第9話 復讐の誓い
日差しの気配に瞼を開けると、明け方の赤い光がソレイユの目元を照らしていた。
昨日着替えずに眠ってしまったことを思い出し、ソレイユはゆっくりと体を起こす。のそのそとベッドを降りて鏡の前に立つと、気力を失い青白くなった自分の顔が映った。
(……私、なんで太陽の聖女なんてしてるんだろう)
ふいに、そんな疑問が頭をよぎった。
どれだけ傷を癒やしても、感謝してくれる人はほんの一握り。多くの人は当たり前のように扱い、感謝どころか揚げ足を取る始末。
きっとこれからも、そんな毎日が続くのだろう。命が尽きるまで、ずっと。
「……やってらんないや」
それは、これまで押し殺し続けた本心だった。
なんとか好かれるようになろう。良い聖女になろう。せめてルーナに迷惑をかけないようにしよう。感謝はされなくても、困っている人の役に立つのはいいことだ。
そうやって本心から目を背け、傷ついていないかのように、能天気に振る舞ってきた。
けれど。どれだけ表面を繕っても、心の奥底に不満は蓄積していく。
とっくに限界を迎えていた。自分を犠牲にできるだけの良心は、とうの昔に使い切っていた。
それでも、自分が蔑まれるだけなら耐えようと思った。自分が耐えることで、周りの人が幸せになるならいいと思った。
けれどそれは叶わない。ディールスは自我を神に侵食され、短い生涯を終えるだろう。ルーナはたくさんの人間に体を開き、機械のように子供を産まされ続ける。
ソレイユにも、ソレイユの大切な人たちにも、幸せな未来など訪れない。
(なら、もういいや)
ソレイユは机の引き出しからハサミを取り出し、長い後ろ髪を前に持ってくる。
そして迷いなく、肩のあたりで髪を切り落とした。
滑らかな金色の髪が足元に散らばっていく。より双子らしく見えるようにルーナと長さを揃えていたが、正直邪魔だと思っていたのだ。
全ての後ろ髪にハサミを入れ終えると、整えられていた髪はぼさぼさになり、聖女らしかった見た目は随分みすぼらしくなった。
これでいい。聖女らしかろうとそうでなかろうと、もうどうでもよかった。
ゆっくりと、鏡に映った自分の顔に触れる。強く力を入れれば、鏡はひび割れ、己の姿はバラバラになった。
壊してやる。
その一言が、ソレイユの心を覆いつくした。
自分を悪人に仕立て上げ、幼馴染の人生を破壊し、双子の妹をおもちゃにする。
そんな教団も住民も、みんなみんな壊してしまえばいい。
これは自分の幸せを取り戻すため、そして大切な人を救うための、
復讐だ。




