っているし、どうしてこんなになってしまうのかがわからない。
「こっから先は知らないと思うだろう事だ。心して聞け。」
私はその口調に、つい居住まいを正した。
「あいつの母親は、脱走したんだ。数年前に。」
「え・・・。それならニュースになるでしょ!?」
「なるわけがない。それがばれる前に、くそばばあは死んだからだ。」
話がわからない・・・。
「理解してないみたいだから、時間軸で言うよ。」
一息おいて話し出す。
「まず、くそばばあが、空の父を殺す。そして豚箱に、くそばばあがぶち込まれる。脱獄し、空を殺しに現れたんだ。」
「なんで・・・?」
「どうせ逆恨みだろ。こいつさえいなければってな。」
何か言いたげな顔の私を無視して話を続ける。
「問題はここからだ。空を殺しにきたあいつは、深夜に襲った。この家には刀があったしな。」
「刀なんてあるの!?」
まず私はそこに驚いた。でも、彼は一睨みして話を続けた。
「刀はあった。そんなのはどうでもいい。それで、空が返り討ちにした。」
「え・・・。」
「それでうちに電話してきて、いろいろあったんだろうけどな。」
気になる内容ばっかりだ!そんなことがあったの・・・?私なら耐えられない・・・。
「いろいろって・・・?」
「そこまでは聞けない。聞くのは常識はずれだ。」
そういい残すと、彼は立ち去っていった。
この空間にいるのは、私と空君だけ。そろそろ帰らないと。
「次の日曜日の10時、私試合があるの。聞こえてるのなら見に来て・・・!場所は鑓川グラウンド。お願い!」
空君がしゃべったような気がした。振り向いたけど、そんな痕跡はない。
私は立ち去った。でも、聞こえた音はなんだったのだろう?
空side
何も考えられない・・・。声が聞こえてきた気がする。
「日曜日・・・10時・・・鑓川グラウンド・・・。」
ぼくが大好きな人の声が聞こえた・・・。ぼくにとっての光・・・。
ぼくは、返事をしたのかなぁ・・・?自分で拒絶したくせに。
だいぶ遅いです・・・。受験やだ〜!
とりあえず頑張りますので!
そろそろこの話も終わります
では〜