第二十六話:二人の別れ
第二十六話
「まちなさ〜い!!!」
「いやだ!!!」
俺は後ろのなにかから逃げる。・・・なにかって言ってもなにかは分かってるけど。あのお嬢様の口調の、実際は大してお金持ちじゃない人。この前告白してきたあいつ。
泉みさき。
なんでここまで情報を持っているかは、極秘で。
って言うよりなんで俺は逃げてんだ?俺ってなんで追われてんの?なんか疚しいことをしたっけ・・・。
「つかまえたわ!」
「だからなに・・・。」
そうだ。思い出した!なんか目が怖かったんだ。そういえば昼飯・・・。食い忘れてきた・・・。絶対あいつら食ったな。
「はぁ〜。」
「私と会って開口一番「はぁ〜」っとはなんですか!」
「・・で、なんのよう?」
こんな普通の時間が、俺にとっての幸せの時間。俺が昔壊したこと、いやな思いをほんの少しだけ忘れられる。
それでいいのか・・・?
・・・。何だ、今の声?
ま、いっか。
心に響いた声を無視した。
やっぱ昼飯は食われていた。ごちそーさま!っていう紙とともに、空の弁当箱があった。
とりあえずおごらせた。泣いていたけど気にしない!
今日はバイトへ行かないで、先輩と帰ることにした。
サッカー部の練習を見る。あ〜ちゃんと呼ぶのはもう恥ずかしいから、梓と呼ぶことにした。・・・、まだなれてないから先輩と言ったりしてるけど。
その梓が・・・、やっぱ言いづらい。梓先輩が攻撃を防いでクリアした。そのボールを受け取り霧月先輩が走る。数人をかわし、シュートを打った。
「うまいなぁ・・・。」
ハイタッチを交わす二人を見ながらつぶやいた。笑顔が見れる。それだけで、少しうれしい。
お前は・・・幸せでいいのか?
また聞こえた。なに?この声。俺の心をざくざくえぐる。
気にしたらダメだ。ココロが壊れる・・・。
10分後、練習が終わった。先輩を待つ。ちょっと暇だ。本を取り出し読み始めた。
ちょっとグロいシーンにかち合う。心の奥の「なにか」かが蠢く。そして少し、記憶がよみがえる。
光るものの柄を持った・・・俺。赤にまみれている、銀。
そう、だ。俺は・・・、人殺しだ。
それしか思い出せない。でも、その通りなんだ。
「はははははっ・・・。」
うつろな笑い声だなぁ〜。自分でもそう思えるほどの声だった。
「わらえね〜よ。マジ!」
そうだよ。俺は人殺しだ。今までの声もそうだ。全て、俺の後ろめたさが生み出した、俺の心だ。
俺は、このままでいいのか?
再びその問いを、ココロへと問いかける。自分の心へと。
・・・いいわけない。ただでさえ、自分の親を見捨てた俺だ。
そんな俺が、ただ一人、幸せになっていいわけがない。
先輩が、俺の目の前にやってきた。梓先輩も連れて。
「なんで梓先輩も?」
「え〜と・・・、最近空君と仲良くなったからその理由の問い詰めと、脅し。」
怖いです。先輩。梓もびびってますけど?
「話します!話しますから!だから止めてください!」
「あらそう?」
あっさり梓先輩の肩を離してくれた。ほっとする。
そして説明を始めた。
「え〜とですね・・・、俺と梓先輩は幼馴染なんですよ・・・。最近それに気づいたんですけどね。だから急に仲良くなったように見えるんですよ。」
「本当に〜?なんで今まで気づかなかったのよ!」
その辺の詮索はしてほしくないと思う。だから俺は口をつぐむ。いつの間にか別れるところまできた。
「じゃあ梓先輩さよなら〜!」
「じゃ〜ね〜空!」
そして俺は振り返る。そして口を開く。
「大事な話があるんですけど、いいですか?」
そしてちょっと顔が引きつる。なんか思いっきり恨めしい視線でみてるんですけど。
「ど・・・、どうしたんですか?」
「別に!!!怒ってない!私もいうことあるから!」
誰もそんなこと言ってない・・・。言うことってなんだ?歩いて公園へと向かう。一緒にいられるリミットは、後五分。
いやだなぁ・・・。どうして俺なんだろう?
どうして・・・。
いやだよ・・・。まだ・・・、一緒にいたい・・・。
歩いて公園へと歩いていく。木が少ない、ただの公園。子供が少しキャッチボールをするだけの空間。
そして、目の前にあるベンチに二人で座った。心臓の音がバクバク鳴っているのが聞こえるくらい緊張する。
これからつく嘘は、そんなものだから。
口を開きかけた俺を制すように、先輩が手を上げた。
「どうしたんですか?」
「え〜っと・・・先に言ってもいいわよね?」
「もちろん!いいですよ?」
何か大事な話があるっていってたな。その話が何にせよ、俺にはもう関係ない・・・。そのことが悲しくなるなんて思ってもいなかった。ほんの軽いはずだったけど・・・。
「空君。なんか無理してない?」
「はい?」
無理?そんなもの、ずっと昔からしている。記憶に封印をかけて、暮らし始めたあのときから。ずっと。
「あはは、だいじょうぶですよ?」
「そう・・・?じゃあ本題だけど今度試合あるから見にきてくれない?」
「いいですよ?」
ここでも嘘を重ねる。本当にダメな人間だなぁ俺って。ぼくって。
「じゃあ俺からも、大切なことを。」
「なに?」
きらきらしてる目。ほんとにきれいで、純粋。俺もこんな目で生きられたらよかったのに。
そして口から紡ぎだす。残酷で、容赦のない一言を。
「別れてくれませんか?」
「・・・え・・・?」
顔は無表情で、なんとか耐え切る。でも、きつい。あのときよりも自分の意思でやっている分、余計に。
「何でよ!!!なんで!!!」
「強いていうなら・・・、なんとなくでしょうか?」
嘘をつくほうがきつい。うそつきにはなりたくないな・・・。
「そんな・・・。」
先輩の顔を見ることができない。つらいのは俺より先輩のはずだ。なんで俺が逃げるんだ!?ふざけんな!逃げんなよ!ちゃんと向き合え!
そして、俺はしっかりと、先輩の顔を凝視した。
「――――!」
泣いている。両目から一筋、涙が流れている。ごめんなさい・・・。
俺のせいで・・・。
パーン!
「バカッ!だいっ嫌い!」
先輩は張り手を一発かまして俺の前から走っていなくなった。――――この方が良かったんだ。先輩にとって。こうでもしなかったら・・・先輩はつらいだろうなぁ。
俺は、・・・もう無理。
―――俺はこの瞬間から、しっかりと思考するのを止めた。
さつきside
なんで・・・?おかしいよ!あんな辛そうな目をしているのに・・・、なんで嘘をついたの???
立ち止まって、空を見上げる。青いのに、青くない・・・。空は・・・、晴れない。
いやだよ・・・。
どうしてよ・・・。
別れたくない。まだ、一緒にいたい・・・!どうすればいいの・・・?
私は・・・、どうすればいい・・・?誰か教えてよ・・・!
ふらふらと歩く。そして目の前にはリョウの家があった。
リョウなら教えてくれる・・・。
その思いを胸に、私はチャイムを鳴らした。
すいません・・・。現在受験モードで勉強を結構やっています。なので書く時間が圧倒的に少ないです。一月に一回くらいしか更新できないかもしれないので・・・。