2話:戦争なんてしないでよ
「アムリタ!」
「うん!」
潜航を掛けつつも敵機に向かって一直線に駆けるカーリーに対して、私は上昇し、ふわりと曲線を描きながら緩やかに移動を開始する。
有視界外戦闘では熱源レーダーを頼りに行動を読むため、これまでの6チームは動きの大きいカーリーに気を取られていたのだが……。
「———!」
———狙って来る。
見定めるような視線を感じた瞬間に、熱源レーダーが反応を示す。逆噴射で移動速度を下げれば、前方を閃光が通り過ぎて行った。
同時に、正反対に飛んで行ったカーリーに対しても一筋の光が伸びるのが見える。
「えっ!?」
通信を通して聞こえてきたのは軽い悲鳴だけだったが、その動きはエンバスによって感じ取ることができる。どうやら進行先を潰すように飛んできたビームにびっくりしたものの、盾で反射的に防げたらしい。
……2機で役割を分散し、レーダーを利用した精密な射撃。しかもそれらは行き先を読んだ偏差射撃だ。
自立式AIによる戦闘の過剰補助は演習において禁止されている。これらを手動で行っているのだから、射撃の腕前は並じゃない。
流石に、相手も6連勝中なだけある。
「!」
そんなことを考えていたら次弾が飛んで来た。
距離が取れている上で準備も出来ていた為、大ぶりな回避はせずサイドへの加速でサクッと避ける。
個人戦ならばもう少し距離を取っても良いのだが、それをすると前進速度を下げる必要があるのが致命的だ。下手に速度を落としてカーリーとの距離を離せば作戦が成り立たなくなる。
「気をつけて、相手の射撃は正確だよ!」
「ふんっ、一丁程度なら負けないね!」
相変わらずカーリーは凄い。足をピンと伸ばした加速姿勢で真正面から突っ込みながら、回転を駆使し、点のように迫り来るビームを回避している。
あたかもビームの側面を沿うようなその移動は到底真似出来ない。
……凄いけど、これは彼女に戦争をしてほしくない理由の一つでもある。
いくら本人が得意だからと言って、命を賭けた戦場で一番槍に突っ込むなんて、そんなの絶対に嫌だ。
死なれるのはもちろん嫌。そして、それを助けられないのがさらに嫌。
だって、二機が散開する必要のあるこの位置関係では何の手助けも出来ない。盾にすらなれず、彼女が墜とされる所を眺めることしかできない。そんなの絶対に———!
「アムリタ!」
……でも、今はそんなことを考えている場合じゃない。思考を切り替えよう。彼女が言わんとしていることは言葉に出されなくとも分かっている。
「そのままの速度で大丈夫!20秒後に中距離戦闘開始!」
「うん、宜しくね!」
現在、敵機との直線距離はそれぞれ150kmほどだ。
私はこれを100kmまで近づければ、スコープで相手の姿を捉えつつ、それなりの距離を取って回避も可能な支援体制が整う。また、カーリーは50km以内に近づけることで中距離戦闘に移行することが出来る。
そのタイミングが20秒後ということだ。
そろそろスコープの間合いに入るため、敵機にその照準を合わせる。本格的な激突までは時間があるが、相手の装備くらいは確認しておきたい。
これだけの腕前を持っておきながら、その場に留まって射撃を続けているのは少し気になる。射撃特化の機体ならば後退しながら引き撃ちを仕掛けてくるだろうし、近接戦闘の方が得意なのだろうが———
「……ん?」
———何だ、あの機体は?
地球軍の量産機である『ジェネラルキャッパー』シリーズがいるものだと思っていたため、視界に映ったRAの姿を見て面食らう。
量産機にありがちな全体的に角張って細さの目立つフォルムとは異なる、丸みを帯びたずんぐりとしたフォルム。生産性を考慮したブロック構造とはかけ離れた、さまざまな機能のくっ付いたゴテゴテとした構造。
さらに、光を弾く真っ白な機体色が目に眩しい。明らかに量産機ではなく、実戦向きの機体でもない。
……まさか、これが噂に聞く『専用機』と言うものなのか?こんな一介の中学生のために……?
「……カーリー!見たことのない機体がいる!」
「見たことのない機体?」
「うん。真っ白の太っちょな機体で、量産機じゃない!」
一人で考え込む前にカーリーに伝える。すると、それに対する彼女の疑問が頭の中に流れ込んできた。
「あっ」
……そうだ。未知の機体に気を取られて、全体的な報告が疎かになっていた。
スコープの照準を少しずらせば、その隣に陣取る機体の容貌が明らかになる。ブロック状の構造とヘルメットを乗っけたようなバイザー搭載の頭部が目立つのは、地球軍量産機のジェネラルキャッパーだ。
……ただ、量産機と言ってもその型式が普通じゃない。こんな演習に出てくるのは無印かⅡ、良くてⅢくらいのはずなのに。
四肢のスラスターを増強し、肩にセンサーをくっ付け、何よりも背中からビーム機銃を生やしたあの機体は———。
「———もう一つの機体はジェネラルキャッパーMKⅣ!双方手持ちの武装は盾とライフルのみ!」
「GC-Ⅳ!?そんな最新機体を演習に持ち出すなんて、これだから傲慢な地球人は……!」
ジェネラルキャッパーMKⅣ。それはGCシリーズの最新機体だ。
1週間ほど前に量産が発表された機体であり、コロニーに駐留している地球軍ですらその姿を見かけたことがない。
おそらくは前線でエースパイロットが使っているような機体で、少なくとも学校の授業なんかに持ち出せる代物ではないはずなのに……。
「気をつけて!この相手普通じゃない!」
最新機体と推定専用機。色々と滅茶苦茶なのだが、カーリーの心に畏れの色が浮かぶことはなかった。
……むしろ、喜んでいる。
「ふふっ……!仮想敵と戦えるいい機会だわ!」
確かに。いずれ地球軍を倒すのであれば、今後主力機となるであろうGC-MKⅣと戦うのは良い機会だ。
……相変わらず言いたいことは沢山あるが、感傷的になっている暇はない。
距離が縮まったことで回避の難易度が上がっているし、何よりもカーリーが中間戦闘距離に突入して本格的に戦闘が開始する。
レーダーやスコープからの情報はもとより、エンバスを敵に強く作用させて行動を読み取る必要がある。
だからこそ、真空を隔てて100kmの彼方にいるパイロットに思いを馳せて———
「———俺が正面からぶつかるっ!援護を頼む!」
「分かってますよぉ、モルター坊ちゃん!」
———来る。男二人の意識がカーリーに向いている。
「太っちょが来る!もう一機が援護して来るから、回避するなら太っちょを盾にする感じで!」
「どっち!?」
「避けるなら3時の方向!」
通信を繋いでいる間にも太っちょが———
「来いよ!父さんの作ったフォートレーサーを見せてやる!」
———フォートレーサーなるRAが、カーリーに対して自らも突進していく。そして、向かい合った瞬間にビームを放った。
彼は照準を左にズラしたビームを放つことで彼女を右へ誘導。援護射撃の射線に晒そうとしていたようだが、そこは私の連絡が一手早かった。
カーリーは敢えてビームが近い方向に飛び退き、それをギリギリで回避。だからこそ回避先を予測した援護射撃は文字通りに『的を外れ』、虚空を貫く結果となる。
「なんでそっちに!?」
援護射撃の男は慌てている。自ら危険を犯す回避方法に面食らっているのだろう。
しかし、初弾を躱した程度でこの驚きようとは……。これまでの相手は相当弱かったらしい。
「やるじゃねえか。だが。それくらいはやってくれないと……!」
「援護はどこ!?正々堂々戦えよっ!」
……いや、それはこちらも同じか。
ぬるい戦いに慣れていた双方の支援役は狼狽え、相反するように前線のパイロットが戦意を剥き出しにしている。
このままお荷物になる訳にはいかないため、ワンテンポ遅れて私たちも動く。
「く、クワッドサークルで援護しますよ!」
「ダメな方向は教えるけど、近距離の球面戦闘に持ち込んで!」
『クワッドサークル』とは、機体で四角形を描くように移動し続けることだ。トライアングルステップの四角形バージョンで、その規模がもう少し大きくなる感じだ。
移動によって四角形を描きつつも、各頂点にたどり着いた際に射撃を仕掛けるのである。射撃ポイントを高速でズラし、相手の回避を困難にする基本的な援護射撃術だ。
これに対する対策……と言うよりは、援護射撃そのものへの対策として近距離戦闘に持ち込むことがある。
これは2020年代の戦闘機同士のドッグファイトを連想して貰えば分かりやすいだろう。ドッグファイトでは、逃げる側が相手の攻撃を避けつつも相手の背後を取ろうと曲線移動を仕掛け、追いかける側もそれを追って同じような軌道で動く。そのため、それを俯瞰すると曲線、または円に近い軌跡が発生する。
対して、RA同士の近距離戦闘は二機が向かい合ってそれを行うのだ。一定の距離を取りつつも、相手の攻撃を避け、後ろに回り込もうとする。すると相手も同じように動くため、二機が球体の表面をグルグルと飛び回っているように見える。そのため、球面戦闘という俗称がついた。
要するに、混戦によってフレンドリーファイアーを警戒させて撃たせないということだ。
「10時!」
「ちっ、一騎討ちならこんな奴!」
フォートレーサーによる連射が降り注ぎ、カーリーはそれをただ回避する。そして援護機の射線を逸れるために大きく膨らみながらも、一直線に突っ込む。自分から攻撃を仕掛けないのは、彼をもっと引き付けたいからだ。
彼女は並列処理が苦手だとよく笑っていた。
直進と回避行動、援護射撃を気にしながら弾幕もばら撒くよりは、近距離戦闘が始まって『直進』『援護射撃』のタスクが消えてから射撃を始めたいのだ。
「おいおい、そんなロートルでこのフォートレーサーと近距離戦闘をするつもりかぁ?」
彼が馬鹿にするような笑いを浮かべているのが分かるが、気にしない。今に見ていろ。
二機の距離が5kmを切り、近距離戦闘へと突入し———
「殺るッ!」
「———っ!」
カーリーのビームマシンガンが火を噴くと、同時にフォートレーサーの体が沈んでそれを避けた。
「12時!!」
「分かってる!」
このまま機体の頭上を通り越して背後を取りたいところだが、それをすると援護射撃が直撃する。……そう、彼はそこに誘導するためにわざと沈んで隙を見せたのだ。
咄嗟の回避にしてはあまりにも合理的。やはり、ただ大口を叩いている雑魚キャラじゃない。
「っ、やるな……!」
カーリーが突進を掛けるように下降しながらビームマシンガンを叩き込むと、彼は盾でその攻撃を防いだ。
演習用に希釈されたビームの雨がビームコーティングに弾かれてキラキラと光る。この威力では盾を貫くなど不可能だが、被弾した際には専用のコンピューターによって実戦におけるダメージが計算されている。
蓄積されたダメージが閾値を超えればその部分の機能が停止されるため、ここでダメージを蓄積させるのは大切だ。
……しかし、最終的に破壊する必要が生じるのは盾なんかじゃない。
狙いたいのは、いつだってコクピットだ。
「っ———!」
的外れのビームが虚空を駆け抜ける直下で二機が交錯する。相対速度がぶつかり合う一瞬の刻。
カーリーは即座にコクピットをロックオンすることで、ビームマシンガンの仰角を自動でその方向へと向ける。
対する彼はその場で機体の角度を微調整。盾で射線を遮り———
「———チッ!」
———そして、彼女の放った弾幕は全てそこに吸い込まれてしまった。
……レバー操作でこんな数センチ、数度単位の調整を?
「なんて微調整!?」
二機が行き違った瞬間,堰を切ったようにスローモーションが解ける。
彼女も驚愕した様子だが、すぐにその意識を目の前の戦闘に戻す。流石……だが、そうも言っていられない。
「ふっ、そんなオールドタイプの操作で……!」
足をピンと伸ばしてスラスターの向きを固定しているカーリーは、戦闘機の如く蜻蛉返りをしてフォートレーサーへと向き直ろうとする。しかし、対するフォートレーサーは全身から青白い光を噴出してその場でクルリと回ってしまった。
……どうやら全身にくっついているゴテゴテは全てスラスターで、それによって柔軟な動きを実現しているらしい。
そして、蜻蛉返りの途中で自分に背中を見せている彼女に対して一方的に射撃を浴びせ始めた。
しかも、背中と正対出来る様に彼女に合わせた曲線移動を始める。スラスターを一方向に集中させた彼女とサイドに移動する彼では速度がだいぶ違うはずなのに、機体性能の差なのかそれすらもほとんど同じ。
……これでは、一生向き直れない。
「なんだ、そうやって戦場でも逃げ回るのか?」
「くそッ……!」
「はっ!ただ回避が上手いだけで戦場で通用するものかよ!」
追うフォートレーサーと逃げるカーリー。ドッグファイトの如く一方的な球面戦闘が始まっている。
———このまま黙って見ている訳が無いし、やはりその傲慢な心の内は気に入らない。
「このための後方支援だ!」
「っ!?」
今こそ観測役から解き放たれる時。
円運動を読み切り、エンバスでタイミングを見計らって狙撃を放つ。俗に言う置きビームだが……。まぁ、100kmも離れていれば当然対策はされてしまう。
「あのチキン、さっき通話した奴か!」
その通り。エンバスもない癖に良くわかる。
狙撃こそ避けられたが、その隙を突いてカーリーが体勢を立て直す。
「ありがと、アムリタ!」
「しまっ———」
そして流れるようにビームマシンガンを彼の背中に叩き込むが———また、防がれる。
もちろん盾による物だが、フォートレーサーの腕は動いていない。その腕は私の方に向けられており、逆関節を解放して後ろに回転させる余裕などなかった。
カーリーだってそれを分かっていたから撃ったのに、まさかの方法で遮られる。
「なにっ!?」
……盾はその手を離れ、一人でに宙間を滑って弾幕に割り込んだのである。
「なんだよそれは……ッ!」
カーリーは裏側に回り込もうとするが、盾は自律機動してその間に入り続ける。
反動を相殺するために設けられているような生半可なスラスターじゃない。自律型のドローンを飛ばすのはルール違反だと言いたくなるが、恐らくこれを動かしているのもAIじゃないんだ。
AIならば弾幕の飛んでくる箇所を正確に推測して盾の中心でそれを受け止めるはずなのに、行き過ぎそうになって戻ったり、逆に盾の端っこで受けて慌てて加速したりと動作が不安定だ。まるで、彼の心の内を表しているように。
———機体を制御しながら遠隔でドローンを操作するなど、10本の指と2本の足では到底間に合わない。
やけに繊細で有機的な動作で弾幕を防いでいた時から察してはいたが……。こいつは、恐らくアレだ。
「なんだこいつ……!」
「ドローンだよ!」
「ドローン!?」
「うん。あの機体、例の地球の操縦システムを搭載しているんだ!」
———噂には聞いていた。レバーを用いず、思念で機体を動かす地球軍の操縦方法。体を動かすようにRAを動かすため、柔軟な機体操縦が可能になり近接戦闘能力が大幅に強化されるらしい。
そして何よりも、思念という限界のない入力装置をインタフェースにすることでドローンやミサイルなどの並列操縦が可能になるらしい。
レバーと補助AIを用いたアナログ操作と比べて、圧倒的に有利な思念操作。それを目の前の機体が使っているのだとしたら……。
「脛齧りが見せつけやがって……!」
……カーリーが怒るのも分かる。
ただでさえこっちは一世代前の量産機なのに、あまりにも基本性能が違いすぎる。
「……ふぅ。それじゃあ、第二ラウンドと行こうぜ」
弾幕を受け止めている間に体勢を整え、悠々と盾を構え直したフォートレーサーが彼女に向き直る。
恥を偲ぶ心は無いのか……と尋ねたくなるが、そんなことを言っている場合でも無くなった。
「お前はこっちだよっ!」
悪意の視線を感じて下降。その直後に熱源レーダーが反応し、0.1秒後には自分がいた場所をビームが貫いて行く。そして、熱源レーダーに示されている敵機の赤い点が自分目掛けて急接近しているのが分かった。
そう、味方の援護ができないと感じたジェネラルキャッパーⅣが私に相対したのである。
……武装が段違いだし、速力も絶対に劣っている。困ったなぁ。
「落ちろよチキン野郎!」
ただ。悪意のお陰で攻撃のタイミングを見切れるのが助かる。しかも相手のパイロットはそれほど強くない。
射撃の内容も愚直に自分を狙った直接射撃か偏差射撃であり、せっかく背中の機銃と合わせて3門もビーム砲を持っているのにそれらを一斉射撃しかしてこない。
これだけ愚直で0.1秒も余裕があれば、レーダーを見てからでも回避は余裕だ。
しかも———
「うおっ!?」
私がビームを放てば、一瞬反応が遅れた後にかなり大振りに避けている。その隙に私が距離を取るから一向に距離が詰まらない。
……いや、寧ろ近づきすぎると攻撃を避けられないため詰める気がないのか?本当のチキンはどっちだ。
しかし、相手がその気ならこっちはこの気だ。
弱点を見せればそれを突くのが戦いの基本。近距離戦闘は私も苦手だが、やってみるしかない。
「な、なんだあっ」
私が突進に転じたことで彼は面食らうが、近接戦闘で思念操作の方が有利な以上、背中を見せて逃げるような真似はしない。
覚悟を決めたように正対し、盾を正面に構えながら突っ込んでくる。
……ここまでは予想通りだ。そして、裏を突くためには一人ではダメだ。彼女の助けがいる。
「カーリー、私が合図したらあの機体目がけて援護射撃をお願い!」
「援護射撃!?どれくらい!?」
「1秒でいいよ!」
「分かったよぉっ!」
彼女は相変わらずフォートレーサーと近距離戦闘を続けている。秒速1000kmのビームがわずか0.005秒で駆け抜ける5kmと言う至近距離距離で、神経を尖らせながら戦っている。
そのため関係のないことに雑念を抱かせたくはないが、このまま双方タイマンを続けて勝てるとも思えない。
だからこそ、今多少の無理をしてでも、さっさと目の前のコイツを墜として2対1に持ち込む方がベストと見た。
相手との距離が10kmに近づく。この時のための布石として『ビームは盾を使わずに回避する』『こっちからはビームを撃たない』を徹底して来たが、ここで方針転換だ。
ビームの三連撃を盾で防ぐと、それを左方向に投げ捨てた。
「なんだ!?」
ビームコーティングによって弾かれたビームのキラキラを纏う盾が、真っ暗な宇宙空間を舞う。エンバスで彼の視線が泳いだことを確認しつつ、その隙をついて正面からビームライフルを打ち込んだ。
……相手がわざと攻撃を封じているのならばその理由を考えて警戒しておくべきなのに、飛んで来ないことに安心して忘れている辺りやはり素人だ。
「今っ!」
「当たるかっ!」
彼は正面に構えていた盾で反射的に防ぐが、そんなの折り込み済み。だって本命は私じゃないんだから。
「なっ、なんだあっ」
突如として機体を襲った振動に彼は驚いている。……そう、カーリーに撃ってもらったビームマシンガンがその背中に直撃しているのだ。
盾で目線を逸らし、その隙を突いたビームライフルで注目を前方に向けさせ、防がせて安心感を与えたところに本命の援護射撃を背後から撃ち込む。
『手品師が右手を出したら左手を見よ』
目の前に分かりやすい危険が迫っている時こそ、俯瞰しなければならない。
彼は慌てて後ろを振り返るが、それは私に背を向けることと同義。同じミスを二度繰り返すようでは勝てるはずもあるまい。
取りついてビームソードを突き立てれば1秒ほどで目の前の機体の機能は停止した。撃墜判定である。