第13話 静かな成功
成功した、という報告は、いつも静かだ。
歓声は上がらない。誰かが抱き合うこともない。ただ、端末の画面に表示された数値が、基準を満たしているかどうかが確認される。
「……問題なし」
エリオ・クレインは、そう呟いて画面を閉じた。
手順は完璧だった。
記録も揃っている。
事前確認、実行、事後検証――すべて規定通り。
新しい手順は、導入から一週間が経っていた。旧式は「参考扱い」に落とされ、現場ではほとんど使われていない。
それでも混乱はなかった。むしろ、仕事は楽になった。
「慣れましたね」
隣で記録をまとめていたリア・ノートが、何気なく言った。
「ええ。判断に迷わなくていい」
エリオはそう答える。
迷わない。
それは、良いことだ。
以前は、状況ごとに微調整が必要だった。感覚に頼る部分も多く、結果の説明に時間がかかった。
今は違う。
条件を満たせば、結果が出る。
満たさなければ、実行しない。
それだけだ。
「成功率、九十九点八パーセントです」
別の職員が言う。
誰も驚かない。
想定通りだからだ。
エリオは報告書に目を通す。
「異常なし」という文字が、いくつも並んでいる。
その中に、リアの手が止まっているのが見えた。
「……何かありましたか」
リアは、少しだけ言葉に詰まった。
「いえ……大丈夫です」
そう言って、記録を続ける。
エリオは、それ以上追及しなかった。
記録に残らない違和感は、ここでは扱わない。
扱わない、というより――
扱えない。
昼休憩の時間になり、エリオは施設の廊下を歩いた。
掲示板には、新しい手順の概要が貼られている。
代替手順:安定化完了
神性依存度:低
再現性:高
安全性:基準値超過
神性依存度:低。
その項目を見て、エリオは一瞬だけ足を止めた。
石像神の存在が、頭をよぎる。
だが、すぐに思考を切り替えた。
もう前提ではない。
必要なときに補助として参照されるだけだ。
それで十分だと、上からも説明されている。
現に、問題は起きていない。
夕方、最終確認が行われた。
「本日の実行分、全件成功」
誰かがそう告げる。
拍手は起きない。
それが、日常になったからだ。
エリオは端末を閉じ、深く息を吐いた。
仕事は、うまくいっている。
少なくとも、そう見える。
その頃、神殿では、ほとんど人が立ち止まらなくなっていた。
祈りは、届かない。
声は、ない。
石像の神は、ただそこに在る。
観測されることも、ほとんどなくなった。
世界は、静かに、前に進んでいた。
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