中編
ある時、高橋ヨウタという小学五年生の小学生が殺傷される事件があった。
事件現場に置いてあった一枚の紙には、「水」と、その横にぐしゃぐしゃと書かれた何か。
奥の事実を知れば知るほど見えてくる闇を、ネットの天才探偵、『スルメ』は解決できるのだろうか。
佐藤:「犯人は伏見だ。」
スルメ:「それはないですよ。」
「……え?」
佐藤の言ったことを簡単に否定すると、目を点にして驚いていた。確かに、単純に考えれば犯人が高橋 伏見のように思える。
「犯人が伏見さんなら、家から遠く、県外の倉庫まで息子の高橋 ヨウタ君を運ぶでしょうか?あまりに回りくどい気がします。」
「確かにそうだな……でも、逆に裏をかこうとしたんじゃないのか?」
「それに、そんな他県まで行く余裕があるなら指紋がつかないように手袋ぐらい購入出来るでしょう。恐らく伏見さん、ヨウタ君二人とも誘拐されたしまったのでしょう。そして、二人で鉛筆と紙を部屋から発見した。……それよりも、この紙の謎を解いてみたいものです。」
『水』の字の隣にぐしゃぐしゃと書かれた何か。それに加え、水の字も荒々しい字。となると……一つ、可能性のある事を思いついた。
「『水』と、ぐしゃぐしゃしたものは同じなのではないでしょうか?」
「同じ?確かに……そういえば、ぐしゃぐしゃのやつも『ん』に見えなくもないな。」
『水ん』。そうなると余計意味が分からなくなってくる。ではなんと書こうとしたのだろうか?
「とにかく、いい情報が得られました。ありがとうございました。」
そう言ってからスルメは新幹線で帰った。家に入ると、真っ先にテーブルの上に紙を置いて、鉛筆を用意した。
目をつぶって、腕が縛られているように、両腕をくっつけて、『水』と書いてみた。事件現場の様子を実演してみたのだ。すると、水の両端が真ん中の線から離れて、例の紙とは違う結果になった。
↑事件現場に置いてあった実物。
↑検証結果。
左右の棒が離れていて、事件現場のものとは違う結果だった。自分の字の形の問題もあるが、とにかく事件現場の字とは違う。
やはり違う文字が書かれている。目を細めて、水という字を見てみた。離れた文字を見ていると、だんだん線が文字ごとに変わっているように見えてきた。
「フJく」という三文字に見えてきた。だが、フJくなんてよく分からない言葉はない。流行してる文字かと思い、調べてもみたが、例のテレビ局しか出てこなかった。
ぐしゃぐしゃのものが『ん』だとすれば、『フJくん』。フJくん?この四文字の中で、一文字だけアルファベットの、『J』を抜かして見ると、『フ〇くん』。
なんとなくピンと来た。『ふし君』。伏見が新聞で取材された時に行っていたものだ。あの新聞の取材を受けていたのは、およそ四年前。なので、まだ『ふし君』と呼んでいる可能性は大いにある。
そういえば、ヨウタは小学五年生の少年だった。なら、『し』という字を『J』と逆に書いてしまうこともあるかも……
「ないですねぇ……」
自分で思いついておきながら、そんなわけが無いということに気がついて、ため息をついた。子供はよく文字を左右反転させて書くことがあるが、流石に小学五年生だ。『し』を反転させるはずはない。
また振り出しに戻ってしまった。一応、この仮説も頭の隅において、色々と考えてみよう。
気がつくと外は虫の音が聞こえる程の暗さになっていた。だが、何も思い浮かばない。「ヨウタの自作自演だった」という可能性など、飛躍しすぎなものまで考えていたが、全て少し考えれば違うと分かるものだった。
こうなったらやることはひとつと決まっている。
数時間後、スルメは事件が起こった『××倉庫』の前に立っていた。車を出した時は外が暗かったのに、今じゃ日が昇りきっているほどの時間帯だった。
「やはりこんな時間をかけて誘拐するなんて考えられませんね……」
事件を経て、事件現場付近の廃倉庫は全て処理されたらしいが、この倉庫だけは残しておいたらしい。『ヨウタ君の思いが無くなってしまわないように』という願いがあったらしい。
とは言っても、廃倉庫は立ち入り禁止になっているので、外から見るしかできない。
ここで立っていてもしょうがない。周りの住民に聞きこみ調査を始めた。
大抵の人が知らない、もしくは覚えていないと言っていたが、一人だけ事件当日の様子を覚えているという人が一人いた。
住民:「昔のことなので、曖昧なこともあるんですけど……その日、廃倉庫なのに、いきなり白い大型車が来たんです。なんだろうって、不思議で見てたら、家の中から見えない、倉庫の入口がある裏側に行っちゃって。だから外に出たんですけど、その時にはもう白い大型車はどこかに行ってて、倉庫の扉の鍵は閉まってました。」
『××倉庫』の入口は、住宅が並ぶ町とは裏側の、海側にある。なので、中のヨウタと伏見を下ろした場面を誰も見ていないのだろう。
「でも、一応おかしいと思って、警察に通報したんです。その時に車のナンバーを教えたんです。それで、三~五時間後ぐらいに、白い大型車がまた来て、その中の人が倉庫に入ってから数秒して発砲音みたいな大きい音が聞こえたんです。その時くらいに、多分追いかけてきたパトカーが倉庫に着いたんです。それでパトカーから降りて倉庫に入ろうとして。」
やはり、発砲した時は警察に追われている最中だったのか。だから、『水』と書いてある紙を処分出来なかった。
「そのあと、大型車の運転手が、多分なんですけど、誰かを抱えて白い大型車に乗って逃げたんです。それに気づいた警察も、パトカーに戻って大型車を追いかけてました。そこまでが私の知っていることです。」
恐らくその大型車の運転手が全ての事件の犯人。だとしたら、運転手に抱えられていた人物は誰なのか。それが高橋 伏見なのだろう。高橋伏見の指紋も残っているから、伏見を誘拐すれば、犯人に見立てられる。
スルメ:「情報提供、ありがとうございました。是非事件解決に役立てます。」
住民:「そういえば、あなた誰なんですか?」
「私はネットで探偵をやっている者です。スルメと言います。」
「あぁ、あの!ちょっとお茶でも入れますから、少し上がってくださいな。」
「え、あぁ…」
言われるがままに、家に上がってしまった。お茶を入れてもらって、少し飲むと、その人はサイン用の紙を持ってきた。
「うちの息子があなたのファンで、サインだけ貰えますかね?」
「全然いいですよ。」
ペンと紙を受け取って、サインを書こうとすると、その人は言った。
「あ、ちょっと動画を撮りたいので、こっち向きで書いて貰えますかね?」
変な注文をする人だな、と思いつつサインを反対向きに書いた。書きずらかったので、『スルメ』のたったの三文字なのに変な文字になってしまった。
「反対になっちゃいましたけど……書き直しますか?」
「味があって逆にいい感じですよ。」
反対から書いたから左右が反転してしまった。左右反転?……もしかして。
「あの、ありがとうございました。急用ができました。」
「え、ちょっと!?」
スルメは急いで家から飛び出した。一つの考えが生まれたのだ。
犯人は高橋 伏見だった。ヨウタを誘拐した伏見は、何かをさせようとして、ヨウタに紙を渡した。だが、急用ができて、伏見は大型車でどこかへ行った。その際に、ヨウタは住民が来たのに気がついて、『ふし君』と書こうとした。とにかく犯人を伝えようと必死だったのだろう。だから、住民のいる方向に向けて、反対向きで、文字を書いた。その際に、『ふ』が書きにくかったので、カタカナにしたのではないか。
結果、『し』を逆向きの『J』と書いてしまって、『フJくん』という文字になってしまった。それがくっついて『水』という字に誤解されてしまった。
「犯人は高橋伏見さんだ。」
まだ続きます。