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ミスってSランク冒険者の首を刎ね、拾った王女殿下の死体〈アンデッド〉を競売にかける!  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


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第7話 シェスタ・ハーゲンベルク〈ヒステリックSランク〉

 頭からバケツ一杯くらいの水をぶちまけられ、全身ずぶ濡れになったのだと、目が覚めたときには理解していた。

 どうも水を飲んだらしく、俺は激しく咽せていた。


 そこはホテルの一室のように思えた。向かいの高級ホテルか? と思ったが分からない。椅子に座らされ、背もたれに腕を固定されている。呼吸を落ち着かせながら状況を把握した。

 すぐ隣にミナリス姫の姿があった。俺と同じで椅子に座らされている。ヘルメットは被ったままだ。俺のジャケットの内ポケットにある南京錠の鍵すら見つけられない頓馬と見た。

 部屋の扉がバタンと乱暴に開くなり、


「一昨日、王都でオークションが開かれました。資産家や貴族、商人が集まる闇の競売です」


 高飛車な態度で入ってきたのは、エルフェレンのパーティーにいたあの修道服の女だった。ギルド会館で大声を出してた奴だ。まだデルカにいたのか。よっぽど暇らしい。

 女は俺を見下ろした。


「またあんたか」


 女以外に気になることがある。

 部屋じゅうにいる黒マントだ。男女関わらず、ざっと十人はいる。どれも目つきが険しい。一般人でないことは確かだ。冒険者でもこんな目つきしてんのは少数だ。ある一人のマントの隙間から、紋章が見えた。すぐに連中が誰なのかわかった。


「羨ましいねぇ、Sランク冒険者ってのは警察まで動かせんのか」

「都警察です」

「デルカだぞ、ここ。田舎だぞ」

「あなたを都オークションで見かけました」


 そう言われ、今になって思い出す。点と点がつながり、あの声の正体が誰だったのか気づいた。姫が競売にかけられる前、保管庫に棺を取りにいったときだ。廊下でベネチアマスクの女に話しかけられた。


「あれ、あんただったのか」

「あれは闇の競売です。田舎暮らしの、それも豚鶏しか狩れないような低ランク冒険者が足を踏み入れてよい場所ではありません」

「大きなお世話だ。人の勝手だろ」

「ミナリス殿下の品が競売にかけられると聞いて、我々は潜伏していたのです」


 心臓に嫌なポンプを感じた。いるんだよなぁ、そのミナリス殿下が俺のすぐ隣に。


「あっそ。でも警察もグルだって話じゃないか、よく言うよ」

「そうなのですか?」


 女は傍の警察官へ聞いた。警察官は首を振る。


「まさかミナリス殿下の遺体まで出品されるとは……亡くなられていたとは……」

「俺に関係ねぇだろ」

「殿下の専攻は、考古学でした。好奇心旺盛な方だと伺っています」


 伺ってる、──ってことは、こいつそんなに姫を知らないな。まあ、俺もちょっと喋った程度だけど。


「オークションで殿下の衣類やネックレスが出品されると報告を受ける数週間前、この町へ殿下が訪れていることがわかっています」

「デルカに?」


 驚く真似が上手くなってきたかもしれない。女は頷いた。


「衣類の出品者を確認すると、この町のとある質屋の店主でした。ご存じですよね、オーナーの名はイディエット、先ほどまであなたが一緒にいた人物です」

「店を利用しちゃ悪いか?」

「何を売ったのですか? まさか王女の遺品を売ったのでは?」

「売ってねぇよ、勝手なこと言うな。ナイフが壊れたから代わりを探してただけだ」

「店主を問い詰めました」


 唾を飲み込みたかったが止めた。気怠い顔を維持する。

 短い時間だったが、イディエットのことなら少しだけ分かる。あいつは絶対に口を割らない。それが奴の美徳であり、呪縛だ。それを犯せば闇から信用がなくなる。そうなると死も同然だ。


「彼は……あなたから買ったと言っています」


 女の間がおかしかった。


「何を?」

「みなまで言わずともご存じでしょう」


 ああ、違う。この女、何にも知らないな。知らずに尋問してやがる。


「知らんね。何も売ってないんでな。買いもしなかった」

「惚けるおつもりですか?」

「それ、ブラフだろ? 下手だな。詰まるところ、あんたは最初から俺が白だってわかってんだ。その通りだよ、俺は騙されたんだ」


 都オークションでこいつが俺に言ったことを思い出した。彼女は俺に『逃げろ』と言った。騙されたのかどうかも聞いてきた。初めから断定するように。

 端から俺が被害者だと思ってやがる。

 見下されるといいこともあるもんだ。俺は下手(したて)に出てりゃいい。


「間抜けな話だ、あんたには想像もできないだろうよ」

「どういうことですか」

「いつも豚鶏に使ってるナイフが壊れたんだ。替えのナイフを買う金もなかった。俺は木賃宿に逗留(とうりゅう)するその日暮らしだ。あんたらみたいに、ちょっと野暮用で田舎にやってきて、こんな高級ホテルに泊まれない。朝は食べないし、昼も調子が悪いときは抜く。夜だけだ、食うのは。そんな折、代わりのナイフを見に行ったときだ、あの店主に(そそのか)された。運び屋をやらねぇかって」


 悪い、イディエット。話を合わせてくれ。おまえなら適当なこと言って切り抜けられんだろ。ミナリス姫の体を移送した、とは言わないはずだ。ミナリスの名前だけは絶対に出さない、出したら終わるから。イディエットはニューゲート監獄行きになることを何よりも恐れている。


「何を運ばされたのですか?」


 運ばされた──。

 ちょろいな、もう受け入れてやがる。


「中身は知らない。小さいものだった。そうだなぁ……もしかすると衣類なんかが入っていたかもしれない、知らんけど。厳密に俺が任されたのは、当日の現場での棺の移動だけだった」

「ミナリス殿下が入れられていた(ひつぎ)ですね」

「多分な」

「その棺はどこへ?」

「さあ。見てない。会場が煙だらけになって逃げるのに必死だった」


 棺の行方も掴めてないってことか。


「確保したんじゃないのか?」


 それには女も、誰も答えなかった。

 女が周囲の者へ指示を出した。俺の言ったことが間違っていないか、イディエットに確認するのだろう。それまで待てということだろう。


「彼女は何ですか」


 当然聞かれるものと思い、どう答えるかは、ここで目覚めてから今に至るまでずっと考えていた。


「もういいだろ。必要なことは答えた」

「そうはいきません。これも重要なことです。先日ギルド会館でお会いした際、あなたはお一人でした」

「何でも話すと思ったら大間違いだ。そんな義務はない。俺には黙秘権がある」


 じらすだけじらそう。


「そんな言葉が通じるとでも?」

「第一、これは違法捜査だろ!」


 俺は声のボリュームを上げた。


「監禁罪だろ、これ。お前らを訴えてやるからな」

「どうぞご勝手に。しかし彼女が誰であるのかは説明していただきます。まさかミナリス姫では──」

「妹だ」

「どこの兄が、妹にこんな悪趣味な仮面を被せるのですか。この仮面、どこかで見たような……まさか鉄の処女(アイアンメイデン)では!」

「病気なんだ。だからずっと宿で寝かせてた。イディエットには色々と助けてもらっていた」

「興味深いですね。闇商人が必要となる病気とは、一体どのようなものなのでしょう」


 女は勝ち誇ったような顔をする。


「妹はアンデッドだ」

「アンデッ……」


 女の言葉が途中で途切れる、ショックを受けたように。


「地下霊廟があるだろ?」

「ゼフ王の霊廟ですか?」

「ああ。あそこで事故に遭った」

「事故とは?」

「全部説明させるつもりか? どっかのバカが仕掛けた罠にかかったんだ。それで……よく分からないが、気づいたときにはアンデッドになってた。だからイディエットに助言をもらった。ニンニクと十字架が狂暴性を押さえるとか。このヘルメットも彼に貰ったものだ。内側にニンニクが仕込んである。首の十字架も、そういうことだ」

「あの店主が闇に通じていることを、あなたは何故知っていたのですか?」

「知らなかったよ。今回のオークションの件で、そうじゃないかと初めて思ったんだ。正確には今あんたから聞いて知ったってのが正しい」


 そのタイミングで先ほど部屋を出て行った警察官が戻ってきた。彼女にこそこそと耳打ちする。


「どうやら嘘ではないようですね」


 イディエットが上手く合わせてくれたようだ。俺は肩をすくめる。


「最初からそう言ってるだろ」

「念のため、彼女の顔を確認させていただきます」

「それはやめてくれ」

「どうしてですか」

「あんたアンデッドに遭ったことは?」

「昔に一度」

「だったら分かるだろ。妹は俺以外に顔を見られることを嫌がる。生前からだ。それを覚えているのか、通常のアンデッドよりも狂暴性が増す。Sランクのあんたでも、傷つけずに拘束するのは至難の業だ」


 女は唸り、考え込んだ。俺は何も言わずに待った。


「いいでしょう。わかりました。確認済み、ということにしておきます」


 俺と姫の拘束が解かれた。

 椅子から立ち上がると、女が目の前で頭を下げていた。


「勘違いをしてしまい、申し訳ございませんでした」


 周囲の警察官たちも彼女に倣い、頭を下げている。俺は面食らった。警察官の一人が、俺に裸のままのレイピアを返してくれた。魔法銃(ファルセット)が基本のこいつらに、この剣の価値はわからないらしい。

 面食らいながら、悪戯な考えが浮かんだ。都警察を謎に動かせるほどの権力の持ち主だ、これくらい朝飯前のはず。


「申し訳ないと思うなら、ひとつ頼まれてくれないか」


 彼女が頭を上げる。


「聖職者と医者を探してる」

「聖職者と医者?」


 彼女は考えるように目を泳がせ、


「私は聖職者ですが……」

「高位の聖職者か?」

「どういう意味ですか?」

「詳しいことは知らない。イディエットがそう言ってたんだ。でないと妹の呪いは解けない、ってな。蘇っても直後に死んでしまうらしい。訴えるのをやめてやるから探してくれ」


 俺は冗談っぽく言った。


「あんた顔が利くんだろ?」

「探せるとは思いますが……」


 修道服の女の名は、シェスタ・ハーゲンベルクといった。『聖者ノ行進』という宗教法人所属の冒険者だという。

 シェスタと会話を終えた二日後、俺は姫とまた都入りすることになった。

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