繊細な王子は号泣す
「はぁ……はぁ……」
初めてやった、アクション。すっごく大変だった。
まさか、こんなにハードだったとは……ううう、やっぱ、もう少し鍛えた方がよかったかもしれない。
思うように体も動かなかったし……けど、今の僕としては良い感じだったと思う!
で、監督は何て言ってる?
そう思って、僕は監督の方を見た。
「浅樹君、なかなかよかったよ。この調子で頑張ってね」
「はいっ!!」
よし、好印象! なら、これから鍛えれば……。と、そのときだった。
「……浅樹君なら、もう少し出来ると思ったんだけどな。やっぱり顔だけか」
……えっ? 今、なんて……? 顔……だけだって……?
待って、待って監督!! 僕はそんなんじゃない。もっと出来るはずだったんだ。ただ、体が追いつかなくて……でも、でも……!!
本当はもっと、動けるはずで……!!!!
でも言えなかった。空耳だったかもしれないし、それに……。それを言って、好転するとも思わなかったから。
「そういえば、浅樹さん。もうすぐオフですよね。必死に守ってたオフ。何するんですか?」
マネージャーの声に僕は現実に戻れた。
そうだった、もうすぐ僕には神絵師に会えるっていう一大イベントが待っていたんだ。
そうだそうだ、気持ちを切り替えよう。そうすれば、きっと……!!!
そして迎えたオフの日。
そう、神絵師のさあや神様に会える日だ。
バレないように、瓶底眼鏡に、ぼさぼさの頭。そして、ヲタクな地味な服で、屈み気味に行けば……うん。全然バレてない。
これならばっちりだ。
後はこのまま、さあや神様の壁サークルスペースに向かえば……って、うわああ。
やっぱ、列になってるよなぁ。
大人しく最後尾に並んでると、次々とお客が後ろに並んでいく。その分、徐々に神サークルスペースに近づいていく。
どくん、どくん。
うわあ、緊張してきた。頑張れ、頑張れ、僕っ!! いや、俺!!
今日、感謝を言わずして、何を言うんだ!!!
「す、すみません……新刊を二つください……」
よかった、一人一冊じゃなかった。
「はい、2000円になります!」
「あ、あの、あなたが未来さあや先生……ですか?」
僕の声に二人は息ピッタリに顔を見合わせて。
「ごめんなさい。お姉ちゃんは……あ、さあや先生は今日はいないんです。お仕事が入っちゃったみたいで……」
えええええええっ……!!!!
ま、マジかよ……とほほ……。
「こ、これ……すみませんが、先生に……渡して、ください……」
「ありがとうございます!! きっと喜びますっ!!」
可愛らしい売り子ちゃんは、僕の差し入れを受け取ってくれた。すごすごと場所を移動する途中で……僕は聞いてしまった。
「やっぱりさー、サナ姉、今日ここに来たくないのってさ……」
「うん、お客さんの中で会いたくない人がいるからだよね……」
「だって、手売りが好きなお姉ちゃんが休むなんて、珍しすぎ……」
今、サナって……それに会いたくない、人……だって?
それを聞いて、僕は目の前が暗くなりかけた。何とか立って……そして、家になんとか、帰って来た。
「やあやあ、待たせたな! シド様だぜ。今日はトーク編!! ヲタク談義は一杯しゃべって良いって許可はもらってるから、ガッツリ語り合うのでそのつもりでな!! じゃあ、さっそく始めるぜーー!! いえええええ!!!」
分かってる。空元気だっていうのは。でも、こんなんやらなきゃ、やってらんねえよ。
本業もダメだし、神絵師には会えなかったし……。それに……。
「じゃあ、何から話そうか? んん、なになに、コミケで神絵師に会えたんですか……だって……?」
あ、ダメだコレ。俺もう……。
「うっ……」
無理……。
「うっ……うっ……」
コメントに新刊買えなかったのかって、心配してくれてるコメントがあった。
「ちが……新刊は……買えたんだ……でもっ……でも……神絵師様には……会えなくて……うっ……うっ……」
もう、本当に……本当に……。
「うわあああああああああああああ……」
涙が止まらなくなった。こんなんやるつもりなかったのに。
うわ、どうしよう、放送事故だってのに……ああ、もう無理、ダメ……ああ、涙止まんないし、ライブも止められないし。
「うわああああああああああ……」
――本当に、俺……もう、無理。




