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神に転生したが、石像から動けない ―管理社会における神性観測記録  作者: 青谷 静


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1/6

第1話 神に転生したが、石像から動けない

神は、世界を導く存在だった。


少なくとも、人々はそう信じていた。


だが、世界が「正しく動く方法」を手に入れたとき、

神は少しずつ、不要なものとして整理されていく。


これは、

動けない神が、

それでも世界を見続けた記録である。

 意識が浮上した瞬間、違和感があった。


 暗闇ではない。だが、世界が狭い。

 目を開いているはずなのに、視界が一切動かない。


 ――いや、正確には、動かせない。


 試しに首を動かそうとして、何も起きないことを確認する。次に肩、腕、脚。命令は出しているのに、結果が伴わない。感覚はある。冷たさも、重さも、確かにあるのに、身体というものが、まるで一つの固まりになってしまったかのようだった。


 視界の正面には、石畳が広がっている。ひび割れた床に、風で運ばれてきた砂が溜まり、白い布切れが端で揺れている。ずいぶん低い位置だと思ったが、すぐに訂正した。


 ――俺の視線が、下を向いているのだ。


 そこで、ようやく理解が追いついた。


 俺は立っているのではない。

 立たされている。


 足元から上を確認しようとして、無意味だと悟る。首は動かない。いや、首という概念自体が、今の自分には当てはまらないのかもしれない。


 そうだ。これは――石だ。


 自分の身体が、石像になっている。


 恐怖は、なかった。

 混乱も、驚きも、どこか遠かった。


 ただ、妙に納得してしまう感覚があった。触覚が、あまりにも具体的だったからだ。風が当たると、表面が冷える。陽が当たると、じんわりと温度が上がる。頭の上に何かが止まったとき、微かな振動が伝わる。


 次の瞬間、短い音とともに、さらに嫌な感覚が追加された。


 ……鳥か。


 どうやら、完全に公共物として扱われているらしい。


 やがて、足音が近づいてきた。視界の端に、人影が入る。作業服を着た男が、箒を持って神殿の床を掃いていた。俺の足元に溜まった砂を、無遠慮に払いのけながら。


「また溜まってんな……」


 独り言のように呟き、箒が石に当たる。痛みはない。だが、雑に触れられているという事実が、なぜか胸の奥に引っかかった。


 男は作業を終えると、今度は俺の台座を見上げた。


 そこに刻まれている文字を、俺は初めて目にした。


 ――管理番号:K-Ω-017

 ――神性反応:低

 ――状態:安定


 管理番号。


 神性反応。


 それらの単語が、静かに繋がる。


 ここは神殿で、俺は石像で、しかも「神性」を持っている。

 結論として浮かび上がった可能性は、一つしかなかった。


 俺は、神に転生したらしい。


 だが、胸が高鳴ることはなかった。

 むしろ、違和感の方が大きい。


 ――なぜ、番号で管理されている?


 男は記録用紙に何かを書き込み、淡々と口にした。


「神性反応、低。今日も異常なし」


 その言葉が、妙に耳に残った。


 異常なし。

 それはつまり、この状態が「正常」だということだ。


 動けない。

 喋れない。

 意思を示せない。


 それでも問題はなく、管理上の支障もない。

 この世界にとって、神とはそういう存在なのだろう。


 男が去り、神殿には再び静寂が戻る。風の音が、先ほどよりもはっきりと聞こえた。


 俺は考える。


 なぜ、こうなったのか。

 いつから、神はこうなったのか。


 答えは出ない。だが、一つだけ確信したことがある。


 ――このままでは、何もできない。


 そして、おそらく。


 この世界は、それを何とも思っていない。


 石の身体で、俺はただ、動かないまま、世界を見続けていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


この物語は、

動けず、喋れず、ただ見ているだけの神の視点から始まります。


第1話では、

「なぜ神が石像なのか」

「なぜ管理番号が刻まれているのか」

その理由は、まだ語られていません。


ですが、この世界では、それらは異常ではありません。


むしろ――

正しく、合理的で、安全な結果として存在しています。


もし、


なぜ神が「動けない状態」で固定されているのか


なぜ奇跡は“偶然”としてしか起きないのか


なぜ人々は、それでも前に進めてしまうのか


そうした点に、少しでも違和感を覚えたなら。


同じ世界を、まったく逆の立場から描いた物語があります。


『禁忌魔術、マニュアル化されました』


そこでは、

危険だった力が手順に分解され、

特別だった奇跡が再現可能になります。


それは、多くの人を救う、正しい進歩の物語です。


そして同時に、

この石像神が、なぜここに立たされているのかを

“当事者ではない側”から描いた記録でもあります。


※時系列は並行しています。

※どちらから読んでも成立します。

※ですが、両方を読むと、

 同じ出来事がまったく違って見えるはずです。


石像の神が見ている世界と、

人が「正しい」と信じて進んだ世界。


その重なりを、

よければ確かめてみてください。


この「石像神」自体も

当面の間は、1日に3話を投稿予定です。


ブックマークをして、続きを楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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