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4話:戦争を呼ぶモノ

『———14コロニーの税関、来ました』


———ここは、コロニーに向かう輸送船。その、貨物室の中。

船体には大きな文字で『13コロニー発 食料品輸送』と書かれているのだが、そこに鎮座しているのは似ても焼いても食えない巨大な人形兵器。ロボティック・アーマーが13機である。


そして、その内の1機に乗り込んでいるパイロットが輸送船と通信を行っていた。


「了解。輸送船、180度回頭して加速せよ」

『了解。加速掛けます』


船が回頭すれば、後方の貨物室にいる彼らの目線からも自分達の方へと向かってくる船の存在を確認することが出来た。

これは税関の船だ。コロニーに危険物を持ち込まれると困るため、港の1万kmほど手前でチェックをしに来るのである。


「総員、耐ショック備え!!」


随分と若い声をしているが、全機体に指示を出していると言うことは彼がこの部隊のリーダーなのだろう。

そして、その指示が出された次の瞬間には輸送船が加速を掛ける。それも、単純に前方に進むのではなく後ろ向きに加速を始めた。お尻を突き出して奇妙な格好で発進した輸送船は、ゆっくりと近寄って来た税関の船を通り越してコロニーへと一直線に進む。


しかし、格納庫の彼らだって『耐ショック備え』だ。

食料品を運ぶ船にRAを積み込むために急ごしらえで用意された簡易的なストッパーは今にも壊れそうなほど軋み、RAはガタガタと激しく振動する。


それもやがて慣性によって落ち着けば、彼は再び輸送船へと通信を繋いだ。


「税関の様子は如何か」

『振り返りましたが、攻撃を仕掛けて来る様子はありません。……でも、通信が来ました!如何したと』

「了解。『ブレーキとアクセルを間違えた』と返信しておけばいい。そして———」


軽口を叩きながらも彼は思考を巡らせる。思念で機械を操作するトランス・システムを通して、RAに搭載されているセンサーの数字に目線を通した。

加速度計によれば、加速度は秒速0.1km。現在の速度は2.5km/sらしい。


「———5km/sに到達するまで速度をそのまま。我々は25秒後に発進する!」

『了解!……御武運を』

「そっちこそ、無事に戻りなよ」


輸送船との通信が終わると、彼はすぐさま他の機体へと号令を掛ける。


「ストッパー外せ!25秒後に私とバシュト大佐が発進する!それを追って発進せよ!」


彼の指示に合わせて各々がストッパーを外し始め、同時に格納庫の大きなハッチが開放された。目の前に広がる広大な宇宙空間。そしてその先に位置している爪楊枝のようなコロニーを見据え、彼は機体を動かし始めた。


すると、彼の対面に位置しているRA ———恐らくバシュト大佐が乗り込んでいるであろう機体もまた、彼に合わせて動き始める。

そして、二機が並び立ったタイミングで彼の元に通信が入った。


「随分と緩い警備だな。この14コロニーとやらは」


聞こえて来たのは女性の声だ。年齢を感じさせない声の張りから若い女性のものだと分かるが、それを感じさせないほど低く、冷たい。


開口一番嫌味が飛んで来たことに対して彼はため息を吐く。


「データ上は、複数のコロニーを経由した上で同盟コロニーの13コロニーを発進した輸送船だ。杜撰にもなるさ」

「ああ。そんな浅い考え方だから、簡単に地球に降伏したのだろう」


相変わらずネガティブな応答が続くが、ここで25秒が経った。


「……よし」


速度計が秒速5kmを指していることを確認すると、彼は通信に向かって叫ぶ。


「———()()()()()()()()()()、コスモスシューターⅢ!出撃する!」


そして、隣のバシュトもまた宣言する。


「バシュト大佐、バステト!出撃する!」


彼らが飛び出せば、残りの機体は黙々とその後を追う。

そして———最後に残った一機が、名を名乗った。


「ユーゴ・ネフィリム、セクメト。出る」



13機によるRAの編隊。その大半は盾とビームライフルを構え、バズーカを背中に取り付けたコスモスシューターⅢだが、アーロンと共に先陣を切るバシュトと、殿のユーゴの機体が他と異なっている。


バシュトのバステトは本体こそコスモスシューターⅢなのだが、背中にミサイルポッドのような兵装を二つ背負っている。また、バズーカを取り付ける箇所に大型のジェネレーターを搭載しているようだった。

しかし、それ以外の変更点は見当たらない。特別な型番を付けずともカスタム機の扱いで十分にも思える。


しかし、対するセクメトはこの編隊の中で異色を放っていた。

コスモスシューターとは似ても似つかず、視野を広げるのであればモルター・オーバンの操るフォートレーサーが一番近しいだろう。機体の色や形はともかく、ずんぐりとしたフォルムとゴテゴテとしたスラスター群は同じコンセプトである。

しかし、防御重視のフォートレーサーと異なってセクメトは腰部側面に2つ、肩部に2つの2連装ビーム砲台を備えて火力に特化している。一斉射撃を行えば手持ちのビームライフルと合わせて9本のビームが放たれるのだから驚異的だ。


また、二機2組のコスモスシューターはビームライフルの代わりに巨大なビーム砲を担いで運んでいる。

これは対艦砲だ。艦艇を焼き貫くほど強力なビーム砲をコロニーに運んで、一体何をするつもりだと言うのだろう。



「……よし」


RAの編隊は慣性方向に加速し、秒速10kmまで加速して落ち着いた。他の機体もスラスターを切ったのを確認してアーロンが全体に通信を飛ばす。


「作戦通り、私とバシュト大佐で正面の血路を開く。他の機体は対艦砲を援護せよ。いつコロニーの駐留軍が———」



———そう、指示を出そうとした瞬間。彼は視界の先に光を捉える。


「!軍港付近からビームを確認、数6!各々左右に散開!」


彼の発声から7秒後、熱源レーダーがビームの存在を感知。しかし、彼が事前に通達していたお陰で動くこともなく回避出来る。


「続いて連続射撃。ペアの左方向は私に追従し、残りは上昇せよ!」


続くビームも彼が認識し、指示を出していく。


「意識がない。ふっ、AI搭載のRAか」


隣のバシュトが前方に意識を集中させ、やがて嘲笑するように息を吐く。

だんだん光とビームが届くまでの時間が短くなっているということは、彼女の予想通りコロニーから出撃したRAがこちらに接近しているのだろう。


「ああ。AIでもなければこの速度で出撃はできないだろうよ」


彼女の言葉に返答しつつ、彼は逡巡する。今は指示を出してビームを回避させているが、このまま直進すればいずれコロニーのRA隊とぶつかるだろう。当座凌ぎでしかない。となれば———



「———全機減速せよ!私とバシュト大佐が突出して攻撃を引きつける!」


アーロンは即座に指示を飛ばし、編隊が動き始める。


「私が従うことを前提にしているようだが、許可はないのか」


その隣に着いたバシュトが嫌味を漏らすと彼は戯けた態度で返した。


「あのね、俺隊長よ?あんたの方が強いかもしれないけど、今は従ってもらうよ」

「自分よりも能力の低い者に扱われるのは気に食わん」


そんな軽口を叩き合いながら、秒速1000kmで迫り来るビームをスイスイと躱す。

やがてRA群の距離が3000kmに迫り、その機影がレーダーに映る———と思ったその瞬間だった。


「ん?」


レーダーの端。誰もいないと思っていた場所に赤い点々が現れる。


「俺が気付かなかった?戦意がないのか」

「……ふっ」


彼は眉を顰め、それに応えるようにそちらに意識を集中していたバシュトが笑いを零す。


「なんとも弱々しい意志だ。敵を前にして戦う気力がないらしい」

「戦う気力がない?……まさか!」


曖昧で、抽象的で、一般人にはよくわからない言葉だが、それを受け取ったアーロンには思うところがあるらしい。しかも、焦ったように全機体に通信を繋ぐ。


「総員気をつけろ!どうやら()()()()()()らしい!」

「演習?なんだそれは」

「このコロニーに設立しているパイロット学校だ!戦意のないRAは絶対に攻撃するな!一般人への攻撃は国際法違反になるぞ!」


急な指示になったが、とりあえず最後に罰則を持ち出すことで威圧を掛けておく。

通信の終わり際に飛んできた6連続ビームを一つの動作で見切りつつ、彼は頭を抱えた。


「なんてことだ!この位置だと学生を巻き込むぞ……」


戦場を変えたいのは山々だが、タイミングが悪い。ここで背を向ければAI機に対して不利な戦いを強いられる。


「学生を巻き込んで問題などあるのか?いつかは軍人となって殺す生命だろう」


……そして、威圧を掛けておいたのに、それを苦にも思わない人が一人。


「冗談を言うな」


その発言に対するアーロンの声は低く、戯けた様子は消え失せている。そして、彼女を態度や罰則で威圧しても意味がないと感じたのか方向性を変えた。


「……あの中に()()()()()がいる可能性を加味した上で、その発言をしているのか?」


ターゲット。

その単語を聞いたバシュトは逡巡するが、やがて諦めたようにため息をついた。


「あの気配にターゲットがいるとは思えないが、まあ積極的に殺す価値もあるまい」

「ああ。それよりも本体が来るぞ」


彼の言葉に合わせるようにレーダーが反応を示す。その端に捉えた6つの高速飛翔体は自分たちの元へ向かっているRA群である。

距離は3000km。そんな遥か遠くに意識を集中させ、バシュトの目が見開かれる。


「バシュト!」

「ああ———ゆけっ!」



———そして、彼女が叫ぶのと同時にバステトのポッドから8つの飛翔体が放出された。

それはミサイルではなく、小型のビーム砲を乗せたドローン。搭載された複数のスラスターが火を吹き、慣性を利用したハイスピードでRA群へと突進して行く。


「地球人のAIがどの程度なのか。見定めさせてもらおう」


戦場にドローンが増えたことに対して、AIはどのような判断を下すのか。

彼女は9つに増えた体に意識を巡らせ———


「……なるほどな」


———6機は、ドローンなど眼中にないように彼女とアーロン目掛けて攻撃を続けている。


「全方位を囲まれる前なら、ドローンは無視して本体を攻撃しろと」

「教本通りだ。しかし、近づかれてからはどうなるのか」


彼らの言う通り、しばらくの間AIの戦術は変わらなかった。AIが攻撃を仕掛け、エネルギーを節約したい彼らはただ避けながら距離を詰めるだけの時間。


しかし、先行しているドローンが100km、80km、60km……と近づき、その距離が50kmに差し掛かった瞬間。全機の動きが一転した。


「———来たか」


彼らはバックブーストを掛けて減速しつつ、その銃口をドローンへと向ける。しかも、二機一組で一つのドローンを狙う作戦らしい。

偏差射撃、直接射撃、ランダム射撃。それらを織り交ぜた弾幕が、一斉にドローンを見舞う。


「一機の直射では避けられて終わりだからな。AIらしい無駄のない連携を活かしたか」


普通ならばそれで墜とせる。しかし———



「———このバシュト、見くびっては困る」


———こいつは、普通じゃない。



彼女は八機のドローンから送られてくる情報を全て統合し、ライフルの向きから狙われている機体とそうではない機体を瞬時に判別。射線を計算して移動してはいけない場所を読みつつ、必要のある機体だけを動かす。

そして、必要最低限の回避行動を取りつつも安全な機体は攻撃に回した。


「アーロン」

「分かっているさ」


さらに、本体からも援護射撃を飛ばしてAIに防御行動を取らせる。防御や回避によって弾幕が薄まった隙に、ドローンを散開させて全方位に回り込ませた。

蠅のように纏わり付き、他の機体の射線上に位置することでフレンドリーファイヤーを警戒させてAIの攻撃を封じる。


「所詮はAIか」


全方位からの連続攻撃が一機を包み込み、四肢の関節を焼き切って戦闘不能へと陥らせた。また、ビームライフルも焼き切って遠隔操作も封じる。

しかし、所詮AI……と笑っていたバシュトだが、次の瞬間にはAIゆえの無情を感じることとなる。


味方を助けられないと踏んだ他の機体は、即座にその機体を見捨ててドローン群から距離を取ったのである。間合いを取りつつも今度は五機で一つのドローンを狙い、飽和攻撃によってターゲットを包み込む。

対するバシュトは———


「その姿勢、こちらも習わせてもらおう」


———意趣を返す。

狙われた一機を犠牲にして他の七機でカウンター。低出力のビームを3つずつ照射することで一機のライフルを破壊する。位置関係の問題でもう一機には防がれるが、手の空いたドローンで移動を制限しつつ、すぐさま他機も散開してそれを全機で取り囲んだ。

取り囲まれた機体は急加速を掛けて包囲網を抜けようとするが———


「———甘いな」


移動先を読んで放たれた四つのビームがライフルを両断。残る三連撃が左足を切断し、バランスが崩れたところに本体から飛ばした二つのビームを照射してコクピットを貫いた。

それはバックパックに誘爆して大爆発を起こし、六機体中二機目が撃墜される。


残る四機は後退しながらドローンへの射撃を続けるが、三つ程度のビームライフルでバシュトのドローンを落とせる訳も無い。だが、その程度のことにAIが気が付かないはずもなく、囲まれる前に別の動きを取ってくる。

バシュトたちとの距離が100km程度まで近づいているため、ドローンへの対処を諦めて本体への突進を決行。ライフルを落とされた機体をドローンへの盾にしつつ、彼女たちへと一直線に迫って行く。


———しかし、彼女たちはビームを避けつつもすぐさま急速下降。AIがそれを追って下降しようとすれば、そこにはドローンと本体による九連続攻撃が迫っている。ブレーキを掛けて被弾こそ避けるが、距離は開いた。

そして、その隙に彼女たちはドローンの背後へと回り込むのだった。


AIの作戦はドローンを無視して本体を叩くことなのに、その行手を遮る位置にドローンが位置してしまった。もう無視はできない。

AIらの目論見は早くも失敗に終わり、バシュトとアーロンがトドメを刺しに行く。


「終わらせるぞ」

「ああ」


ドローン群を壁のように突っ込ませ、本体もそれに追従して中距離戦闘に持ち込む。

あちらこちらのドローンで時間差攻撃を仕掛けて翻弄しつつも、本体からのビームを打ち込むが、それらは躱される。さすがはAIの回避力だが、体勢移動に手間取って攻撃がままならない様子だ。


やがて彼らの距離が50kmを切ると、アーロンと共に一機のドローンが脇へと逸れた。遊撃部隊としてAI部隊の側面に回り込み、バシュトが中距離戦闘を行なっている間に近距離まで接近して攻撃を仕掛ける。


「そこだ!」

「言われずとも」


一機に狙いをつけて側面からビームを打ち込めば、すぐさまAIは回避行動を行う。しかし、そこには8つの攻撃が迫っていた。

時間差攻撃から一転した連続射撃。回避先の、そのまた回避先を狙った、レーザートラップのような攻撃を掻い潜り、唯一の隙間を潜り抜ければ———アーロンが待ち構えており、超至近距離からバズーカを打ち込んだ。

ビームコーティングを無視した徹甲弾がコクピットを貫き、バックパックを巻き込んだ大爆発が胴体を消滅させて四肢を散らばらせる。


「ゆけっ」


それに合わせてバシュトは全てのドローンを散開。中距離から近距離に近づけて、アーロンと共に全方位攻撃を仕掛けに行く———のだが、それらが到着するまでには多少の時間が掛かる。


「とほほ、隊長機がドローンの役回りかぁ」


彼は自分を取り囲むように散開して来た残り3機のAIと相対。砲台の向き、熱源の具合から射線の移り変わりを読んで最適な位置に移動し、最短の動作で攻撃を躱す。

生きもつかせぬ三連続、三方位攻撃をとにかく回避。回避すれば着いてきたドローンが一の矢を入れる。


相手がそれを避けた隙にこちらも一撃を———入れるつもりだったのだが、AIはドローン一機の攻撃を脅威には思わないようでそれを無視して攻撃を続けて来る。


「へぇ。やはり、リスクとリターンの見極めはそれほど悪くないな」


前方から飛んできたビームを半身を向けて回避。頭上を狙った偏差射撃が空振りする下で、体を逸らしつつ降下。背後から飛んできたビームも回避する。


「やはり地球の技術は優れている。……いや、宇宙が遅れているのか」


減速することで下降先を狙ったビームを避け、なおかつサイドに移動して頭上からの攻撃も避ける。宙返りで背後の攻撃を紙一重で躱すと、真下を向いたタイミングで急加速して距離を取りに行く。

すぐさま自分に向けられた砲門を眺めながら彼は小さくため息をついた。


「でも、この程度なのか。AIが人間を越えれば人間同士のくだらない見下し合いも減るだろうに……」


かつての真上であり、今の足元から飛んで来る三連続ビームを回転とサイドスラスターで回避。三機は彼に追い縋ろうとするが———そこでバシュトのドローンが到着した。


「終わりだ」


AIはアーロン一人に構っていた訳ではなく、コンピューターゆえの並列処理能力でドローンも察知。張り付かれる前に移動するが、下降していたアーロンが攻撃に転じる。


進行方向を潰すビームが真下から立ち上り、一機がブレーキを掛ければそこにドローンが張り付いた。


「無駄に視野が広く、マージンばかりを追い求めるAIらしい負け筋だ」


———最適解を選べず、一瞬の隙が生じれば命取り。

全方位攻撃が四肢を切り飛ばしてそれを戦闘不能へと追い込んだ。そしてアーロンの追撃がライフルを焼き払うのである。


残ったAI二機はドローンが射撃で足を止めたところを狙い撃とうとするが、バシュトは射撃のタイミングを微妙にズラしている。そのため、AIのターゲットを食らったドローンは被弾寸前にその場を跳ね飛んで回避に成功した。

そして、間髪入れずに上空に回り込んだバシュトがビームを同じ仰角で2連発。一機はそれを盾で防ぐが、2発目を防ぐ前にドローンがその手首を切り落として盾を弾き飛ばす。

そのためビームはガラ空きの腕を伝ってコクピットへと直撃するが、一発はビームコーティングによって耐えられた。しかし、すぐさま斜め下からアーロンの一撃。それを避ければドローンが張り付き、随伴機がその撃墜を試みるが、一発撃ったところで一機がサクッと避けるだけで何の妨害にもならない。


そして、バシュトの作戦通りドローンによる6連続攻撃がその機体の右手足を両断した。続くバシュトとアーロンの2連撃はギリギリ避けられたが、そんなものは撃墜までのタイムリミットを微妙に引き伸ばしただけだ。ドローンによる追撃が残る四肢も亡き者にするのだった。


最後の一機についてもドローン群が近づき、狙われれば回避し、一機が回避している内に他機が近づき、張り付き———



「———ん?」


———至近距離から腕を狙って来るドローンに対してAIが照準を定めた時、彼は何か”違和感”を覚えた。

しかし理由が分からない。急所を突くような鋭い射撃ではないし、自分も射角の外だ。遅れて駆けつけて来る分隊に当たる角度でもなく、どうせターゲットのドローンも避けるだろう。


違和感の理由を考えつつもふとレーダーに目線を向けると———


「———!?」



———レーダーの端、遥か遠くに散らばる複数の赤い点。

あそこにいるのは———



「!」


———そう、学生だ。AI機の射線上に、学生の機体が位置している。


その機体からビームが発射される寸前にドローンは退き、同時に他のドローンから放たれた一斉射がその機体を切り刻んだ。

しかし、本体は達磨と化しても放たれたビームの意志は途絶えず———


「何してんの!」


———それは、アーロンの撃ち放ったバズーカ弾を貫いて拡散するのだった。


彼はビームとバズーカ弾の速度を瞬時に計算し、その射線上にバズーカを放って盾としたのである。


「何故学生が射線上に来るようにドローンを配置した!」

「まさか、AIがここまで愚かだとは思わなかったのさ」


彼の追求に対してバシュトは肩を竦める。


「AIならば攻撃はして来ないと読んだ上で安全地帯として利用しただけだ。お前だって学生を巻き込まないことよりも戦略上の優位を取っただろう?文句は言うまい」


ここで戦えば学生を巻き込む可能性があると分かっていながら、背を向けた時の戦略的不利を考えて戦闘を決行した。だから、自分が学生を使ったことに文句は言うなと。


「くっ……」


言いたいことは沢山あるが、彼女の言い分も一理ある。

それに結果的には無事に終わった話だ。せっかく邪魔な機体も倒したのにここで立ち止まるのは無駄でしかない。


彼は分隊へと連絡を入れる。


「障害は排除した!全機加速!」

「了解」


コロニーまでは残り3000km程度。彼がバシュトと共に加速を掛けると、ほとんどの隊員がそれに従って加速を始める。



……()()()()

ただ一人だけ、それに従わない人間がいた。



「アーロン大佐。私は別行動を取って良いかな?」


アーロンの耳に届くのは、殿を務めている()()()の声だ。

その通信……というよりも、彼の声を聞いたアーロンは誰の目にも明らかなようにげっそりと頬をこかして返事を返す。


「……何か、理由があるのですか?ユーゴ大佐」

「そう気負わなくてもいいのだよ、アーロンくん。私は自由奔放な遊撃部隊なのだから」


バシュト相手には軽口を叩けるアーロンが明確に硬い言葉を使っている。階級は同じでも彼らの間には明確な立場の差が存在しているようだった。


「分かりました。ただ、学生は攻撃しないように。それだけは従ってもらいます」

「分かっているよ。()()()()()()()()()()()()()()()に少しは応えられるようにしよう」


許可を取る前から別方向に加速を掛けていたユーゴは、上部だけの言葉を返して通信を切るのだった。


「ユーゴ・ネフィリム……。生意気な男だ」


どの口が何を言っているんだと突っ込みたいところだが、それで彼女を変に刺激するのも気が引ける。とりあえずは目の前の作戦に目を向けよう。


「AI部隊が出てきてから10分か。コロニー到着まで6分程度だが、他の機体が出て来ると思うか?」


彼が質問を振ると、彼女はまたもや嫌味らしく笑いを漏らす。


「ふっ、それくらい自分で感じられないのか?」

「感じろってねぇ……」


真空を挟んだ3000kmの彼方に想いを馳せ、彼は肩を竦めた。


「分からない。けど、感じないってことは来ないんだろうよ」

「……」


……彼女の無言は、本当に否定も肯定もどっちつかずで困る。


「おいおい、俺の勘なんて増幅した並列思考の副産物でしかない。バシュトのサイキックとは違うさ」

「いや、そうは思わん」


揶揄ってみれば、彼女もまた冗談混じりに返す。


「お前の並列処理能力をサイキックと認めないことは一般人への見下しかもしれないぞ?」

「馬鹿言え。そんなに優れているってんならバステトは俺のもんだぜ?俺だってドローンをビュンビュン飛ばした———」

「冗談だ」


……が、馴れ合いは唐突に終わった。


彼の言葉を遮り、彼女は前方へと意識を集中させる。そして、再びドローンが射出された。移動中はポッドへと戻して充電していたのである。

それを見てアーロンも目下の戦闘へと備える。


「偽装くらい見破れるだろうけど、ハッチには攻撃を仕掛けるなよ?」

「分かっている。下手に手の内は見せん」


ドローンが先行し、その後ろを彼らが進む。

暫くすれば近づいて来たドローンをコロニーからの対空砲火が見舞うが、AIによる自動照準らしく数も少ない。


張り付かせたドローンに対空兵装を潰させながら一直線に進み———何事もなく、50km圏内の中距離まで辿り着いてしまった。


「本当に杜撰なものだ。エースパイロットを全員投入するような作戦だったのか?」

「さっきのAI編隊を思いだせ。無事に切り抜けられたのはあんたと俺のお陰だよ」


“エースパイロット”

その言葉のせいでユーゴのことを思い出してしまったが、頭を振って追い払う。他機に連絡を繋いで指示を出さねば。


「総員、作戦通りの配置につけ!軍港は我々が抑えるため、コロニーの回転に合わせた移動を心がけるように!」

「了解」


彼の指示に合わせて部隊が散開し、コロニーから50kmの位置に取り付くと回転に合わせて移動を始める。

その指示に反するのは、その場で待機しているアーロンたちと対艦砲を担いだ四機であった。


「バズーカを借りるぞ!」

「あ、了解です」


アーロンは対艦砲部隊の背負っていた計4本のバズーカを回収し、それを両手に抱えてバシュトと共にコロニーへと一直線に駆ける。

そして、彼らに対して個別の指示を飛ばした。


「対艦砲部隊は照準合わせ!ただし絶対に撃つなよ!威嚇が目的ということを忘れるな!」

「了解!」


彼らは待っていましたと言わんばかりに口径10mを超える対艦砲をコロニーに合わせ、そのストッパーを外す。すると砲口及び砲身が切れ目に合わせてラッパ状に広がり、最終的には口径20m近い大きさになった。

変形に従って側面から飛び出して来た持ち手に二機が足を乗せ、発射準備完了である。


「後は俺たちか……」


艦艇を焼き貫く破壊兵器を一瞥した後、アーロンはコロニーに対して意識を集中させる。

コロニーの軍港は壁に偽装されていることが多く、ただでさえ分かり辛い上に常時回転しているため本当に分かり辛い。


……分かり辛いのだが、アーロンはコロニーの壁面を並列処理で一斉に拡大して実質的な画像処理を行うし、バシュトは目を瞑れば人の存在を察知できる。


「そこだな?」

「今さらだ」


異次元の二人はすぐさま目星をつけた。そして———


「———今」


彼と彼女の呟きが重なり、それに呼応するかのようにコロニーの壁に偽装されていたハッチが開かれる。中はカタパルトになっており、駐留軍のジェネラルキャッパーⅢが高速で射出———された瞬間、そのコクピットに迫るものがあった。



———それは、アーロンの放ったバズーカ弾である。


「悪いな」


カタパルトの加速と徹甲弾の速度に挟み撃ちにされてコクピットは貫通。そして機体は大爆発を起こすのだが、発射の始まったカタパルトは止まらない。

爆炎を突っ切るように射出は続き、2、3、4、5、6。そしてその全てに、まるでそれが運命づけられているかのようにバズーカ弾が吸い込まれて行った。


———俗に言うリス狩り。彼らが出てくるタイミングを見切ってバズーカ弾を6連続偏差射撃していたのである。

連射速度の低いバズーカでどのように連射を行ったのかといえば、対艦砲部隊から回収したバズーカを宙間に並べ、手持ちの1つと合わせた計5つのバズーカで疑似的な連射を可能にしたのである。


あっと言う間に六機のRAが破壊され、6人が死に至った。軍港は度重なる爆発によってひしゃげ、カタパルトも使い物にならないだろう。


「やはり、AI機の通りか」


彼は目の前の戦果を喜ぶこともなく、冷淡に呟く。


……『AIの通り』とは。

AI機体群が最初に放って来たビームは到着までにラグがあり、彼はその原因が出撃タイミングのズレにあると考えた。そのためラグから出撃タイミングを計算し、この連続偏差射撃に活かしたのである。



ついでにビームも何本か打ち込んでおき、彼は全部隊へと通達する。


「軍港は破壊、及び制圧した!これよりコロニーへと通信を繋ぐ!」


そして通達通り、14コロニーのIDに近接通信の許可を求めるのだった。

突然コロニーが攻撃を受けているのだから、今すぐにでも、寧ろ自ら通信を持ちかけてきてもおかしくはないのだが、暫くの間沈黙が続く。


「臆したか」

「突然住処を攻撃されたら、臆しもするだろうよ」


やがて、30秒ほどの沈黙の後に通信がつながった。


「……あ、あの、どちら様でしょうか」


若い、女性の声。

ここは度胸と威圧感を兼ね備えた軍人が出なければならないのに……。まさに、誤用の通り”役不足”がすぎる。


「こちらは宇宙連合だ!名と階級を名乗れ!」

「ち、地球軍所属!サムル・ロバート少尉であります!」

「少尉?」


少尉では話にならん!……と一蹴したいところだが、彼はこの作戦の最終目標を思い出す。

加えてこのコロニーの型番が自分の居住しているコロニーと同じことに気がつき、通信管制の設備がどのような仕組みなのかについて思いを巡らせた。


そして、上官に話を通す必要性が薄いことに気がつくのだった。


「了解した、サムル少尉。まず一つ目の要求として、私の声をコロニー内に放送してほしい」

「そ、そちらの声をですか?……申し訳ありませんが、そんな設備はこのコロニーに———」

「サムル少尉、それは我々がコロニー住まいなことを知っての発言か?」


彼女はウソをついた。鋭く追求すれば、一瞬の沈黙の後に謝罪が返る。


「す、すみません!士官学校を出たばかりでド忘れしておりまして……!」


おどおどしているように見えて強かな女性だ。自分の利益になる嘘は平気でつくし、相手を刺激しないために嘘をついたことはカモフラージュした。


……しかし、『ド忘れ』は失言だろう。


「構わん。ド忘れと言うことは、知っているんだろう?」

「あ……」

「配属されたばかりで知らなかったと言うべきだったな。まあ、通信管制室の人間がそれを知らない方が不自然かもしれないが」

「……」


弱めだが追い討ちを掛け、ペースを崩して畳み掛ける。


「それで?繋げるのだろう?繋いで欲しいのだが、可能だな?」

「……はい。では繋ぎ———」

「待て、そちらのコロニーには我々のスパイを潜り込ませている。2日前に13コロニーから生活料品の輸送があり、その中に巨大なタンスがあったと思うが、そこに紛れ込ませておいた」

「っ……」


嘘だ。輸送は本当で、スパイは嘘。

真実に嘘を混ぜ込むことで疑心暗鬼に陥らせるが、正直そんな技を使わずとも十分な脅しになるだろう。


「外の光景は確認済みだと思うが、もしも放送が確認されなければ即座に対艦砲を打ち込む。少尉に何らかの手違いでコロニー数百万人を殺害する罪を背負わせたくはないからな。慎重に頼むぞ」

「……承知いたしております」


交渉成立。何らかの間違いで流されないような心変わりをされては困るため、彼女が通信を準備している内にフランクな話題を振る。


「そう案ずるな。我々はとある人物の身柄を欲しているだけだ」

「とある人物?」

「ああ。とある大企業の御曹司がこのコロニーに滞在していると聞いてな」


『大企業の御曹司』それを口に出した瞬間、通信先の彼女が息を呑む音が聞こえた。


「そ、その人はまさか……」

「ああ。彼の名は———モルター・オーバン」



———輸送船に潜伏し、AI機を撃墜し、6人を殺害し、コロニーを脅した、それらを行った要因がここで明かされる。たった一人の子供の身柄を確保するためだと、明かされたのだ。



「我々は地球連合である。要求はただ一つ、モルター・オーバンを引き渡せ」


モルターを14コロニーを包み込まんとするその波は、アムリタとカーリーをも飲み込んでいくのである。

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