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異端の聖女は復讐を誓う  作者: わしお
第一章 - 異端の聖女

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第1話 異端の聖女

雲一つない真っ青な空を、海鳥たちが楽し気に歌い踊っている。潮の香りが鼻をくすぐり、涼しげな風が優しく頬を撫でる。


ここアウレル国は、面積約1.15平方キロメートル、人口はわずか3000人程度の小さな島国だ。

温暖な海のおかげで一年中暖かく、晴れ間も多い。少々海風が強いが、慣れてしまえば心地良いものだ。


白と水色を基調とした石造りの街並みと、穏やかなエメラルドグリーンの海。そしてそれを見下ろすように、巨大な大聖堂が島の中央にそびえている。


この大聖堂は、国教であるアウレル教のもの。教団内で働く人々の住居も併設しており、国民の約半数がこの大聖堂で寝起きしている。


大聖堂は最高神アウレルを称える象徴であり、国民の祈りの場であり、憩いの場でもある。


今日も大聖堂前の広場では、子供たちが楽し気に遊んでいる。

アウレル教の聖女であるソレイユは、もう十六歳であるにも関わらず、子供たちと一緒になって噴水の周りを走り回っていた。


腰まである金色の髪に、光を受けて輝く水色の瞳。陶器のように滑らかな肌は、まさしく絵に描いたような聖女の姿である。しかし純白の装束が汚れるのも構わずに駆け回る様子は、一般にイメージする聖女像とは遠くかけ離れていた。


誰がどう見ても、ソレイユは遊んでいるようにしか見えないだろう。実際遊んではいる。しかし彼女はとある理由から、噴水から離れないように努めていた。


「うわっ!」


駆け回っていた少年の一人が、石畳に足を取られて転んだ。走っていた子供たちとソレイユは足を止め、すぐさま少年に駆け寄る。

少年は膝を擦りむき、傷口から血が流れていた。


ソレイユは噴水でハンカチを濡らし、少年の隣に屈むと、傷口にハンカチをそっと押し当て血を拭った。そして泣きじゃくる少年をなだめるように頭を撫でると、傷口を覆うように右手を翳す。


翳したその手から、まばゆい光が溢れた。するとみるみるうちに皮膚が再生し、あっという間に傷などなかったかのような綺麗な膝に戻った。


様子を見ていた子供たちから、わあっと声が上がる。少年は恐る恐る膝に触れ、痛みがないことがわかると安心したように顔をほころばせた。


「ありがとう、太陽の聖女様!」


少年の笑顔に応えるように、ソレイユは歯を見せて笑った。


「どーいたしまして。もう転ばないように、足元に気を付けるんだよ」

「うん!」


にこやかに返事をして、少年はまた元気よく走り出した。

言葉とは裏腹なその行動に、ソレイユは少々呆れ顔で息をついた。


アウレル教には、神の力を宿す二対の聖者が存在する。


ソレイユのように傷や病を癒やす「太陽の聖者」。そして神の子を宿し、次代の聖者を産み落とす「月の聖女」。

二対の聖者は必ず()()の双子として生まれ、その力を持ってアウレル国を繁栄に導いてきた。


ソレイユが噴水の傍にいるのは、人々が太陽の聖者を見失わないためだった。傷を負ったとき、太陽の聖者がどこにいるかわかればすぐに助けを呼べる。

複数いる太陽の聖者のうち、必ず一人は大聖堂内か広場にいるのが決まりだ。今日はソレイユがその当番の日だった。


「あれはまた転ぶだろうなー……」


駆け回る少年を見て、ソレイユはやれやれといった様子で立ち上がり、スカートについた砂を軽く払った。そのときだった。


「やだ、異端の聖女だわ」


少し離れたところから、嘲るような声が聞こえた。


ソレイユはそちらに目を向けることはしなかった。誰がどんな表情でその発言をしたかは、大体想像がつく。


歴代の太陽の聖者は全員男性だった。アウレル教の長い歴史の中で、ソレイユは唯一、女性でありながら癒やしの力を持って生まれた。


保守的であるアウレル教で、イレギュラーは「神に背く存在」「厄災の前触れ」などと恐れられる。故に、ソレイユについたあだ名は「異端の聖女」だった。


先ほどソレイユを「異端の聖女」と呼んだ女性は、広場で遊んでいる子供の母親だ。ママ友二人で、ソレイユを見ながらクスクスと笑っているようだった。


「見て、あの汚いスカート。せっかくの白い服が泥だらけだわ」

「本当。聖女の肩書きが泣いてるわね」

「その聖女の力もどこまで信用できるのかしら。傷が治せないことがあるって」

「やだぁ。そんなの困るわ。人々の傷を癒やすことが太陽の聖者の仕事なのに」

「二年前に枢機卿が何人か入れ替わったでしょう?あれも異端の聖女が関わってるって噂で……」


止まらない女性たちの噂話に、ソレイユは空を見上げて溜め息をついた。話の半分以上はでたらめで、どこからそんな話が浮上したのかもわからない。


(想像力豊かな人がいるんだなー。その力をもっと人の役に立つことに使ったらいいのに)


そう思いつつ、ソレイユは女性たちの話を訂正することはなかった。この程度は“いつものこと”だ。


先ほどまで自分の子供を放置していたような人に馬鹿にされるのは癪に障るが、こういった人間は相手にしないのが一番いい。


心に刺さった棘は見て見ぬふりをして、ソレイユは再び子供たちと遊ぼうと足を踏み出した。

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