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1/2惑星カルテット ~乙女は精霊たちと舞闘する 三年目編~  作者: 月川 ふ黒ウ


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第一試合

お待たせしました。

ちょい長めです。

「それではこちらは六人。そちらはまず歩兵課との試合とします」


 当人たちの思いをよそに事態は進む。

 ライカの提案はほぼ受け入れられ、レオニクス軍との戦闘は試合形式となった。

 レオニクス軍は実弾および鎧型戦車(ヴォーグ)の全力運用を認められた。生身にしか見えない彼女たちに兵装を使用することに一部の兵士たちからどよめきが起こったが、クレアがにっこり笑顔で封じ込めた。

 対するライカたちは、修練生時代の呼び名で言えばオリヴィア班とディルマュラ班の六人。


「んだよ。あたしとディルでいいって、」

「うるさい。あんた実弾戦闘用のシミュレーターは後方支援用のしかやらせてないでしょうが」


 その結成理由が壁向こうの国々との戦争である以上、実弾を相手にする訓練は必要だ。しかし、火薬類の製造を禁じ、過度な機械文明を否定している神殿がおおっぴらに鎧型戦車を運用しての訓練などできるはずもなく。

 その折衷案としていわゆるフルダイブVR形式の戦闘シミュレーターがある。修練生を卒業し、維穏院に配属された者は業務の一環としてこれを受ける義務がある。

 が、実戦形式のプログラムを受ける権利があるのは、種々の理由から実務三年目以上の経歴を持つものだけ。

 の、はずだ。


「……、あんた、まさか……」


 疑惑の目を向けられ、反射的に目をそらすライカ。

 視線に圧力を込めると、へったくそな口笛をふきはじめた。

 実務三年未満の者がシミュレーターを使用するには当然、上位の役職を持つ者の許可が必要になる。ライカのコネでそれができるのはただひとり。


「……あんんんの、親莫迦神殿長……っ!!!」


 普段ならイルミナを愚弄された、と憤るところだがそれもなかった。ライカもそう思うフシはあるのだろうし、イルミナ本人からも絶対に絶対に、とくにクレアにはなにを聞かれても内緒ですよ、とか言い含められていたのだろうと容易に想像できる。

 ふといやな予感がしてディルマュラを振り返る。すっ、と目をそらされた。普段ならウィンクぐらい返すのに。まさかこいつら、とシーナに視線。目をそらすどころころかオリヴィアの影の中に隠れやがった。ニンジャめ。

 次いで、いきなり影に入られて迷惑そうなオリヴィアに。あいつは首を振った。ミューナに視線を移せば小首を傾げてきた。かわいい。ならこのふたりはシロ。

 あとは、とユーコに。


「ち、ちがうんです。そういうことじゃ」


 だらだらと冷や汗を流し始めながら、弁明にも言い訳にもならないなにかを口にしている。


 ──こいつら、ほんとこいつら……っ!


 資格が無い者がシミュレーターを扱うもうひとつの条件が、その厳重にかけられたプロテクトを剥がすこと。

 エイヌ王家のお庭番であるシーナは、荒事以外にも電算関連のエキスパートとしても、神殿に入る前から研鑽を重ねてきた。神殿に入ってからはそのウデを披露する機会がないだろう、と本人も思っていたのに、だ。

 ディルマュラはハッキングとシミュレーターまで辿り着くまでの道案内などをシーナに頼み、密かに。

 そしてユーコはその口裏合わせ。オリヴィアに次ぐ読書量を誇るユーコならば口八丁も容易かっただろう。


「ディル! シーナ! ユーコ! 帰ったらお説教だからね!」

 

 はい! とふたりはその場で直立。ひとりは影の中からの返事をもらってクレアはゆっくりと深呼吸。


「とにかく! 今回はその懲罰もかねてあんたたち六人でやりなさい!」


 あたしはシミュレーター触ってないのに、とオリヴィアは渋面を作り、ミューナは気がついたときにはもうライカの右腕を抱きかかえていた。


 ──ふうん、だいぶ進んだじゃない。


 愛娘の恋愛の進行具合にほくそ笑みながら、レオニクス兵たちに向き直り、「とんだ茶番をお見せしてしまいもうしわけありません」と一礼。いえ、と返すガドール。では、と頷き返し、


「先ほども言いましたが、最初は歩兵の方々と。それを見て頂ければ私たちの実力も推し量って頂けるかと」

「……わかった。こちらも戦力を惜しむことはしない」

「負傷された方の治療もこちらで行いますので遠慮なく申し出てくださいね」


 柔らかく微笑んでライカたちを振り返る。

 経緯はともかく久しぶりに六人で顔合わせが出来たことにとくにディルマュラが喜んでいる姿に少々の罪悪感をおぼえる。が、それも束の間。クレアは「すぐに始めるわよ」と手を叩いて喚起。

 修練生時代のように六人は横並びになりクレアの言葉を待つ。


「いいわね。シミュレーターやってようがなんだろうが、少しでも圧されてると感じたら交代だからね」

「はい」

「ん。聞き分けがよくてよろしい。全部倒したりするとうしろのおねーさまたちから、あたしが怒られるからほどほどにね」

「分かっていますよ、クレア先生」


 ディルマュラからの返事にクレアは「先生じゃないっての」と苦笑する。そして一拍置いて表情を引き締め、


「んじゃ、行っておいで。無茶するんじゃないわよ」


 はい! と五人は力強く、一人はそれなりに返事をして前へ。

 隣に立ったのはミューナだ。


「わたしが、いるから」

「お、おう」


 いつもよりも決意に満ちた表情に気圧されながらも、馴染んだ右隣に心が軽くなる。

 きょうは、普段と違う場所と相手だ。

 屋外で修練したことは何度かある。

 だが今回の相手は普段と違う、火薬の武器を持ち、鉄の鎧に覆われた者たちだ。

 彼らは、自分たち神殿の人間が本来戦うべき相手。

 お互いの故郷を背にして、修練場よりも遙かに広大な、僅かに潮の香りを含む風が吹きぬけるこの草原で。

恐怖は、たぶんないと思う。

 シミュレーターをやりこんだから、だけじゃない。

 隣に、こいつがいてくれるから。


 一方、初戦となる歩兵たちは準備こそ終えているが、表情は重い。実戦はそれほど経験していないだろうというのがいままでのやりとりなどからも推察された。

 煮え切らない修練生に対して、いままでクレア先生が行ってきた指導法はただひとつ。

 ひっぱたいて性根を入れ替えさせること。


「はじめ!」


 クレアが勢いよく右手を振り下ろす。

 飛び出したのはミューナ。


「は?」


 一番槍はずっとライカの役目でミューナはそのフォロー。それは一年目に修練を始めたときからなんとなく決まり、六人に変わってからも変わらなかった。

 とはいえ、六人はその程度で連携が崩れるような修練を積んできていないし、数ヶ月のブランクも関係はなかった。


「っと、オリヴィア!」

「わかってる!」


 言い終えるがはやいか、オリヴィアは独唱交響曲(ソリス・シンフォニア)を歌いはじめる。


「ぼくたちも!」


 遅れてディルマュラも飛び出す。

 人には出せない速度で迫る三人に兵士たちはどよめき、しかし指揮官のガドールは冷静に指示を出す。


「機関銃隊、放て!」


 上官の指示には反射的に従うのは軍人として当然の行動。瞬時に縦横五人ずつに整列。最前列がしゃがみ、二列目が立ったまま機関銃を構える。本来なら土嚢を積んで盾にする陣形だが、混乱していた彼らにそれを用意するいとまは無かった。

 覚悟の決まった兵士たちはその照準をそれぞれに付け、引き金を引いたときにはもう

 ばら撒かれているように見える弾丸だが、その練度から軌道は予測し易い。初速の秒速が九百メートル近い弾速であろうと、精霊たちの手助けを得ているライカたちには子供が投げる石つぶてと大差ない。


「砲兵、構え!」


 隙間無く吹き荒れる弾丸の嵐を舞うようにすり抜けてくる見目麗しい乙女にしかし、兵士たちは落ち着いていた。ひとたび引き金に指をかければ、ただ一個の戦闘単位となるべく厳しい訓練を積み重ねてきたのだと容易に分かる。五列横隊の三列目が左右に分かれた、と思った次の瞬間にはロケットランチャーを担ぎ、ノータイムで発射。

 

 ふわり、と浮き上がった。


 手から離れた風船のように、重力を感じさせず草原から足が離れていた。そして気がつけば頭を下にして足もまっすぐに伸ばした姿勢で兵士たちを静かに見つめる。その視界の隅で計十発の弾頭がミューナのいた空間で炸裂している。爆風が遅れてミューナの髪を衣服をはためかせる。だが構わず両手を広げた。


「──(ゴウ)


 ささやくように。

 突如、五十名の兵士たち全員へ上空からの猛烈な突風が襲いかかる。

 押しつぶされるような風による圧力に身をすくめる。そこへ、両サイドからライカとディルマュラが詰め寄る。


「左右へ斉射!」


 ガドールの号令にも動けた者はわずか。いまだ続く暴風に銃を構えることもままならない。

 そして兵士たちは見る。

 かたや乱暴な、かたや優雅な笑みを浮かべながらこちらへ殴りかかってくる乙女たちを。


「っと、加減しないとだな」

「ああ。彼らは精霊たちを知らないからね」


 拳に脚に踊らせていた精霊たちの数を最小限に減らし、自らの筋力を軸にして、まず手前の、ヘルメットを目深に被った青年の痩せこけた顎へとアッパーを放つライカ。


「おらぁっ!」

「ごふっ!」


 例えどれだけ、自分たちの倍以上ある全高の鎧型戦車を相手にした訓練を重ねようが、ここまで肉薄されて笑顔で殴りかかってくる相手への対処など、到底できるはずもなく。


「そこまで! 勝者、ディルマュラ班!」


 クレアが決着を宣言したのは、開始から三分十二秒が経過した時だった。


VR型シミュレーターとかいう作者も知らない設備が生えてきて混乱しておりました。

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