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ミスってSランク冒険者の首を刎ね、拾った王女殿下の死体〈アンデッド〉を競売にかける!  作者: 酒とゾンビ/蒸留ロメロ


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第5話 ジェラスのレイピア〈土産売り場の剣のキーホルダーみたいな〉

 ミナリス殿下を入れる棺、移動手段の馬車はすべてイディエットが準備してくれた。今は都へ向かう馬車の中。


「ただの馬車じゃない、霊柩馬車だ」

「姫、静かだな」

「気づいたか? 都へ着いたらトリックを教えてやる。どうせ悪党ども……じゃなかった。悪い悪いお貴族様方にもお見せする」


 長旅というわけでもなかった。王都までは一日半かかった。

 都へ到着したのはオークション前日の夕方だった。霊柩馬車はそのまま、〈オペラ・シャルル〉というオペラ座の搬入口から中へと入ってゆく。


「着いたな。じゃあ棺桶を保管庫へ運ぶぞ」


 棺桶の輸送費と二人分の運賃、口止め料はすでに払ってあるらしい。降りて馬車の後ろへ回り、俺とイディエットで棺台車に棺桶を乗せた。

 棺台車はイディエットが押してくれた。

 搬入口から中へ入ると、そこは玄関口の金と大理石とは違い、石壁むき出しの実務通路だった。雨に濡れた石畳の匂いと、古い油の匂いが混ざっている。

 地下へと続く荷受け動線の途中、厚みある防音扉がわずかに開いていた。なかを覗くと、そこはオペラホールだった。

 馬蹄(ばてい)型の客席が六層に重なり、赤いビロードと金装飾が灯りを受けている。天井の画については分からないが、シャンデリアが吊るされていた。


「旦那、こっちだ」


 イディエットが曲がり角で止まっていた。悪い、と言って俺は小走りに追いかける。




 保管庫は小さな博物館のようだった。おそらく明日の競売にかけられる品々だろう。それが押し込められているが、乱雑ではなく、展示されているように丁寧に置かれている。


「こいつが答えだ」


 棺台車を停めると、そう言ってイディエットが棺を開けた。

 鼻孔に強烈なニンニク臭が直撃する。突き刺すようではなく、ゆっくり、ねっとりと、拒んだあとも鼻筋を通って脳へ流れこんでゆく。眩暈がし、吐き気がした。


「ニンニクは嫌いか」

「やっぱこれ、ニンニクか」

「アンデッドはニンニクと十字架に弱い。あと銀にもな」


 棺には十字架もいくつか入れてあった。


「これで動かなくなるのか?」

「そういうことだ。このまま明日までここへ置いとく。警備は厳重だ。ま、そのあたりのことは心配しなくていい。明日ここでオークションが開かれることは、闇の人間しか知らない」

「分かった」

「んじゃ撤収するぞ。近場の安いホテルを取ってある。安いが飯がうまいんだ」

「これ全部明日のオークションに出品されるのか?」


 イディエットの足を止めた。俺は室内にある、ほかの物品に目をやった。


「ん? ああ、そうだ。大金が動く」

「これは?」


 あるガラスケース内の品物が気になった。

 疑問を浮かべながらイディエットが品々の近くへ引き返してくる。すると彼は自分の顎を撫で、ガラスケースに入ったそれを眺めた。


「こいつは驚いた」

「知ってるのか?」

「レイピアだ。確か……」

「──ジェラスのレイピアです」


 後ろで声がした。振り返ると、燕尾服の老人が立っていた。ポマードで寝かしつけたようなオールバックの白髪、気品ある白い口髭。やや背丈の低い執事みたいな男は、手を後ろに組んでいる。


「ウィッチェン」


 イディエットが老人をそう呼んだ。


「やっぱりあんたの品だったか」

「イディエット、久しぶりですね。今回はどんなガラクタを持ち込んだのですか」

「旦那、彼はウィッチェン。俺と同じ闇商人だ」

「執事かと思った」


 ウィッチェンは軽快に笑い、


「ファイブリース家に仕えていた時期もありますがな」

「『ジェラスのレイピア』とはまた珍しいものを持ちこんだな、どこで見つけた?」


 イディエットの問に俺の言葉が流される。


「出所を話しても面白くないでしょう」

「そうか。じゃあ聞かねえ」

「あの、ジェラスって何ですか?」

「ジェラスとは、かつてワルスワン王家と戦ったパラディンの名です」

「パラディン?」

「魔法剣士のことです」


 ウィッチェンがガラスケースの前、俺の隣に立った。


「レイピアの多くは刺突主体を基本としています。刀身は長く細く、重心が手元寄りで、素早く突きを出せる設計です」


 ジェラスのレイピアは、彼が説明するレイピアとは見た目が違った。


「いくつか種類があり、ご説明した刺突特化型に加え、中には切断能力を残したレイピアもあるのです」

「つまりこれは後者ってことですか」

「どちらでもありません。このレイピアは極めて切断型です。刺突も使い手によって可能ですが、ジェラスは完全切断型を好んだようです。刺突特化のレイピアよりも刃幅の広い両刃であるのが特徴。レイピアは片手持ちが基本ですが、両手でも握れるよう、グリップの長さも改良されています。刀身全体が赤みを帯びているなど、ジェラスのレイピアにしかない特徴も見られます。平らに近い逆V字の(がく)は、鷲の翼を模しているとか。グリップやナックルガードに至るまで、すべてジェラスの本人の特注です」


 小学校の修学旅行のときだったか、旅行先のお土産売り場にあった剣のキーホルダーに似ている。あれよりはシンプルで落ち着いているが、廚二病心をくすぐるデザインだ。


「つまりジェラスって人が、自分が使いやすいように改良しただけの剣ってことですか」

「もう一つ魅力的な特典があります」

「魅力的?」

「ウィッチェンが持ち込んだ物に、過去、大したことなかった物はねぇ」


 イディエットが得意げに言った。


「このレイピアは、刃こぼれしないのです」

「へえ。そいつはすげぇや」

「刃こぼれしない?」


 俺も興味が沸いた。

 カモられて買った短刀はエルフェレンを殺した際に砕け、初めて買ったナイフも大蛇を斬った際に散った。お気に入りだった。

 飛剣術は便利だ。魔力がないようなものである俺にとっては、唯一の武器と言える。

 でも剣がいくらあっても足りない。すぐ砕けてしまう。でもこいつなら──。


「厳密には少し違いますがな」


 ウィッチェンが含みを持たせて言った。俺が目線で問いかけると彼は続きを教えてくれた。


「このレイピアは、血を吸うのです」

「血を吸う?」

「人でも動物でも構いません。血を吸い、それによって刃こぼれや、あるいは折れたとしても元の形に戻る」


 語るウィッチェンの目つきが徐々に恍惚としてきた。この人もイディエットと同じで、特定の話題になると狂人性が垣間見えるタイプか。


「あのぉ、ウィッチェンさん」

「何でしょう」

「これを俺が買いたいと言ったら、いくらで売ってくれますか?」

「旦那、本気か? ウィッチェンの持ちこむ品はいつもとんでもない値段がつくことで有名だぞ」

「金なら明日作れるだろ。こいつがある」


 俺は棺の蓋をパンパンと叩いた。


「こいつ、とは気になりますねぇ。イディエットとあなたの関係性もまだ伺っていませんし」

「質屋の店主と」


 俺はイディエットを指さし、その指で自分を指さし、


「客です」

「興味深いですな。イディエットが自分のものでなく、顧客の品をオークションに出すとは。彼は、あなたにここを紹介した」

「はい」

「棺の中身は何でしょう? レイピアは、明日の競売にかけることがアナウンスされています。私の信用や命に係わるのでキャンセルできません。欲しければ、競りに参加していただく以外ないでしょう」

「じゃあ、参加します」


 刃こぼれしないレイピア。

 俺が使うにうってつけの剣だ。折れたら豚鶏の血でも吸わせればいい。


「おそらく旦那にとって、これを競り落とすのは難しくねぇ」


 イディエットが棺に手をかけた。目が合い、俺が頷くと彼は棺を開けた。

 ニンニク臭かったのだろう。ウィッチェンは口と鼻を手で押さえ、中を覗いた。


「これは……」


 彼の顔色が曇った。

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