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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

あのとき助けた馬鹿わんこが、千年後魔王になっていた件について

作者: 調彩雨

 泉で溺れている馬鹿な仔犬がいたから助けた。

 それだけの話。

 の、はずだった。


   ё  ё  ё  ё  ё  ё


 大人のへそほどの高さの、決して深くはない泉。

 水は綺麗で、けれど虫や魚はいない、その泉は、わたしがいつも水浴びに使っている場所だった。

 ほかには人も来ないし、野生動物を見ることもない、ただ、風が木々を揺らす音と、遠く鳥の声が聞こえるだけの、穏やかな場所。

 けれどその日はバシャバシャと、騒がしい水音が聞こえていて、近付きながら、おや?と思った。

 そうして着いてみれば、派手に水音を立てながら、毛玉が一匹、浮きつ沈みつしている。

 岸からは、三(けん)ほど離れた位置だろうか。おそらく岸を目指したいのだろうが、悲しいかな、一向に進む気配はない。

 そこまで考えて、ああ、溺れているのか、と気付く。

 それにしても、泳げないならどうしてあんなところに。

 疑問は覚えたが、見付けたのもなにかの縁と、気まぐれに助けてやることにした。バシャバシャしている横や、死体が沈んでいるところで、水浴びをするのが嫌だったと言う考えもある。

 幸いにも水浴びに来ていたので、着ているのは袖のない浴衣だけだった。荷物を置いて、泉に歩み入る。深い池ではないから、わたしにとってはなんの脅威でもない場所だ。

「おい、ちょっと暴れるのをやめろ」

 まあ、言ったところで獣に通じはしないのだが。そもそも通じたとて、聞き入れる心理的余裕はないだろうし。

 暴れる獣を持ち上げるのは、引っ掻き傷が出来そうで嫌なのだが、仕方あるまい。

 えいや、と気合いを入れて手を伸ばし、したたかに引っ掛かれつつも首根っこを引っ付かんで持ち上げた。片手で持ち上げられる大きさだったのは幸いだろう。でなければ、首や顔まで引っ掛かれるはめになっていた。

 水から持ち上げてやっと、毛玉は犬であるようだと判別する。全体的にずんぐりむっくり。たぶん仔犬だ。

 愚かな仔犬は、水から出られたことにも気付かず暴れる。落っことしそうだ。

「おい馬鹿わんこ、もう水の中じゃないぞ、落ち着け」

 言ってもしばし暴れたあとで、不意に気付いたのか動きを止め、きょとん、とわたしを見た。

 わたしがもし捕食者であったなら、致命的な油断である。大丈夫か野生。

「良いか。お前を今から岸に運ぶ。水に落とされたくなかったら、おとなしくしていろ」

 駄目元で言って、片手で仔犬を持ったまま岸へ歩く。なにを思ったか仔犬は動くことなく、わたしの片手で、ぷれん、と吊るされていた。

 たった三間。仔犬が泳ぐには途方もない距離でも、わたしが歩くにはたとえ半分水中だとしても大した距離ではない。あっさり岸に着き、念願の地面に仔犬を降ろしてやった。

 ぽてん、と地に降ろされてもおとなしく、仔犬はぬいぐるみのごとく微動だにしない。濡れそぼった毛皮から、水がしたたり落ちていた。

「おい、岸だぞ。喜べ。それから、水ぐらい自分で払え。出来るだろう」

 いやなんでそこで、きょとん、なんだ。大丈夫かこの馬鹿わんこ。

「濡れたままでは風邪をひく。拭いてやっても良いが、そこまで濡れていては効率が悪い。身体を振って水を飛ばせ。それである程度水がきれるように、お前の身体は出来ているだろう」

 言い含めてから、言っても通じないよなと思う。馬鹿わんこにつられて、わたしもたいがい馬鹿になっていたようだ。

 髪を掻き上げ、息を吐く。

 あんまりモタモタしていては、またごちゃごちゃうるさく言われる。

「まあ、今日は晴れているしそのうち乾くだろう。なんで落ちたか知らんが、もう溺れるなよ」

 ビショビショの仔犬の頭をなでる。避けもしなかった。大丈夫か野生。

 クゥンと鳴いた犬が、わたしの腕を舐める。引っ掻かれた腕は、裂傷が出来て血が滲んでいた。

「なんだ、喰う気か?」

 助けた犬に喰われて死ぬ。それはそれで、滑稽で良い死因だが。

 クゥンとまた鳴いた犬は、ペロペロと、いくつも出来た傷を舐める。噛み付く様子はない。

「怪我を気にしているのか?確かにお前が付けた傷だが、この程度、すぐに治る。気にするほどのものでもない」

 腕を引き、泉で洗う。もう、血は滲まなくなっていた。

 赤く残る傷痕も、そのうち消えるだろう。

「ほら、大丈、ぶっ」

 突然、犬がブルブルと身体を震わせて水滴を飛ばした。濡れそぼっていたお陰で、派手に飛び散った飛沫がわたしにかかった。

「なんだ、出来るじゃないか。しかし行動開始が遅いな。やっぱり馬鹿なのか」

 なぜ水を出てすぐではなく、少し経ってからなのか。そのあいだにも、ずぶ濡れの身体は体温を奪われるだろうに。

「まあ構わん。どれ、水がきれたなら拭いてやろう。おいで」

 顔にかかった水を腕で拭い、泉から上がって自分用に持って来ていた手拭いを取る。犬は警戒する様子もなく寄って来た。呼んだのはわたしだが、大丈夫か野生。

 とにもかくにも拭いてやろうと、手拭いを犬の身体に被せる。やはり犬は抵抗もせず、大人しくしていた。身体を拭いても、大人しいものだ。

 もしや、どこかで飼われた犬だったりするのだろうか。猟犬にでもするつもりで飼って、あまりの馬鹿わんこに振りに捨てられた?

 いや、にしては判断を下すのが早過ぎるか。身体つきから見るに、まだほんの仔犬だ。身体の割にずんぐりした脚から察するに、かなり大きくなる種だろう。

 馬鹿と魔物は使い様。こんな馬鹿わんこでも、小さい頃から巧く育てれば、それなりに使える手駒に育てられるはずだ。

 はて、犬なのに駒とはこれいかに?

 首を傾げつつ、犬の身体をくまなく拭いてやる。ここまで拭けば、乾くのも早いだろう。

「よし。これで良いな」

 頷いて、犬の頭をなでる。まだしっとしりていて触り心地としてはいまひとつだが、乾けば良い毛玉になりそうだ。

 このお馬鹿振りでは、野生で生きて行くのは難しいかもしれない。溺れても、助けてくれる親はいないようだし。

 わたしに獣を飼う自由があれば、飼ってやっても良かったが。

 苦笑して、首を振る。

 出来もしない仮定なんて、無駄なだけだ。

「水が飲みたきゃ、もっと良い水辺があったはずだろ。ここはお前には深過ぎる。もう近付くなよ。さ、もう行け」

 しっしと手を振ってやれば、不思議と聞き分け良く、犬はどこへやら走り去った。

 息を吐いて、獣臭くなった手拭いを水で洗って適当に干す。今日は晴れているし、薄い手拭いだ。水浴びのあいだに多少乾くだろう。

 穏やかになった泉に歩み入り、頭まで身を沈める。ガシャガシャと髪を掻き混ぜて、手足や顔をこする。引っ掻き傷は、すっかり目立たなくなっていた。ザバリと水から顔を出して、仰向けに水に浮いた。

 空は青く、空は遠い。小さな鳥影が、広い空をゆっくりと横切った。翼を持たないわたしにとっては、決して手の届かない場所。

 翼とまでは言わずともせめて、あの、犬のように丈夫そうな脚と、自由な身の上があれば、もう少し楽しく生を送れただろうか。

 下らない。

 自嘲の笑みを唇にく。

 あんな馬鹿わんこ、それももう、二度と会わないであろう相手を、羨んでどうすると言うのか。


   ё  ё  ё  ё  ё  ё


「と、思ったはずだったんだがな」

 次の日、泉の前で座っていた犬を見て、呟く。

 犬はわたしを見ると尻尾を振り、自分の前に置いていた、なにやら実を付けた木枝を鼻先で押した。

「なんだ」

 しゃがんでやると、クゥンと鳴き、枝を咥えてわたしに近付ける。

「昨日の礼のつもりか?馬鹿だなお前は」

 そんなもの、見付けたなら自分で喰えば良いものを。

「あいにくと、食事には困ってない。それはお前が喰え」

 頭をなでれば乾いた毛はふわふわで、野生の割に触り心地が良かった。

 昨日泉に落ちて洗われたからだろうか。

 クゥン?と首を傾げるだけなのを良いことに、両手で犬をなで回す。

「礼ならこの手触りで十分だ。だからその食糧はお前が食べて、良い毛並みを保って、一日でも長生きをしろ。良いな?」

 犬はパチクリと目をまたたいたあとで、枝を降ろして実をかじった。なんだ。馬鹿わんこのくせに聞き分けが良いじゃないか。

「それで良い。じゃあな」

 最後にもうひとなでして、わたしは泉に足を踏み入れた。昨日は結局、遅くなってごちゃごちゃ言われたのだ。今日は可及的速やかに帰るに限る。

「おい馬鹿お前は入るな。また溺れるぞ」

 つられたように泉へ近付いた馬鹿わんこの、鼻先に手を立てて止める。犬はペロリと、わたしの手を舐めた。

「舐められたくて出したわけじゃない。まったく。昨日、もう近付くなと言っただろうに」

 とは言えここはほかに獣も出ない。親なしらしいこの犬にとっては、ほかより安全かもしれない。

「まあ近付くのは良いか。でも泉には入るんじゃない。お前、泳げないんだから」

 大きくなりそうな犬だ。成長すれば、足が底につくようになるかもしれない。

「お前がもっと大きくなって、底に立っても顔が水面に出るようになるまでは、陸から眺めるだけにしておけ。水浴びがしたいなら、」

 小川の浅瀬にでも、と言おうとして、けれど浅瀬は肉食の獣も多く来る場所だと思い出す。

 いつまで、わたしがここに来られるかは、知れたものではないが。

 犬の成長はヒトより早い。この犬が、底に足がつくようになるまでくらいは、来てやれると思いたい。

「わたしがいるときにしておけ。それなら、陸に上げてやれるから」

 犬は、ワン!と鳴いて、派手な水飛沫と共に泉に飛び込み、また溺れた。

「おい馬鹿」

 バシャバシャと暴れる馬鹿に手を伸ばし、顔が出るよう持ち上げる。

「泳げないのにそんなに勢いよく飛び込むやつがあるか。加減しろ加減を。ほら、これなら溺れないだろう。大人しくしていろよ」

 片手で仔犬の胸を支え、水面に揺れる毛に手櫛を通す。野生のくせに絡まりもせず、すんなりと手櫛の通る毛だった。

 指で地肌をこすってやれば、気持ちよさそうに目を細めた。

「泳げないわりに、水を怖がらないんだな、お前は」

 しばらくそうして、犬に手櫛を通してから、陸に戻らせる。

「自分で水きって、日向ぼっこしてれば乾くだろう」

 泉のほとりは日向だ。日向ぼっこにはちょうど良い。

 犬は、ワンと鳴くと身体を振って水を払い、食べかけで放置していた実を齧り始めた。

 食べものより水浴びを優先するとか、よくわからん犬だ。大丈夫か野生。やっぱり馬鹿なのか。

 しかし、せっかく水浴びで綺麗になった毛皮を、果汁で汚しながら実を齧る犬の姿は微笑ましく、見ていて悪い気はしない。

 自分の水浴びを済ませ、泉で洗った手拭いで、ベチャベチャになった毛皮を拭ってやる。

「舐めにくいところにまで汁を付けたらもったいないだろうに」

 相変わらず、されるがままの犬に、やはり野生が心配になりつつも言う。この馬鹿わんこは、誰にでもこんなに無防備なのだろうか。

 こんなに小さく柔く、簡単に手折れてしまえる命のくせに。

「長生きしろよ、お前」

 しかしわたしに出来ることなどない。気休めにもならない無意味な言葉を吐いて、犬の頭をなでる。

 中途半端に乾いた毛皮は、あまり良い触り心地ではなかった。


   ё  ё  ё  ё  ё  ё


 わたしの心配をよそに、犬はその後も毎日呑気な顔を見せ、まだ生きていたかとわたしを安堵させた。

 健やかに育った犬は、気付けば体高がわたしの身長に並ぶほどになっていた。出会った頃は見下ろしていたのに、今では見上げねば目が合わない。かつて溺れていた泉は、もう脚を畳まねば肩が水につかない。

 溺れる心配はないし、よほど大きな魔物が相手でない限りは、獲物として狙われることもないだろう。そう、それこそ、竜にでも出会わない限りは。

 どうやら馬鹿わんこながら、長生きしろと言うわたしの願いを、叶えてくれそうだ。

 大きくなっても手触りは良くて、乾いた毛に埋もれると気持ち良い。

 しょーもない一生だったが、この命を拾えたことだけは、価値があったのではないだろうか。

「今日はお前に、良いものをやろう」

 水浴びのあと、犬にもたれながら言うと、こればかりは小さい頃から変わらない阿呆面と間抜けた声で、クゥン?と首を傾げる。

 でかくなれば声帯も変わりそうなものだが、この犬はいつまでも仔犬のように愛らしい声で鳴く。

「お前、でかくなったから獣には狙われないだろうが、でかいから人間の討伐対象にされそうなんだよ。だから、これをやる」

 取り出したのは、マルメロの実ほどの大きさの、青い石だ。まるで砕いた宝石を詰め込んだように、キラキラとしていてなかなかに綺麗だと思う。

「首に着けておけ。それなりに良い石だから、パッと見には力ある魔術師か、金のある貴族の飼い犬に見える。一瞬は攻撃を躊躇うだろうから、そのあいだに逃げろ」

 クゥン?と、いまひとつ理解していなさそうな犬に笑う。

 でかくなったのに、馬鹿なのは変わらない。

「わたしはもう、ここに来れなくなるから」

 へえ、そんな顔も出来たのか。

 青天の霹靂が真横に落ちたような顔をした犬をなで、その首に石を着ける。

「時が来た、ってやつさ。まあ、思ったよりも長生き出来たよ」

 キューンと鼻を鳴らして、犬がわたしに身をすり寄せた。

「早晩、わたしは殺されるだろう。それで、心臓を盗られるのは癪だから、さきにお前に渡しておく」

 キュッ!?と、ぎょっとした顔になった犬が滑稽で、声を上げて笑ってしまった。

「そう。心臓だよ。と言っても、いまはまだ違うが」

 巨大な犬の首に収まっても、それなりに存在感を発する鮮やかな青をつつく。

「鼓動が止まったらこのなかに転移するよう、魔法をかけてある。わたしが死んだら血という血と心臓をお前にやるから、食べると良い。強くなれる」

 彼らは血と心臓が欲しくて、わたしを殺すのだ。みすみすくれてやるのは、どうにも腹立たしい。それくらいなら犬に喰わせる方がマシってやつだ。

「強くなって、長生きをし。そうして、つまらない一生を過ごした、わたしと言うしょーもない存在が、お前みたいな綺麗なものの命を救ったんだって証拠を、一日でも長く遺しておくれ」

 ひどい女もいたものだ、と思う。

 たった一度、気まぐれに、命を救っただけのこと。それをいつまでもいつまでも恩着せがましく言い続け、挙げ句首輪を着けて一生を背負わせようとするなんて。

 一度命を救ったきりで、それ以外は、なにをしてやったわけでもないくせに。

 それでも言った者勝ちと、ぱっと犬から離れる。

「じゃあ、わたしはもう行くよ。達者でね」

 逃げるように立ち去ったわたしを、犬が追って来ることはなかった。

 わたしと犬がふたたび会うことはなく、それから一年も経たないうちに、わたしは殺されてしょーもない一生を終えることになった。


   ё  ё  ё  ё  ё  ё


 あのとき、べつに二百年も三百年も、わたしの生を背負わせようと思ったわけじゃない。

 大きさから言ってあの馬鹿わんこは魔物の類だったのだろうから、その、数十年であろう寿命が、わたしの心臓で十年や二十年延びて、そのあいだ、わたしのことを覚えていてくれたら良いくらいの、ちょっとした呪いのつもりだったのだ。

 まさか。

 馬鹿わんこだと思っていたものが古代竜の子孫で、千年後の世界で魔王として君臨しているとも、未だその首に、わたしがやった石の首輪が着いているとも、予想だにしていなかった。

「いやまじか、あの馬鹿わんこ」

 呟いて、両手で顔を覆う。

 古代竜は、普通の竜とは違う。

 その身に取り込んだものの知恵と力を得て、その姿になることが出来るのだ。

 おそらく、あの泉は、もともと竜の縄張りだったのだろう。だから獣が寄り付かなかった。

 そして、あのとき竜が泉で溺れていたのは、なんらかの理由で竜から仔犬に化けて、戻れなくなっていたから。大怪我でもしたか、病気にでもなっていたのか、そんなところだろうか。

 傷口のひと舐め程度では回復せずとも、わたしの血と言う血を掻き集めて飲み干せば、そんな怪我や病気も回復する。そうして、竜に戻って、残った心臓を丸呑みにしたのだ。

 丸呑みされた心臓は、消化されることなく竜の身に取り込まれて。

 わたしの知恵と力と姿を得た竜は、世界を蹂躙して魔王として君臨した。

 竜の身に取り込まれたわたしの心臓は、消えることも脈打つこともないまま千年の刻を永らえて。

 持ち主であるわたしが生まれ変わったいま、千年振りに鼓動を刻んだ。

 喰われて消化されていれば生まれ変わったわたしに戻るはずの心臓が、戻らないのがなによりの証拠。

 わたしの心臓は、元馬鹿わんこの魔王のなかで脈を刻んでわたしを生かし、そして。

「おい、ついに、魔王さまの恩師が生まれ変わられたらしいぞ!」

「やっとか!なんとしても探し出して、魔王陛下のもとにお連れしなくては!」

 鼓動を刻んでしまったばっかりに、魔王となった馬鹿わんこに、わたしの復活を知らせた。

 なにを思ったか馬鹿わんこは、わたしのことを、命の恩人にして恩師として、後世に伝えており。

 馬鹿わんこ一匹が数十年覚えていてくれれば十分だったはずのわたしの存在は、ガッツリ歴史に刻まれて千年後のいまですら覚えられていた。

 そんなつもりじゃ、なかったのに。

 せめてくれてやるのを、腕とか目とかにすれば良かった。それならば、欠損して生きていてもおかしくないから。

 心臓がないのに生きているなんて、あり得ないから知られれば一発でバレてしまう。

 いやまあ、心臓のあるなしなんて、見た目にはわからないけれど。

 いけるか大丈夫か逃げ切れるか?

 生まれ変わってもひどい女のままだったわたしが、前世の罪からの逃亡可能性を真剣に検討していたあいだにも、死刑宣告はヒタヒタと歩み寄っていて。

「この匂い、間違いない。見付けた!お師匠さま!!」

「ぎゃ!!」

 グン、と持ち上げられて見下ろせば、前世の自分そのままの顔。

「約束通り、長生きしましたよ!褒めて下さい!!」

 自分から褒め言葉を求められるなんて、悪夢のような状況に陥らされる。

 しかし全部全部、わたしが蒔いた種で。

「……あー、まあ、よくやった、ね?偉い偉い」

 なおざりな褒め言葉に心底嬉しそうな表情を浮かべて、わたしの顔をした魔王は、わたしの胸に擦り寄った。

 あのとき助けた馬鹿わんこが、千年後魔王になっていた件について。

 誰か、いまからでも入れる保険を教えてくれないだろうか。

拙いお話をお読み頂きありがとうございました


入れる保険はないですね……

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