第5話 戻らない幼馴染
ディールスが神の依り代になった。その事実を、ソレイユは午後になっても受け入れられずにいた。
本当は街の巡回に行く日だったのだが、あまりにも上の空で何も手につかず、もう一人の太陽の聖者と担当を変わってもらった。
珍しいほど落ち込んでいるソレイユの様子に、ジュドもあの手この手でソレイユの機嫌を取ろうとする。昼食にはソレイユの好物である牛肉の串焼きを用意してくれたが、いつもより味を感じなかった。
聖堂内の長椅子に座り、最高神アウレルの像をぼんやりと眺める。いつもはなんとも思わないその姿が、今日は憎らしく思えた。
どうしてディールスなのか。もう会えないのか。ディールスも早死にしてしまうのか。せめて別れの言葉くらいは。色々な思いが混ざりあい、心の中でマーブル模様を描く。
まとまらない思考の中で、はっきりと感じ取れる疑問が一つだけあった。
それは、最初からディールスが神の依り代になると決まっていたのではないかという疑念だ。
思えば、わざわざジュドを呼び出して、先に検査をする理由がない。勤務前のディールスを先に検査したらいいではないか。
ならばなぜジュドを呼び出す必要があったのか。それはディールスが依り代になることを、ジュドに説明していたからではないだろうか。
まあ事後報告でも変わらない気はするが、色々と準備があるのかもしれない。事実、昨日のジュドはまるでディールスが戻らないとわかっているような仕事ぶりだった。
ジュドがソレイユに、覚悟を決めるよう念押ししたのも気になる。普段のジュドならそんなことはせず、「どうせ戻ってきますよ」くらい興味なさげな態度を取る気がする。
この疑問をジュドに聞いたところで、きっと何も答えないだろう。上から言われた通りのシナリオを説明してくるに違いない。
もし本当にジュドの言う通り、検査の結果ディールスが選ばれた可能性もなくはない。それならそれでも良いのだ。
ソレイユはただ、真実を知りたいと思った。疑問を抱えたまま、誰かを疑ったまま生きていくのは苦しい。
しかしどのように真実を知るか、それが問題だった。確実に事実を知っている相手と言えば、教団を実質的に管理している枢機卿だろう。
だが枢機卿に伝手はない。寧ろ距離を取っている相手ですらある。ソレイユを最初に「異端の聖女」と呼んだのも、ディールスを「邪神の子」と揶揄したのも枢機卿だからだ。
なんとか真実を知る方法はないか、ソレイユはアウレル神の像を眺めながら考えた。いっそアウレル神本人に聞いてみてもいいかもしれない。依り代を得たのなら、大聖堂のどこかにいるはずだ。
徐々に冷静になってきたソレイユは、真実を掴むための計画を企てた。
内容は非常に単純だ。変装して枢機卿の居住区へ侵入する。
枢機卿の居住区は、枢機卿以外立ち入り禁止だ。他の者は聞いていないと油断して、大事な話をポロっとこぼしてしまうこともあるかもしれない。それを盗み聞けたらそれだけでも儲けものだ。
枢機卿の衣装は、数年前にこっそり拝借したものがある。髪型を変えて眼鏡を掛ければ、案外見つからないのはそのとき立証済みだ。
決行は今夜、ジュドの勤務時間を過ぎてからだ。ディールスの後任が決まっておらず、夜の付き人がいない今夜を逃したら、もう二度とチャンスは訪れないかもしれない。
最悪見つかったとしても、太陽の聖者が罰せられることはないだろう。どれほど嫌われていようと、聖者は教団に必要不可欠な存在だ。
ソレイユはまだ上の空なふりをしながら、頭の中で計画の詳細を詰めていった。




