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1/2惑星カルテット ~乙女は精霊たちと舞闘する 三年目編~  作者: 月川 ふ黒ウ


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青天の霹靂

おまたせしました。

予告通りアクション回です。

 鎧型戦車ヴォーグ

 単座での運用を目的とした戦車だ。全高は三メートルほど。各部位に様々な兵装を装備して運用する、この次代の一般的な兵器だ。その万能性から広く普及し、近距離から見上げていると首が疲れるのが数少ない難点だ。


「おおおおっ! ──(ライ)!」


 兵器として運用される以上、電装系、集音系への攻撃に対する防御能力も高く、落雷程度では計器類を乱れさせることも、搭乗者の鼓膜を震わせることも目を眩ませることすら不可能な構造になっている。

 だが、電子頭脳等による補助はあろうとも、所詮は機械であり、動かすのは人だ。

 青天の霹靂。ライカたち神殿に属するものたちには見慣れた現象だが、彼らは違う。雷という本能的に恐怖を感じる事象を見せられて怯まずにいられる者がどれほどいようか。


「──迅雷(ジンライ)


 ミューナの導きにより、平原を雷が網状に走る。鎧型戦車たちはしかし意に介さずそれぞれに照準をつけ、弾丸をミサイルを放つ。


「──轟雷(ゴウライ)っ!」


 二試合目の相手は鎧型戦車一個中隊。つまり総勢十五機の鎧型戦車たち。二年の修練期間でもシミュレーターでも多数相手の組み手はこなしてきた。ならば、六人にすればこれは普段の修練となんら変わらない。

 六人がかりで十五機全てを中央に寄せ集め、その一瞬を狙ってシーナが大木のような雷を落とす。

 直撃を受けたところでダメージは軽微。それは搭乗者たちも判っているだろうに、生き物として当然の反応が回避を選んでしまった。

 その巨体でなお蜘蛛の子を散らすように散開した鎧型戦車たち。どれだけ手練れでも逃げの体勢になれば確実な隙が生まれる。


「──烈刃(レツジン)!]


 地を這うように身をかがめながら接近したユーコが、自身の身長ほどもある長大な風の刃で鎧型戦車たちの手首をスネ切り落としていく。

 人型である欠点。それは手足がなくなれば行動不能になることだ。無論、手足のウエポンラックに取り付けられた火器類からの攻撃は可能だが、目で追える速度の実体弾が相手ならばライカたちが対処に苦労することはない。

 なにより、修練生の段階で神殿最強を誇る維穏院長クレアに一撃命中させられるライカたち六人からすれば、相手が鎧型戦車であろうとも単純な破壊や殺傷による活動停止は容易い。が、彼女たちが目指すのは「誰も死なない戦争」だ。

 後方で試合を見届けているクレアたちならば、損壊させずに制圧できただろうが、そこは修練生卒業から数ヶ月のライカには不可能なこと。それでも搭乗者たちを傷つけていないのはあとで褒めてやろうと見届ける四十五人全員が思った。


「はーい、機体が行動不可能になったひとは速やかに降りてそこでじっとしててくださいねー。こちらで回収して一時的に捕虜になってもらいまーす


 クレアが手を叩きながら、拡声の術を使って言うと、後方の風師たちがにっこり笑顔で手招きする。中にはしなを作ったり投げキッスまでする者までいて、夜のお店みたいなことしないでほしい、と交響曲を歌って援護するオリヴィアはブレスついでに嘆息し、視界の隅にある危険に気付く。


「ほらユーコ! 上から来てる!」


 二機を行動不能にして油断したわけではない。精霊たちの目も使って警戒は怠っていない。後詰めのディルマュラもそれ以外のメンバーも、誰かが攻撃した後の隙を消せるよう目を光らせながら動くのは体に染みついた当然の行動。

 そのライカたち六人全員の目を、そいつはくぐり抜け、ユーコの上を取った。


「このっ!」


 背泳ぎのように空を仰ぎ、全身を視界に収める。他の十四機と見た目はなにも変わらない、両脚に四連のミサイルポッド、右手に小型のライフル、左手に折りたたみ式のシールドを装備している。

 なのに、

 背筋が凍った。

 クレアが気まぐれにぶつけてくるものとも、ライカが乱暴な笑顔で振りまくそれとも違う、本物の殺意。

 圧された。

 呑まれた。

 自分が見ず知らずの相手と戦争をやっているのだとまざまざと思い知らされた。

 ライフルの銃口が自分の心臓に向けられているとはっきりと自覚する。まずい、術で防がなきゃ。だめだ、トリガーにかけられた指が動、


「ユーコ!」


 うつぶせに空に浮かぶ鎧型戦車の右側から漆黒の矢が飛んでくる。シーナだ。鮮やかな蹴りが鎧型戦車の右脇腹に突き刺さり、蹴り飛ばした。

 しかし。


「……なんで、反応……っ!」


 着地したシーナは左肩を押さえている。そのまま精霊術で治療を始めるが、予想外の反撃に対応が遅れ、深い傷になってしまった。


「なんなんだ、あいつ」


 ライカでさえ困惑している。それほどにあの一機は他の十四機とは動きが違う。

 どうする、と六人全員が目配せ。それで全て通じ合えた。強い一機をディルマュラたち三人が。残りをライカたち三人で相手取ると。

 散開する五人。自分の負担が増えたような気はするが直接戦うのはもっとイヤなのでオリヴィアは歌に集中する。


 ──はやく援護してほしいんだけどなぁ……っ!


 クレアは圧されていると感じたらすぐに割って入る、と言っていた。あの強い一機にディルマュラたち三人がかりで相手取っているのはもうそういう状況だと思う。

 ちらりと見たクレアも、迷っているようだった。

 

「院長、」


 ならこちらから申し出れば、と歌は止めずにはっきりと視線を送った刹那、戦場に変化があった。

 

「ミューナ?!」


 困惑の叫びをあげたのはディルマュラ。視線を戻したそこに、ミューナがふたりいた。


「なんで」


 シーナが蹴り飛ばした一機。三人がかりでなお手足を切り飛ばして行動不能にできるだけの力量差は生まれず、全身の破壊による停止を試み、実行した。

 そこまではよかった。

 三人の完璧なまでの連携は他の十二機の援護を許さずに分断、単機にしたうえで攻撃をしかけ、隙を待ち続け、到来したその瞬間、ディルマュラがその胸部装甲と頭部の一部を切り裂く一撃を放ち、内側にいるパイロットを剥き出しにした。

 その姿が。

 髪の長短こそ違えど鮮やかな金髪。透き通るような肌。その目鼻立ち。

 全てがミューナ・ロックミストに酷似していた。

 場にいた神殿関係者ほぼ全員が驚く中、落ち着き払っている者がふたり。


「あ? ミューナならここにいるだろ」


 うん、と不思議そうに頷くミューナはライカの右手が触れるほどの距離で、振り下ろされる斧を華麗に回避している。赤熱した刃は空を切る。大振りの隙をライカが詰め、両腕を切断。返す刀ならぬ「(ジン)」で両脚と付随するミサイルポッドを両断し、誘爆しかけた弾薬を術で瞬間的に冷却。パイロットも保護した。


「みんな集中しなさい!」


 クレアの檄がどうにか届いたディルマュラがシーナとユーコを両脇に抱え、背を向けて一目散にその場から離れた。そうしなければ、赤熱したナイフがふたりを切り裂いていたから。


「まだ動けるのかい。驚いたよ」


 クレアの檄で冷静さを取り戻した頭で考えて見れば、ミューナは壁向こうからの亡命者。ならば似た者がいてもおかしくはない。血縁者同士が戦場でまみえるなど古来からよくあることだ。そう割り切って両脇のふたりと目配せ。手を広げ、ふたりを解放するその姿は、ミサイルを発射した戦闘機のよう。


「せあああっ!」

「たあああっ!」


 放たれたふたりは音の壁さえ突き破って加速。再度両脇から、今度は敵意ではなく殺意を込めて間合いを詰める。ミサイルを発射した母機であるディルマュラはそれまでの速力を跳躍力に変え、わずかな土塊を散らして軽やかに跳躍。背中を地面に向けて華麗に飛ぶ彼女の姿に、見守るお姉様方も感嘆の吐息をこぼす。

 

「すまないけど、直接攻撃させてもらうよ」


 両手に精霊たちを踊らせ、雷の術の発動準備に入る。

 視界いっぱいに広がるのは鮮やかな青空。中天に差し掛かろうとしている太陽。もう手の平ほどの大きさになるまで離れてしまったが、オリヴィアの力強い交響曲はここまで届いている。ああ。きょうがただの休日だったらクレアを誘ってピクニックにでも来ただろうに。


「戦争は、再生のための破壊ではないからね」


 つぶやき、胸の前で小さく放電を起こすほどに踊らせた精霊たちを振り返りながら一気に解き、


「がっ?!」


 背中を撃たれた。

 シーナとユーコの連携は、あれ以上のものを求めるのは酷だと思えるほどに完璧で苛烈だった。あの状況で対空攻撃など、できるはずがない。

 やっと背中の肉と衣服が焦げるにおいと音がディルマュラの脳に届く。熱線。雷撃を放つためにからだをよじっていなければ肉体を貫通していた。莫迦な、熱線兵器の携行なんてしていなかったのに。背中の激痛に意識が飛ぶ。


「ディル!」


 シーナの呼びかけに散逸していた意識が収束する。オリヴィアの「(リョウ)」が背中の傷を塞いでくれた。攻撃に驚いて散った精霊たちをかき集め、さらに背中の精霊たちで補って威力をさらに増す。相手は半壊しているのだ。あとひと圧し!


「──轟雷っ!!!」


 呼吸を合わせるまでもなく、シーナとユーコが散開する。

 オリヴィアがなんらかの術をほどこしてくれたが確認できる余裕はない。

 自らの両手から放たれた雷撃が、投網のように半壊した鎧型戦車へ向かう。

 視界の隅で誰かがこちらに迫ってきている。

 

 ディルマュラが認識できたのは、そこまでだった。


人間対ロボ戦は企画当初からやりたかったことので満足しております。

感想などなどお待ちしております。

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