閉幕 吟遊詩人の詩
詩人は酒場で詩を読む。
「さぁさぁご清聴ありがとうございます。戦地へ赴いた兄を思う少女の詩でした。次が本日最後の詩。かの有名な英傑、ジャンヌダルク様と、その過去に触れる歌でして、最近私が作り上げた最高傑作にございます。それではご清聴ください…」
弦楽器を弾きながら詩人の詩が始まる。
あるところに地獄と呼ばれるダンジョンがあった。始めは冷たい岩盤洞窟だが、下層に行くにつれ溶岩なども見え始める。そこには魔王が大勢の部下たちと住んでいた。
時は1000年以上前、時の勇者が最下層へ辿り着いた。勇者の仲間は命からがら転移で逃げたが、魔王の妃と戦った勇者の行方は誰も知らない。
風の噂で地獄のダンジョンの魔王妃が死んだと、噂を情報屋が、情報屋が聞屋に。徐々に尾ひれの付いたそれは、最終的に、
『魔王の妃は死に、魔王はとても憤りを人類に感じている』
とまで言いせしめた。一方、地獄ダンジョンの一番近い町では、ある異変が起こっていたという。武装解除し、降伏を宣言するモンスターが現れ始めたのだ。モンスター曰く、
『妃を亡くした魔王は怒り狂っている』
と、情報屋はまたもこれに尾ひれをつけさせた。そうして愚かな冒険者は、冒険者ギルド、協会からの制止を他所に、ダンジョンに忍び込み帰らぬ者となった。
そんなダンジョンも全盛期が終わり今から約200年前、勇者ジャンヌダルク一行が魔王討伐を掲げ、地獄ダンジョンに突入した。始めは数百人いた討伐隊は徐々に減り、最後はジャンヌと側近だけだったという。
ここからは本人の体験談から作ったお話。彼女は最下層でついに魔王へ謁見し、ここへ来たことを心より称賛したという。激しい戦いの末、彼女を取り巻く英傑たちは次々と倒れて行った。最終的に彼女は神の雷を魔王へ降り注ぎ、入り口を封印したという。それから幾月が経てども封印は解けることなく、この大地のどこかに眠っている。
入り口は不可視の封印もかけられ、彼女の死後1000年は解けないだろう。
詩人が演奏をやめた時、拍手が起こる。酒場の中心から二階の奥の席まで、その声は実に通りがよく、彼と英傑ジャンヌを称えた。
酒場のカウンターで果実酒を嗜んでいたローブを纏う二人組がグラスを空ける。
「お客様、まだお飲みになられますか?」
「いや、ご馳走様。ハイお代。じゃあユー…帰ろっか」
「はい、お嬢様」
二人は酒場を後にし、街を発つ。森林の方へ、薄暗い夕暮れの闇へ消えて行った。




