ファミレスで会いましょう
息を切らして、見るからにヲタクな青年がやってきた。
店員に待っている人がいるからと断りを入れて、彼はそのまま、奥の席へと向かっていく。
と、そこにいる眼鏡の女性を見て、青年は足を止めた。
「……!!!」
何も言えなくなっている。
「よかった、来てくれたんだね。待ってたよ、ら……じゃなかった、んーと、シドくん」
その言葉に、青年は唇を震わせながら、何も言えずにいた。
「あ、自己紹介してなかった……初めまして、私が未来さあやです。……ううん。サナですって言った方が嬉しいかな? それと……」
そう彼女が言った次の瞬間。
「サナ、会いたかったっ!! 会いたかったっ!! ずっと、ずっと……会いたかった……会いたかったよう……うわああああああああんんん」
そのまま飛び込むようにサナを抱きしめて、シドは大号泣をしていた。
店内の空気が、一瞬で凍りついた……のだが。
しばらくして。
彼らの前には、ご馳走が並べられていた。
シドの前には、蕎麦にかつ丼、ステーキが並べられ。
サナの前には、カルボナーラが置かれていた。
「ちゅる……落ち着いた? シドくん」
「う、うん……ごめん、なんか恥ずかしい所見せちゃって……」
「ううん、あれはその……ごめんなさい。私も悪かったの……」
二人は食べながら、少しずつ、語り始めた。
「やっぱり、僕の事……嫌いに……」
「なるわけないっ!!」
サナは立ち上がって抗議していた。え、そこで立つの?
「えっ……じゃあ、何で、コミケに来てくれなかったの?」
「そ……それは……会ったらもう……ら……シドくんに掴まってしまいそうだったから」
「えっ……そ、それって……」
「好きなのっ!! 違った、推しなの!!」
いや、そこは好きであってるよ!!!
思わず、ツッコミを入れたくなった。
「え、推し……ホント? ……ヤバ、凄く……嬉しい……」
青年!! そこは推しではなく、恋人だっていう所だぞ!!
新たなツッコミがいろんなところで聞こえてきた……ように感じられた。
「と、とにかく……ね。ごめんなさい……その、逃げちゃって……だって、この関係が壊れるのが嫌だったの……推しは遠くから推すから、推しなんだって思うから」
「それは分かる。僕もその……サナが推しなのは変わらないし」
そっちも推しなのか!?
両方、恋人じゃなくて、推しなのか!?
「いろんなところで頑張ってるところも……それに配信で私の絵で配信してくれてるのが……好き。だから、推し」
「解釈一致だし、凄くてびっくりした。新刊だって神だったし、僕をメロメロにしていた。だから、好き。神絵師だし好き」
お、もしかして、コレは……男の方が惚れてる?
「だって、格好よすぎる推しが来たら、私、動けなくなっちゃいそうだし……心臓止まりそうだったんだもん……」
「何言ってるの。それはこっちのセリフ。僕だって、サナだってわかってたら」
そのまま、シドはサナの頬に触れた。
「きっと天国まで行ってた。ううん、今も……天国に行ってる気分……好きだよサナ」
「はうううう、や、やっぱり、そういうと……思ってたっ!!」
サナはサナで、顔を真っ赤にしている。正直言って可愛い。
「だって、ら……シドくんにあったら、もう終わりだと思ってたんだもん。シドくんにあったら、もうシドくんのことばっかりになっちゃう」
あれ、今度はもしかして、女性の方も惚れてる?
いや、これってもしかして、既に……。
「サナ……」
「ら……シド、くん……」
そのまま、二人は唇を重ねた。
「サナ……今度はいつ会える?」
「来月の13日の日曜日……そこの秋フェスに参加するから……その、新刊持って行く。イベント終わったら、フリーだから……その、またここで……会わない? 夕方の5時くらいで……いいかな?」
「時間言わなくても、イベントで会って、そのまま一緒に、ここにくればいいんじゃない?」
「あ、そっか。そうだね。うん、じゃあ、次の秋フェスで……」
「じゃあ、食べ終わったし、そろそろ一緒に……」
「それは駄目!! そんなことしたら、絶対、ら……シドくん、私の後をついていって、私の家を特定しちゃうでしょ? それは駄目」
あれ、男の方、ストーカーか何か?
「えええ、いいじゃない。それでもーー」
「良くない!! 駄目、推しは遠くから眺めるもの、ほら、ワンモア!!」
「推しは遠くから眺めるものーー」
「というわけで、私はら……シドくんを見送って、帰った後で、帰ります」
「いけずだ……サナがいけずだ」
「私は、ら……シドくんのことを思って言ってるの! スキャンダルになりたくないでしょ?」
「……まあね。今、大事な時期だし……はぁ……わかったよ。でもこの次は本当に教えてもらうからね」
シドは立ち上がり、そして、そのまま伝票を全部持って行った。
「あっ……!!」
「今日は僕のおごり。いいよね?」
「……シドくんの……いじわる」
「何とでも言って。あっと、忘れ物」
サナの側に近寄り、そして、飛び切りの笑顔を見せた後で。
「!!!!」
再び、キスをした。
「また、来月。楽しみにしているよ、僕のサナ」
最後にとんでもないイケボで囁いて、シドは去っていった。少し名残惜しそうに。
「も、もう……キスだなんて……反則……」
そう言いながら、彼がいなくなったのを確認して、サナもまた、帰路へとついたのだった。
ファミレスの中では、ようやくほーっと、息をついている人々でざわざわしていた。
まあ、十数人ではあるが、彼らの来月のあの日は、もう予定確定だ。
この二人の行く末がどうなるか、見届けるまでは終わらない!! そこに残っている客全員とスタッフ全員はそう思っていたのだった。




