第十七話:観戦&ハプニング
第十七話
告白イベントはあっという間に忘却の彼方へと押しやられた。覚える必要がなかったし、考えてみたら疲れるばかりだ。そう思っていたけど、この風景を見ていると頭が痛くなってくる・・・。
現在は昼休み。なんか頭痛がする。理由はわかりきっているけど。
みんなで昼飯を食べている。食堂にわざわざ弁当を持ってきている意味が不明だけど。
目の前、霧月先輩。右隣、栄介と健介。右斜め前、リョウ先輩。俺の左隣にはなぜか泉さん、俺はその存在は無視することにした。なんか話しかけてきたのに答えた瞬間、ものすごい勢いで喋りそうだし、絶対先輩が変なことを言って詰め寄ってくるに違いない。それは怖い。それに周りのテーブルから俺にさっきを放ってくる女子と男子。主に俺のクラスの名前が出てこない人。極めつけはなんかストーカーみたくこっちをじっと見ている人だ。そしてその中で一番殺気を放っているのは、川島さんと水口だった。川島さんが殺気を放っている意味は分からないけど、水口が殺気を放っている意味はなんとなく分かる。
おい、アンタ!なにでれでれしてるんだ!
みたいな感じかな?してるつもりはなくとも、俺だって高校生だからなっている可能性はあるだろう。なんかこのこと考えた瞬間、霧月先輩がこっちをじろっと見てきたんだけど・・・。
それにしても俺っていつから女難の人になってるの?
「はぁ〜〜。」
ため息がでる。健介が俺を元気付けるように、肩をポンっとたたく。微妙な心遣いにうれしくなる。
「栄介?明日試合だよな?頑張れよ〜。」
「もち。やるよ・・・!」
なんか闘争本能がものすごく沸いている状態って想像できなかったけど、今の栄介の状態を言うんじゃないだろうか?っていうくらい、やる気がみなぎっている。頑張れよ〜。
なんていってる俺は無責任極まりないな・・・。
「え?明日栄介君たち試合なの?」
「そうだけどさつき知らんかった?」
なぜか答えたのはリョウ先輩。その情報網はどこからくるんだ?そして哀れ、栄介がしゃべろうと意気込んだところで喋れなくなっている・・・。
「まぁ、とりあえず応援に来てくれ。戦力的にみたら勝てないのは分かりきっているけど。」
健介は諦めた感じで言う。確かにその通りだ。燃えていないわけではなく、冷静な判断をして言っているから誰も責められない。そして健介がめったに浮かべない笑みを顔に出す。悪がきの表情にそれは似ていた。
「だから・・・、一泡絶対吹かせてやる。」
がんばれよ〜。俺どうせ試合でないしな、気楽だ。
「じゃあ私も行くわ。面白そうだし。」
「リョウ先輩?行くんですか?じゃあ一緒に行きましょう?」
無意識で出した言葉で、さらに皆から睨まれる。なんで・・・?俺だけそんなににらまれないといけないんだ?
この空気には耐えられない・・・。そう思った俺がとる行動は一つ。
「「「「逃げるなっ!」」」」
みんなして、はもんなよ!結局、リョウ先輩と一緒に行くことにした。
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集合場所は、学校。そこから一緒にいくことになった。もちろんグローブをもって。
「おっす、いっちー。」
「前から思っていたんですけど、その言葉遣いやめたほうが良くないですか?」
「なんでだ?これに慣れてるんだけど。」
分かってないよこの人・・・。それじゃ完全に男口調じゃないか・・・。
「男口調ですから。先輩は一応女なんですよ?」
「へぇ・・・。一応ね・・・。」
やばい・・・、失言だ・・・。逆鱗に触れたかも・・・。案の定、こめかみをぐりぐりとやってきた。
「ぎゃあ!い、痛い!痛い!」
「涙目もかわいいわねえ・・・。」
俺はその言葉を聴いた瞬間、俺はひいた。十メートルくらい離れた。本当心臓に悪い。しかも、先輩はそれを見て、面白がっているというのだから。
「からかうのはやめてください!」
「あっはっは、分かった。」
下心ありそうな顔で言われると、正直安心できない。一応釘を刺しておく。
「放課後の事言いますからね。」
その瞬間リョウ先輩は下心という名の余裕をなくし、冷や汗をかいていた。まぁ、そのへんはどうでもいいけど。
とりあえずさっさと歩くことにした。リョウ先輩は後から走ってついてきていたけど。
「そういえば、いっちー。」
「なんですか?」
「やっぱ後でね。」
なにが言いたかったんだ?先輩の思考回路は俺には理解できない。
「グローブ持ってきました?」
「持ってこなかったが?」
「こういうときの醍醐味はもちろんホームランボールや、ファールボールをとることにあるでしょう!?」
なんか変な目でみられた。そして俺に告げる。
「私野球ファンじゃないし。」
なんてこった・・・。なんで俺についてきたんだろう?
そう思ったけど丁度球場についたから聞きそびれた。
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「これから泰仙高校対龍ヶ先高校の試合を始めます!礼っっ!」
なんでだか分からんけど、みんな礼のとき声を出さなかった・・・。なぜかバックネットにいて、観戦を始める。それにしても人が全然いないな。空席がかなりあるじゃん。
今日は暑いし晴れてるから、絶好の観戦日和なのに。
「おっ?空か?」
「あ〜空だ〜。」
後ろで声が聞こえる。ものすごく聞き覚えがある。後ろを振り向いてみたものは、予想通りの人だった。
「大門と、閃?久しぶり〜。なにしにきたんだ?」
「もちろん観戦。それに俺は泰仙だけど?だから味方の応援も含めてだな。」
「栄介と健介を見にきたに決まってるよ〜。」
なにが決まってんだよ・・・。第一、自分のチームの応援は二の次か?
そんなことを話し合っているうちに一回裏のこちらの攻撃は終わってしまった。
栄介と健介のコンビで一点入れたらしいが、それまでだった。
「一点か・・・。」
俺はつぶやく。今年の泰仙は、調べたところによると攻撃重視だという。栄介か健介がいるとはいえ、5回コールドで終わるだろう。
「一点でも十分じゃないのか?優勝候補だぞ?」
「俺もそう思うよ〜。さすが栄介と健介だねぇ〜。」
「でもあいつらあんなバッティング良かったか?健介はともかく、栄介は打率低かっただろ?」
それが不思議だった。バッティングを得意にするには結構の時間が要る。あいつらはそんなに特訓したのか。そう思うと体がぞくぞくする。
「ニヤニヤ笑うな。気持ち悪い。」
「そうそういっちー。変だよ?」
なぜかリョウ先輩にまでそんなことを言われる・・・。そして二対一で争い始めた。
「っていうより、アンタは空にとってのなんですか?」
「それは俺も気になるな〜。中途半端なことは言うなよ・・・!」
なんか、大門がここだけ真剣になった。怖くないけど。
「あっはっは〜。私は単に先輩後輩のかんけーだっての。別にばれたところでどうにもならないだろうし、嘘ではないぞ。」
「まぁ・・・、それもそうか。」
「そっか〜。ならいいや〜。」
その瞬間周りから・・・っといっても、人数は少ないがどよめき声が上がる。俺たちはみんなそっちを見る。
現在、五回表、12対2。この回で点を入れていかないと、コールドが決定する。そしてセンターがフェンス際で倒れていた。アウトカウントが増えたのだから、ノーバウンドでキャッチしたのだろう。あ・・・、担架だ。
『選手の治療をいたしますので、しばらくお待ちください。』
ウグイス嬢がしゃべる声が球状に響く。みな黙り込み、しっかりとグラウンドに眼を向けている。
そしてこんなときに、場違いなケータイの着メロが聞こえた。
「誰の?」
「私のだ。ちょっと待って。」
そして、画面を覗き込んだ先輩の目は、面白いものを見つけたかのように光り輝いた。
――――――なんかいやな予感がする。