第十九話:空の聖域?
第十九話
負けてしまった。当然といえば当然。12対2からひっくり返せるほうがおかしいんだ。でも、久しぶりに暴れられて楽しかった。興奮の渦に巻き込まれ、自分を少し失いそうになったけど・・・。
試合後、俺は観客席に戻った。先輩や、大門、閃がいるところへと。そこへ向かったら先輩だけ残っていた。俺のグローブの袋を持って。
「あ、先輩。ありがとうございます。閃と、大門はどうしたんですか?」
袋を受け取りながらたずねてみた。先輩は聞かれると予測していたのか、すぐに口を開いた。
「閃って、立松か。あの二人なら、いっちーが守備やった後すぐ帰ったけど?」
「そうですか。じゃあ、「それとさぁ、あんたモテモテじゃない?」
話しているときに割り込まれる。それは止めてほしい。心で言ったけど聞こえなかった。当然か。
「まぁそれはどうでもいいんです。とりあえず帰りましょう。俺疲れちゃって・・・。」
「へ〜、いっちーでも疲れるんだ。ま、帰るか。そこの二人!」
いっちーでも?それってどんな意味だよ・・・。その前に、二人って誰だよ!そう突っ込もうとした瞬間、二つのシルエットが現れた。
ものすごく見覚えがある・・・。
「川島さんと水口?何でここにいるんだ?」
そう。その二人だった。思ったことを口に出す。すると、水口が口を開いたが、川島さんがせき止めた。なんで?理由が理解できないまま、俺は川島さんを見つめていた。
・・・彼女の顔が赤くなったけど。
そして外へと出て行った。普段着に着替えて動きやすくなっている俺は、グローブの袋をくるくると回す。
そうしていると、川島さんが声をかけてきた。
「なんで今まで野球やらなかったの?」
最悪の質問。俺はそれをうまくごまかす術を持っていない。考えているとさらに、水口まで詰め寄ってくる。
「それはあたしも聞きたいな。ものすごく気になっているんだがなぁ・・・。」
なんか上目遣いをしてきている。すぐそこで川島さんがちょっとお怒りのようですよ。俺はこの変なやつを一刀両断する。
「それやめれ。お前がやるとちょっと・・・。」
「それどういう意味よ!」
「そのまんまの意味!」
逃げながらそう叫んだ。まず、100%の確立で追ってくる。とりあえず逃げて怒りがおさまるのを待った。結構単細胞だからすぐなおったけど。
その間に俺は言い訳を考えておいた。疑われること間違いないが、これで一時のしのぎになるだろう。そんなことを考えて、伸びをした。それを見て怒った人もいるけど。
「市ヶ谷くん!さっきの質問答えて!・・・ってご、ごめんなさい・・・。」
怒鳴ったのを気にしているのか微妙に落ち込んでいる。別に気にしていない俺は軽くでこピンを構え、打つ。
ぺチン!
結構大きい音がして、額に赤い跡ができる。
「うぅ〜。痛いよぉ〜。」
結構なみだ目だ。やばくね!?すぐ駆け寄り、目線を合わせる。っといってもちょっとかがんだだけ・・・。こんなときは自分の背丈を恨むよ。
「悪かった!痛かったでしょ?」
頭を下げ、誠心誠意謝った。大丈夫かなぁ?からかいのつもりでやったのに。なんか二人がじーっと俺を見てくる。攻めているような感じだ。
水口は、『なに泣かしてんだよ、このアホ!もっと謝れ!』みたいな感じで。
リョウ先輩は、『あ〜あ、泣かしちゃった。もしかしたら特種スクープかも!』
なんか攻めているというより楽しんでいるような・・・。そうこうしているうちに泣き止んで、ほっと一安心。
そしてもう一度聞いてくる。
「さっきの質問、教えてくれないの?」
上目遣いで聞いてくる。水口と違っておねだりの仕方が上手い。ヤバイ・・・。でも、こいつには言えない。意を決する。
この言葉が、自分を傷つけることになろうとも。
身体の中から、吐き出すように。
「俺、野球嫌いだから。」
三人の動きが、止まる。俺はただ一人歩き始める。それにみんなついてきて、一気に罵声を浴びせる。・・・二人だけ。
「アンタ!嫌いってどういうことよ!」
「・・・嫌いなわけないでしょ・・・!?うそでしょ・・・?」
あーそうだよ!うそに決まっているだろ!なんで嫌いなことに関わらないといけないんだ!心の血が流れる。だけど、その傷口を広げながら、俺はさらに嘘を重ねる。
「嘘じゃない。本当のことだ。俺は、野球が、嫌いだ。」
心が死にそう。そんなことない!って叫びたい。大好きなのに、どうして嫌いって言うんだ!?
「嘘はやめ「嘘じゃない!!!」
川島さんがもう一度問いかけてきたのをさえぎり、俺は怒鳴った。思考回路がショートしかけている。そして俺はここから逃げ出した。
another side
川島 瞳
私たちはのんびりと帰っていた。ついに・・・、ついに!市ヶ谷君と帰れる!
そんなことが脳内を満たしていた。あのことを聞くまで。
「俺、野球嫌いだから。」
嘘・・・!そんなはずない!なんで嫌いな人が、親友の頼みでも試合に出るの?
あの時、あんなに生き生きしていたのに!そんなはずがない!私は問い詰める。
「嘘はやめ「嘘じゃない!!!」
私は彼の怒鳴り声に震えた。ものすごく怖かった。だけど、なんか悲しい・・・。我慢しているように感じる。絶対、彼は野球が嫌いじゃない。
市ヶ谷君は走り出していった。私は追えなかった。そして斑鳩先輩が追っていった。私は、これじゃあ駄目だよね・・・。
そして彼女が走り出した。
「なんで、嘘ついたのかな・・・。」
「本当だよな。あのアホが。ばればれなんだよ。もっとまともな嘘付けって思うよな。」
・・・そんな悪口言っていいのかな・・・。
斑鳩 リョウ
まったく!ふざけてんじゃないよ!こっちは伝えたいことだってあるってのに。あいつは泣いていた。
実際には泣いていない。でも、心が泣いている。そんな感じがした。だから私は追っていった。
100メートル先を歩いている。足をトップギアに持っていく。
捕らえた!
「いっちー!待ちなさい!」
いっちーは手を振り払おうとしたみたい。けど私がしっかり捕らえている。離さない!しっかりと聞き出してやる!ふふふ・・・。
「せ、先輩・・・。てぇ離してください。それに・・・怖いです。それは分かりきっていましたけど。」
よくよく見ると周りがひそひそ私たちのことで話している。パッと手を離し、言葉を口から出す。
「なんで逃げていったの?第一、嘘はいけないけど。」
「嘘なんか・・・、ついてないです。」
ごまかしは、私に対しては無駄ってことがわからない様ね。
「あんな生き生きしている顔で嫌いなんて言えたら大したもんよ。それに、なんでどもるの?やましいことがないならどもらないでしょ!」
口がふさがる。反撃する手立てがなくなったようだ。
「なんで嘘をついたの?」
お姉さま風に聞いてみる。それも効果がなかった。ショックね・・・。
そして、さつきからの言葉を伝える。
「『あの時、急に押しかけちゃってゴメンね。』だって。アンタなにされたの?」
その言葉を聴いた瞬間、彼は逃げ出した。
何か触れてはいけない領域に、彼の聖域に無断で入り込んだ気がする。
聖域に入り込んだものの末路、破壊か拒絶か。そして最後に、本人が受け入れるか。
私の背筋に冷や汗が流れた。
すいません・・・。学校始まって疲れています。っというわけで、次の投稿は土日のどちらかです。
たぶん・・・。
遅くとも土日には更新するつもりなので!では!