廃棄ロボットを拾った整備少女
うーん、これもはずれ。これも……はずれ。
あたしは、今お宝が眠っているだろう廃棄所に来ていた。ここには、企業が捨てたジャンク品が転がっている。
あたしは、それを修理して、売るなり使うなりして生計を立てていた。
でも、なかなか当たりが見つからないんだよね。
今日は、だめかなぁ。次の廃棄日って、いつだったっけ。
そう考えながら、それでも手を休めずに品定めしていると、不意に声をかけられた。
「すまない」
一瞬にして、そこから離脱し、銃を構える。
が、視界には誰もいない。
……あれ?
空を見上げたけど、知らない鳥が一羽飛んでいるだけだった。
構えた銃を下ろして、一息つく。
空耳?
でも、はっきりと男の声で聞こえたよね。
「すまないが、俺を拾ってくれないか?」
再び銃を構えたが、やはり姿は見えない。
透明化?
しかしセンサーには反応していない。
もしかして、新型?
「ああ、俺はここだ」
銃を構えたまま、おそるおそる声の元へと近づくと、そこには一つの生首が置かれていた。
それが、ぎょろりと目を開いてあたしを見てきたのだ。
「ひっ!?!?!?」
思わず口から飛び出しかけた悲鳴を、無理やり飲み込んだ。
こんなところで、大声なんて出せば衛兵たちに見つかってしまう。
平常心だ。落ち着けあたし。
そして生首を観察すると、首から下にコードが何本も垂れさがっており、それがどこかに繋がっていた。
……なんだ、ロボットか。
生首を拾い上げ、コードを辿っていくと、本体を見つけた。
ただし、上半身の一部のみ。これで、よく会話できるものだ。
どこからバッテリーをつなげてるんだろ。
「すまない。俺のパーツは、あちこちに分割されてる。全部回収できるか?」
「うーん、全部は分からないけど……拾えるものは拾うよ」
まだ稼働しているロボットなら、色々と使い道がある。
ここに捨てられている以上、企業のロボットだろうから、たぶん戦闘タイプだよね。
それなら直して売ってもいいし、護衛としても使える。
そしてかなり回収したはいいけど……重くて動けなかった。
「重い……」
「そうか、あんた非力だったっけ」
戦闘用ロボットなら、数百キロはあるだろう。
これでもアーム補助のパーツを付けているから、多少は持てるんだけど、さすがに数百キロは無理だ。
人間のあたしが持てるわけがない。
「仕方ないなぁ……台車でも持ってくるか」
とりあえず、バッテリーと頭だけ持っていこう。
何往復かして、どうにかパーツを全て拾って持ち帰った。
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「うっわ、今時火薬武器かー」
ばらばらになったパーツを一つ一つ確認していくと、やけに旧型のものが目についた。
特に火薬を使った武器を多く搭載していた。
現在主流の武器は、全て電気式で作られている。
基本はレールガンやコイルガンで、他にもレーザーやマイクロ波があり、それらを無効化させるEMPも搭載されている。
まあEMPと武器はイタチごっこだけどね。
また、レーザーをふせぐシールドなども装備しているタイプが多い。
一応電気類の武器もあるのだが、それも十年以上昔のタイプだ。
なるほど、古くなったから廃棄されたのかな。
それでも、ところどころ試作品みたいなものも取りつけられている。
テスト用の個体かな?
「直るのか?」
「直すよ。これは楽しくなってきたね」
こういった旧型の物は、あまり触れたことがない。
だから、内心わくわくしている。
でも、色々とパーツが足りなさそうだ。
手持ちは二世代くらい前のものしか持ってないからね。
新型のものなんて、廃棄所に捨てられているわけがないから、二世代前あたりがちょうど良いのだ。
それでも、この個体って二世代どころか五世代くらい前だよね。
うーん、骨董品のおやじのところに、あるかなぁ。
「色々とパーツが足りないから、ちょっと買ってくるわ。さすがに火薬武器は、手持ちにないからね」
火薬は手に入りにくい。
火薬類を大量生産している企業は、国や他企業に卸しているから、一般市民のところへは回ってこないのだ。
あたしも、材料さえあれば作れるんだけど、その材料の入手が難しいんだよね。
そもそも作れるような場所もないし。
「うむ、迷惑をかける」
「あたしも、古いパーツなんて殆ど扱ったことないし、いい経験になるからさ」
そうして、骨董品のおやじから、色々パーツを買ったり交換したり譲って貰ったりして、何とか集めた。
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「おお、動くぞ」
「ふー、時間かかったなぁ」
一か月かけて、ようやく動くレベルまで修理した。
やはり古いためか、パーツのないものが多く、そこは新しいものを改造してつけたり。
あとは、火薬だ。
一応揃えはしたものの、在庫が少なく、そうそう使えない。
これは、のちのち電気類の武器に交換かなぁ。
「いや、火薬武器も多少は欲しい」
「なんで?」
「電気武器は、乗っ取られる。だが、火薬武器なら関係ないからな」
ああ、そういう意味か。
電気武器は、電子制御されている関係上、外部からの乗っ取りやEMPで無効化されたりする。
しかし火薬は原始的だから、関係なく使えるからね。
火力については、電気武器のほうが高いけど、ちょっとした弱い敵ならオーバーキルだからね。火薬武器でも十分倒せる。
ねずみを倒すのに、でかいハンマーを使うようなものだ。そんなものを使わなくても、踏みつぶすこともできるからね。
「ああ、まだそんなに激しく動かないで。耐久性のチェック終わってないから」
「ふーむ、違和感はないが」
「パーツの関係上、無理やりつけたところもあるからね。そこがどうかわかんない」
「しかし、君は若いのに、なかなか良い腕をもっている。企業にも十分勤められるぞ?」
あたしの母が、元企業のメンテナンス員だったから、色々と教わったんだよね。
だからか、企業のメンテナンス方法は知っているし、内情も色々と聞いた。情報は古いけどね。
ただ母はもう死んじゃったから、教わることは、もうない。
こんな世の中だから仕方ないとはいえ、やっぱり悲しいや。
……あ、ねじが一個落ちた。
「ちょっとまって! ねじ! ねじ!」
「お? あ?」
慌ててロボットを止めて、落ちたねじを観察する。
どこのやつだ、これ?
それから一週間かけて、歩行、武装、センサーのチェックを一通り終わらせた。
本当なら、もうちょっと耐久性をチェックしたいんだけどね。
こっちも稼がなきゃ生きていけないし、そんなに長い間、時間をかけられない。
まあ仕事しながらでもチェックはできるから、いいか。
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「うーん、これも違う……これは外れ」
チェッカーをつなげて、回路が生きているかどうかチェックするも、なかなか当たりが見つからない。
ピピッ。
八個目につなげてチェックすると、ようやく電子音がなった。
えっと、これは……ああ、網膜認証用の基盤だ。
でもこれって、職員の死体をもっていけば通るし、そもそも扉をぶっ壊すやつが多いから、人気がないんだよね。
セキュリティというよりも、簡易的な鍵代わりくらいの値段にしかならない。
他に何かあるかなぁ……。
そんな感じで探していると、腕に付けたアラームが鳴った。
敵か。
さっとレーダーを見ると、ちょっと離れたところに犬……ではなく、野良の軍用犬ロボットがいた。
野良ってのは、作ったはいいけど、廃棄したものや制御から抜けてしまったものを、そう呼んでいる。
ペットを買ったならちゃんと最後まで責任持とうよ……。
しかしそういった野良は、ほぼメンテナンスを受けてないので、割と対処がしやすい。
日本製は寿命が長いと言われているが、毎日酷使しているなら一年くらいで、どこかにガタがくる。
また日進月歩の世界なので、最新型武器などの対策が施されていない。
メンテナンスって大切だね。
さて、EMPを周囲に……。
しかし、あたしの展開したEMPが全く効果なく、こっちへ向かって走り寄ってくる。
やばっ。もしかして、野良になったばかりのやつ?
慌ててそこから離れた瞬間、軍用犬ロボがすぐさま反応して、噛みついてくる。
まずい。
そう思った瞬間、真横から蹴りが飛んできて、犬を吹き飛ばした。
「任せろ」
「あっはい」
そういえば、今日からロボットを連れてきてたんだ。
すっかり忘れてた。一つに熱中すると、他のことを忘れてしまう悪い癖だ。
ロボットは弾がもったいないのか、体術だけで犬を圧倒していた。
あっという間に、制圧したロボットは、犬を鷲づかみしたまま持ってくる。
「バッテリーを壊した。それ以外は、おそらく無事だろう」
「ほんと!? それはありがたい」
うひひひ、軍用ロボ犬のパーツ、げっとだぜ!
犬型は警備に向いているので、需要が高くパーツもよく売れるのだ。
しかもEMPが効かなかったということは、かなり最新型のはず。
これはボーナスだね。
「それにしても、あんた強いね」
「まあこれくらいは……な」
設定を見る限り、企業が作った試作用の戦闘タイプだと思うんだけど、古い武器しか搭載されていなかった。
それでも最新型の犬を、武器も使わず圧倒したんだから、そうとうなハイスペックだ。
搭載されているAIも、従来のものと随分違う。試作型だからかなぁ。
AIって戦闘を最適化させ攻撃するので、どうしてもある程度パターン化された動きになってしまう。
だから、熟練の兵士相手だと勝てない。
例えば右斜め前から攻撃を受けると、必ず一体が防ぎ、それ以外が相手を囲むように回り込む。
事前にそういう動きをしてくると予想できれば、熟練者にとってはやり易い相手だろう。
「それ、もって帰れる?」
犬型とはいえ、かなりの重量だ。あたし一人では、台車を使わないと持てない。
でもこのロボットは、軽々と持ち上げてみせた。
これ、売るより護衛や荷物運びとして、手元に残しておいたほうがいいんじゃないかな。
便利すぎる。
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「決めた。あんたはあたしの護衛兼荷運びとする」
俺を拾って修理した若い女が、そう言い放った。
俺は元大企業の試作戦闘フルボーグだ。脳みそ以外、全て機械で出来ている。
彼女は俺をAIだと思っているが、それは違う。
AIはサポート用に使っているが、戦闘技術は俺という人間が培ってきたのだ。
元々は、企業の専属傭兵だったのだが、ある日メンテナンス員の女と恋仲になり、子を作った。
だがその女は、その子を連れて逃亡したのだ。
そのため、手引きをしたと疑われて、試作の戦闘フルボーグへと改造されてしまった。
まあ実際に手引きしたんだがな。
それから十五年、企業の最新型戦闘AIと模擬戦や他企業との抗争で戦ってきたものの、さすがにガタがきてしまい、廃棄処分となったのだ。
脳はまだまだ十分戦えるが、十五年も前の技術をベースに改造していたため、どうしても最新型と比べると劣ってしまう。
それに、もう一度改造するより、新しい人間を改造したほうが手っ取り早く、費用もかからない。
こんなわけで、廃棄所へ捨てられたのだ。
まあ、こんな最後になると予想していたから、ショックはなかったがな。
本当なら、この若い女に声をかけるつもりはなかった。
しかし彼女を見た途端、昔愛した女の面影を思い出してしまい、つい声をかけてしまったのだ。
「じゃあ、まず自己紹介だ。あたしの名は梨花。大ノ橋梨花だ」
大ノ橋?
非常に珍しい苗字だ。そしてその苗字には、一人だけ心当たりがあった。
「大ノ橋梨花だな。俺は……そうだな、弦蔵とでも呼べ」
「弦蔵? これまた古臭い名前だね」
「梨花は何歳だ? 随分若く見えるが」
「十五だよ。二年くらい前に母が亡くなって、そこから独り立ちした。ちゃんと、母からメンテナンス技術を叩きこまれたから、安心して」
…………。
俺が考え込んでいると、梨花が慌てて言い訳をしてきた。
おそらく俺が、若いから梨花の腕が悪いと判断した、そう思ったようだ。
「おっと、亡くなった母は元企業のメンテナンス員だ。だから、腕は人並以上にあるよ」
それを聞いた瞬間、心の中で笑った。
十五歳で大ノ橋。
俺が愛した女の苗字であり、彼女に似た面影を持っている。そして、俺の子が生まれたのも十五年前。
皮肉な運命だな。まさか実の娘に拾われるとは。
俺が父親だと伝えるべきか?
――いや。
すでにこの子は、父親がいなくとも生活している。
ここで俺が名乗るより、彼女を裏から守ってやるのが父親ってもんだろう。
廃棄処分を受け、俺の人生はそこで終わったと思っていた。
しかし、こうして偶然娘と再会できたのは、神ってものがいるかも知れないな。
娘が一人前になるまで手助けをするのも、父親の仕事だろう。
「ならば全幅の信頼を寄せよう」
「それは言い過ぎだよ。じゃあ明日も廃棄所で色々と漁るから、護衛と荷物運びよろしくね」
「ああ、任せろ」
娘を守るのは父親の仕事だからな。




