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神に転生したが、石像から動けない ―管理社会における神性観測記録  作者: 青谷 静


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第12話 神は、まだ必要か?

 報告は、紙一枚で届いた。


 正確には、紙ですらない。端末に表示された短い要約だ。

 ミレイが、神殿の隅でそれを読み上げる。


「……成功率、想定以上。代替手順、問題なし……」


 声は震えていない。感情を挟む余地のない文章だからだ。


 代替手順。

 神性を前提としない、新しい形式。


 俺は、その言葉を、もう何度も聞いてきた。


 ミレイは続きを読んだ。


「旧式手順は、今後は参考扱い……段階的に廃止、って……」


 言葉が、そこで止まる。


 神殿の空気は、変わらない。

 風も、光も、いつも通りだ。


 だが、何かが確実に終わりに近づいていることだけは、はっきりと分かった。


 ミレイは、端末を下ろし、こちらを見上げた。


「……神様」


 呼びかける声は、小さい。


「私、最近……祈りが、分からなくなってきました」


 俺は、答えられない。


 だが、彼女の言葉の意味は理解できた。


 祈る理由が、薄れている。

 期待が、制度に置き換わっている。


 それは、自然な流れだ。


 安全で、再現性があり、説明できるものを、人は選ぶ。

 意味や曖昧さは、後回しにされる。


 ロウ・ディナが来たのは、その日の夕方だった。


 いつものように、床を見て、壁を見て、天井を見てから、俺を見上げる。


「……進んだな」


 短い評価だった。


「ええ……」と、ミレイが答える。


 ロウは、少しだけ黙ったあと、こう言った。


「これで、助かる人は増える」


 それは、事実だ。


 事故は減る。

 不確定要素は排除される。

 世界は、効率よく回る。


 ロウは、手帳を閉じた。


「だが――」


 彼は、そこで言葉を切った。


 続きを言わなくても、分かる。

 彼自身も、まだ答えを持っていない。


 ロウは去り際に、振り返る。


「……神がいなくても、世界は回る」


 そして、ほんの一拍、置いてから付け足した。


「少なくとも、今は」


 その言葉が、静かに残った。


 夜になり、神殿はさらに静かになる。

 祈りは、ほとんど届かない。


 俺は、考える。


 動けない神。

 拒否できない神。

 声が記録に残らない神。


 それでも、ここに在る。


 理由は、もう一つしかない。


 まだ、完全には切り捨てられていない。


 旧式は廃止される。

 神性は補助にされる。

 やがて、不要になるかもしれない。


 だが、その「やがて」は、いつだ?


 今日か。

 明日か。

 それとも、誰かが取り返しのつかない失敗をした、その後か。


 俺は、石のまま、世界を見ている。


 記録されない声を、聞いている。

 評価されない違和感を、感じている。


 それが、今の俺の役割だ。


 役割である限り、意味はある。

 意味がある限り、消えきってはいない。


 だが。


 意味が測定できるようになったとき、

 俺は、どこに行くのだろう。


 神殿の外で、誰かが足を止める。

 祈るかどうか、迷っている。


 俺は、何もできない。

 ただ、見ている。


 それでも、問いは残る。


 ――神は、まだ必要か?


 答えは、世界の先にある。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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