宝くじ
彼は現実的な男だった。テレビで大宣伝されている宝くじなど儲かるわけないと醒めた思いでいた。夢を買うんだよという同僚たちの話もただの無駄遣いとしか思えなかった。
今日も出先で宝くじの販売ブースに並ぶ人たちを横目に見ながら、当たるわけもないものを買うとは確率論的に虚しいことだと思っていた。
その瞬間彼は雲の上に立っていた。ありえない。いったい何が起こったのだ。さすがの彼も混乱した。大声を上げて走り出しそうになったとき、背中に白い羽を持った子供が側にいることに気がついた。
天使?すでに尋常ではない状態に陥っていた彼は天使をすがるような目で見た。天使は慣れた口調で説明を始めた。手慣れたツアーコンダクターのようだ。
「天国へようこそ、あなたの寿命は尽きました。生前の行いから天国での暮らしが妥当と判断されております」
「天国?何故私が死ななければならない?そもそも何が起こったのだ?」
「はい、では死亡の瞬間をもう一度見てみましょう」
天球が爆発するように広がり、あっという間に宝くじを買い求める行列の横を歩く彼が目前にあった。
「これはお亡くなりになる5秒前です」見ているうちに彼の頭から血しぶきが散った。「流れ星が命中し、即死でした」
「馬鹿な。こんな事があるわけない。命中とは何事だ、あり得ない確率だ。納得できない」
「人口密集地ではごくまれにあるようですが非常に珍しいことですね」
「こんな事なら横の宝くじの列に並んでいれば良かった。こんな確率を引き当てたんなら高額当選したかも知れないのに」
「調べてみましょうか、ちょっと失礼」天使は持っていたハープをポロンと弾いた。
「所持金全部で買ったとしても、大当たりは無しでしたね。お気の毒です」
彼は急に冷静になりつぶやいた。
「だから宝くじなんか買うだけ無駄なんだ。隕石よりも当たるわけがないんだから」