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異端の聖女は復讐を誓う  作者: わしお
第一章 - 異端の聖女

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第3話 月の聖女

「ただいまー!」


ソレイユはディールスと共に、大聖堂に併設された自室へと戻ると、元気よく扉を開けた。


部屋の中央に位置するテーブルに目を向けると、ソレイユとよく似た顔の女性が、優雅にティーカップを傾けている。

女性はソレイユを見ると、かちゃりと音を立ててティーカップをソーサーに置いた。


「おかえり。お勤めご苦労様」

「うん!ルーナなに飲んでるの?」

「ハーブティー。ソレイユも飲む?夕食に合わせても美味しいと思うわ」

「飲む!」


ルーナと呼ばれた女性はゆったりとした動作で、付き人にソレイユのハーブティーを淹れるよう指示した。


ルーナはソレイユの双子である「月の聖女」だ。幼いころからソレイユと同じ部屋で生活をしている。ソレイユのことを「異端の聖女」と揶揄しない、数少ない人物の一人だ。


滑らかな銀色の髪に、月を映したような金の瞳。色合いこそソレイユとは異なるが、顔立ちは鏡合わせのように瓜二つだ。


似ていないところといえば、落ち着いた雰囲気と体格くらいだろう。筋肉質で寸胴のようなソレイユと異なり、ルーナは女性らしいメリハリのある体型をしている。

ルーナの豊満なバストと安産型のヒップラインを見るたびに、本当に同じものを食べて育ったのだろうかとソレイユは疑うのだった。


ソレイユがルーナの正面に腰かけると、間もなく夕食とハーブティーが運ばれてきた。ソレイユはハーブティーのカップを手に取り、そっと口に含む。ハーブの爽やかな香りが鼻を抜け、すっきりとした甘味が疲れた心を癒やしてくれるようだった。


「甘いね!美味しい!」

「そうでしょう?食欲を抑える効果もあるから、食べすぎの防止にもなるの」

「また食事制限してるの?」

「油断するとすぐ体重が増えるから。毎日の積み重ねが大事なのよ」


ルーナは体型や髪に非常に気を遣っている。ソレイユからすると細いくらいだと思うウエストですら、「太った」と言ったりする。

気にしすぎではないかとソレイユは思うが、“女性らしさ”を求められる月の聖女としては普通なのかもしれない。


それに本人が納得できる姿が一番だ。個人的な見解で意見することではないと思い、ソレイユはその話題を聞くだけに留めた。


「そういえば、今日はジュドじゃないのね。交代の時間には早いんじゃない?」


食事の合間にルーナが尋ねた。ソレイユは首を縦に振り、頬張ったチキンを嚥下する。


「また枢機卿からの呼び出しだって。今度はなにかなぁ。最近は変なことしてないと思うんだけど。水遊びも木登りもしてないし」


ソレイユに関する苦情の多くは、聖女らしくない振る舞いについてだ。別に誰かに迷惑をかけたわけではない。寧ろ水中に落としたものを拾ったり、木の枝に引っ掛かった帽子を取ったりと、人の役に立つことをしている。

聖女らしからぬと言われると否定はできないが、苦情を言われることではないとソレイユは思っている。だがそれが誹謗の火種になるのなら控えた方が良いと、最近は付き人を頼るようにしている。


それはルーナも知っているようだった。ルーナの元にも、ソレイユに対する苦情や愚痴は届いている。その内容の変化を感じているのだろう。


「そうね……」


ルーナはフォークとナイフを置き、ソレイユの斜め後ろに視線を向ける。


「ソレイユじゃなくてそっちの人じゃない?」


視線の先にいたのはディールスだ。ルーナの声音には、嫌悪に似た棘のようなものを感じる。


ディールスは顔を動かさず、視線だけをルーナの方に向ける。その表情は冷たく、まるで腐った果実でも見るかのような不快さが滲んでいた。


二人の間に緊張が走る。一触即発にも見える状況だが、ソレイユは全く気にせず、それまでと変わらない調子で焼きたてのパンをちぎった。


「ディルは私以上に何もしてないと思うんだけどねー。それこそ根拠のない言いがかりをつけられてるだけというか」


ソレイユがそう言うと、ルーナはディールスから視線を外し、不機嫌そうにチキンを口に入れた。


ルーナとディールスの仲の悪さは、今に始まったことではない。ディールスがソレイユの護衛になった当時から、ルーナはディールスを嫌っていた。


最初は嫌いというより、怯えているようだった。ディールスは当時十歳にして、既に幾人もの命を手にかけてきた暗殺者だ。恐ろしく感じるのも無理はない。寧ろ恐怖しないソレイユの方が特殊だろう。

しかし年月が経ち、ディールスが恐ろしい人物ではないとわかっても、関係性は変わらなかった。寧ろ悪化していったように思う。


ソレイユにはいまいち原因がわからなかった。ソレイユが湯浴みをしている間に口論する声が聞こえたこともあるが、内容までは聞き取れなかった。ソレイユが姿を現すと、二人とも気まずそうにそっぽを向いてしまう。理由を聞いても、答えてはくれなかった。


二人ともに愛情を持っているソレイユとしては、仲良くなってくれたら嬉しいと思う。しかし馬が合わない人はいるものだ。無理に仲良しこよしさせるほうが酷だろう。ソレイユは次第に放っておくようになった。


ルーナはそれ以上ディールスに話題を向けることはなく、ディールスも話に入ってくることはなかった。

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