第7話 月光の間
枢機卿の男性を追いかけやってきたのは、大聖堂の西側に位置する「月光の間」だった。
いつも東側に出入りしがちなソレイユは、足を踏み入れたことがない場所だった。そもそも、確かここは太陽の聖者は立ち入り禁止だった気がする。
様子を見る限り、月光の間に入っていくのは皆男性だ。それも教団内で高位の地位に当たるものばかりである。
女性がいると目立ってしまいそうなので、髪をなるべく短く見えるように結い直す。それでも月光の間の中まで入るのは、見つかるリスクが高いだろう。男性たちが全員月光の間に入りきったところで、ソレイユは入口からそっと中を覗き込んだ。
美しいドーム型の屋根に、夜空を思わせる青いステンドグラスが張られた室内は、月の光を柔らかく取り込み、幻想的な輝きに包まれていた。
しかしそこで行われていたことは、その神聖な雰囲気とはあまりに不釣り合いで、ソレイユは思わず目を疑った。
まず目に入るのは、部屋の天井からつり下がっている天蓋だ。半透明の水色の布が床まで垂れ下がり、中央にある円形の祭壇を覆っている。
そしてその祭壇の上にあるのは、青いシーツを被せたベッドだった。
ベッドの中央には、月の聖女であるセレーナの姿がある。そしてセレーナを取り囲むように、複数の男性がセレーナに群がっている。
夜間にベッドの上で男女が行うこと。それが何なのかは、そちらの知識が浅いソレイユでもわかることだった。
男性たちの手が次々とセレーナの体に触れ、セレーナは柔らかな銀色の髪を乱して悶えている。
セレーナが嫌がっている様子はない。恍惚とした表情を浮かべ、悲鳴に似た甲高い声を響かせている。
(なに、これ)
ソレイユは理解が追いつかなかった。なぜ月の聖女が複数の男性と絡み合っているのか。
これが月の聖女の勤めだと言うのなら、ルーナも聖者を産み落とした後、同じことをするのだろうか。
(何のために?そもそも、これは本当に月の聖女の勤めなの?セレーナ様の趣味じゃなくて?)
セレーナの趣向だと言うなら品性を疑うが、できれば趣味であってほしいとソレイユは思った。しかし、おそらく月の聖女の勤めであることは察しがついていた。
ソレイユが追いかけてきた男性は二人組の男性に、「それともルーナ様待ちですか」と聞いていた。
つまり将来、ルーナもあのような目に会うということだ。
嘘だと思いたかった。教団の教えを真面目に守っているルーナが、このようなことをされる運命にあるなんて。
見間違いであることを期待して、もう少し近くで見ようと思った。遠目だから乱れているように見えるだけかもしれない。
室内に足を踏み入れようとしたとき、突然背後から肩を掴まれた。
(やばい、ばれた……!?)
ソレイユの額から汗が吹き出す。ばれてしまったかもしれない。そうでなくても不審に思われたかもしれない。
恐る恐る振り返ると、そこには背の高い、絶世の美女が立っていた。
この女性も枢機卿だろうか。ソレイユと同じ、高位者の衣服を身に纏っている。
艶やかな黒い髪を片側に流し、長めの前髪を耳に掛ける動作は、女性でも色気を感じるほどの妖艶さだ。釣り気味の目尻は色っぽいと同時に迫力がある。
ソレイユはふと、その女性に見覚えがあるような気がした。前髪を耳に掛ける動作が、知り合いの誰かに似ている気がする。
しかしこんな美女なら一度見たら忘れないだろう。やはり気のせいだろうか。
女性は唇に指を当て、静かにするようにソレイユに促した。どうやら騒ぎを起こす気はないらしい。
女性はソレイユを手招きし、月光の間に背を向け歩き出す。何かを言われたわけではないが、女性がソレイユの正体に気づいているだろうことは感じ取れた。
見つかってしまった以上、ここに留まることはできない。ソレイユはしぶしぶ女性を追いかけ、月光の間を後にした。




