表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異端の聖女は復讐を誓う  作者: わしお
第二章 - 乳母 エルディア

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/107

第10話 新しい朝

赤かった空は青く染まり、小鳥たちが起床の時間を告げる。


髪を切った後、ソレイユは着替えて二度寝をした。目が覚めるといつも通りの朝で、違うことと言えば昨日より少し冴えた頭と、まとまりを失った自分の髪くらいだった。


遅れて起きてきたルーナと出勤時間を迎えたジュドは、ソレイユの髪を見て絶句した。


「ちょっと、どうしたのよその髪!!」

「どうしてご自分で切られたんですか!?おっしゃっていただければ理髪師を手配しましたのに!!鏡も割れていますし!!」

「いやー……。ちょっと勢いで」


ソレイユは笑いながら頭を掻いた。首筋にかかる涼しい風に、本当に髪が短くなったのだと実感する。


ルーナは肩をわなわなと震わせ、夜間の付き人であるヘルクスの方へ勢いよく頭を向けた。


「ヘルクス!あなた起きてたんでしょう!?なんで止めなかったの!」


ヘルクスは短い黒髪をいじりながら、申し訳なさそうに眉を下げた。


「騒いでルーナ様を起こしたらいけないと思って……。それに命に関わることでもない限り、ソレイユ様の行動に口を出す権限はありませんから」

「それは……そうだけど」


ルーナはヘルクスに反論しなかったが、納得はしていなさそうだった。


付き人は主人の行動を(いさ)めることはあるが、主人以外に関与することは基本的にない。あるとしたら緊急時だけだ。ジュドもソレイユには母親のように口を出すが、ルーナとは最低限の会話しかしない。


ヘルクスを責めても仕方がないのだが、それだけルーナにとって衝撃だったのだろう。ソレイユは申し訳ないと思いつつ、そこまで気にしてくれることを嬉しく思った。


「なに笑ってるのよ。怒ってるのよ私は」

「えへへー。ごめんね」


どうやら顔に出ていたようだ。ソレイユは口では謝りつつ、にやけた顔を戻すことはできなかった。

ルーナはむっとして、ソレイユの両頬を引っ張った。


「いたたたたっ」

「あのねソレイユ」


ルーナは頬を引っ張ったまま、真剣な顔でソレイユを見た。


「嫌なことがあったら愚痴っていいし、心配事なら相談していいの。一人で抱え込まないで」


思いのほか真面目な声音に驚き、ソレイユは目をぱちくりとさせた。


ルーナがソレイユを心配する発言を、面と向かってするのは珍しい。大抵は遠まわしだったり、怒っているように聞こえる言い方しかしない。


昨日までのソレイユが、それだけ落ち込んで見えたのかもしれない。もしくは、今までソレイユの相談に乗っていたディールスがいなくなったからかもしれない。


あまり素直ではない妹だが、ソレイユが思っているより、ルーナはソレイユを大切に思ってくれているのかもしれない。


「……ありがとね、ルーナ」


ソレイユが落ち着いた声でそう言うと、ルーナはソレイユの頬からぱっと両手を離す。そして呆れたように、「まったくもう」とそっぽを向いた。


会話に区切りがついたタイミングで、ジュドがパンパンと手を叩いた。


「さあ、もう朝食の時間ですから、早く着替えてください。髪を整えるのは食後にしましょう。私は勤めの時間に遅れると連絡してきます。鏡も新しいものを手配しますので、破片に触らないでくださいね」


そう言って、ジュドはいつもの調子で部屋から出ていった。もう少し怒られると思ったのだが、意外とあっさり機嫌が治ったようだ。ルーナが怒ってくれたから、気が済んだのかもしれない。


朝食を終えると、ジュドはソレイユをルーナのドレッサーの前に座らせた。ソレイユのドレッサーは鏡が割れているからだ。ルーナは月の聖女の勉強があると、昼間の付き人と共に部屋を出ていった。


「理髪師が体調不良とのことですので、僭越ながら私が整えさせていただきます」


そう言って、ジュドはどこからか(くし)とハサミを取り出した。先ほど部屋を出たときに持ってきたのだろうか。

これまたどこから取り出したのか、ジュドはソレイユにビニール製のケープを被せた。ジュドの服の中は、実は大量のポケットがついているのだろうか。


そういえば枢機卿の衣装もポケットが多かった。ディールスも至るところに武器を隠し持っていたし、教団従事者の服は利便性高く作られているのかもしれない。聖女の装束もそうしてくれたら便利なのだが。


ジュドはソレイユの髪の、はねて扱いにくいところを霧吹きで濡らした。手慣れた手つきで髪を梳き、ハサミを入れていく。


「すごい慣れてるね」


ソレイユがそう言って頭を動かそうとすると、ジュドにがっちりと頭を掴まれ、元の位置に戻された。


「妹の髪をよく切っていましたから。当然、プロには劣りますが」

「妹さんがいるんだ。初めて聞いた」

「身内の話をする機会なんてありませんからね。姉もいますよ」

「へぇ~」


ジュドのことを、実はソレイユはそんなによく知らない。わかっているのは、アウレル国の出身ではないということくらいだ。


二年前、枢機卿の半数以上がいなくなり、新たな人員に差し替えられた。ジュドはその時に、新しい枢機卿と共にアウレル国にやってきた。


以前住んでいた国がどこなのかはわからない。聞いてもソレイユにはわからないだろう。アウレル国は、外国に関する情報がほとんど出回らないからだ。

ジュドもアウレル国に来る前のことはほとんど語らない。少しでも話を聞けるのは貴重なことだ。


他愛のない話をしているうちに、ソレイユの髪はみるみる整っていった。バラバラだった毛先は揃い、広がりもなくなり、綺麗な外ハネボブになっている。


ジュドはハサミを置き、ソレイユからケープを外した。


「はい、終わりましたよ」

「すごい!綺麗!」

「お気に召したなら何よりです。ではお勤めに参りましょう。滑りやすいので、切った髪を踏まないようにしてくださいね」

「うん!ありがと」


ソレイユは跳ねるように椅子を降り、鏡の前でくるくると回った。止まるとすぐに髪が戻ってくるのが新鮮で面白い。


顔周りの髪は切っていないため、印象が大きく変わったわけではない。けれど以前より自分らしくなった気がして、ソレイユは自然と笑顔になった。


「私は切った髪を掃除してから行くので、先に向かってくださ……」

「あ、あたしやっとくよ」


ジュドが床を掃いていると、ヘルクスがひょいとジュドからほうきを取り上げた。


「よろしいのですか?もう退勤時間は過ぎていますが……」

「いいよいいよ。ルーナ様に怒られちゃったし、これくらいさせて」


ヘルクスはそう言って、海のような青い瞳でウィンクした。

ジュドは礼儀正しくヘルクスに礼をした。


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてお任せします。さ、参りましょうか、ソレイユ様」

「うん!」


ソレイユはふわふわと揺れる髪が楽しくて、スキップしながら部屋を出た。廊下に出るとすぐジュドに止められたが。


髪を切っただけで、何かが大きく変わったわけではない。何なら遅刻しているので、後で他の太陽の聖者に怒られるかもしれない。

けれど、形だけでも新たな門出を迎えられたような気がして、ソレイユは上機嫌で勤めに向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ